体罰と暴力

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大阪市立桜宮高校の男子生徒が自殺した事件以来、体罰をめぐる議論がかまびすしいようである。「義家政務官「体罰ではなく暴力だ」 自殺の事実解明指示」(asahi.com)などという報道もあり、これに対して「体罰は暴力に決まっているだろう」と反発している人々も見受けられ、一方では前者が必然的に有形力の行使を伴う以上その通りなのだが、「死刑によって殺人は減る」と主張している人に対して(いやその当否はともかくな)「死刑は国家による殺人にほかならない」と言うようなもんやな、とも思う。法による統制を受けていることによって死刑が単なる殺人とは区別されている(ことになっている)のと同様に、体罰も統制されていない暴力とは違うよねという立場もあるだろう(再び、その当否はともかくとしてだ)。要するに出だしの定義問題から混乱しているので、互いにわら人形を叩いている部分がある。

管見の限りではあるが、よほど極端な人を除けば「体罰のすべてを否定しきれはしないのではないか」と言っている人の想定にあるのは、次の2パターンであるように思われる。

  1. 対象となる行為と相当する罰・実施方法とも明確に規定され、実施のプロセスにも公開性・答責性が保障されているもの。イギリスの初等学校では長らく体罰が容認されてきたが、それはこのようなdue process (適正手続)を伴うものだったと言われている。この場合、手続きを外れた「体罰」は当然ながら正当化されることはなく、暴力事件として処罰の対象となる。
  2. 非暴力的な手段での指導に対して本人が応える気がないなどの理由で、「思いあまって」「最後の手段として」手が出てしまう場合。緊急避難にあたる場合や事後的な本人の同意によって許容される場合(「先生に殴られてオレ目が覚めたよ!」)が考えられなくはないが、法的にはスジが悪いところ、教師の教育力とかを信じている方々が擁護したがっているのはこちらのパターンかと思われる。

ポイントは、前者であれば罪刑の均衡や手続保障などの制約が必要だし、後者であれば例外的に許容される最終手段としての緊急性や「他の手段によりがたい」という性格が必要であるところ、何も不正・不当な行為をしたわけでもない生徒に対し・権力関係を背景に異議を抑圧した形で・反復継続的に暴力が加えられていた今回の事例はどちらにもあてはまる余地がないというところにある。

要するに今回の事例は体罰の正当化可能性とは関係ないところで発生した単なる教育現場の暴力という事案なのであって、教育効果云々の議論ではなく端的に刑事事件にすべきものだと、そう思われる。逆に言うと、前述の通り教育現場において弱肉強食的な無制約の暴力が行使されて差し支えないというエキセントリックな信念(戸塚宏氏などはここに属するのかもしれないが)以外にとっては論争の対象になるような問題ではない。

ピントの外れた言い合いをするより、とりあえずは関係教員の責任追及や体制改革の話に進んだ方がいいだろうと、そう思ったことであった。

* * *

ちなみに冒頭で言及した件、朝日新聞報道でも義家政務官は「そもそも体罰は法律で禁止されている」ことを踏まえ、本件については「安易に体罰という言葉が使われているが、これは継続的、日常的に行われた身体的、精神的暴力だ」とした上で、しかしありえる体罰は想定できる(例としては「ミスをしたらコートを10周」)と主張したもの。読売報道でも「今回の件は恒常的な暴力」「懲戒的に行う『体罰』と矮小化するべきではない」(Yomiuri Online)と指摘しており、基本的には上記のような区別を踏まえた発言になっている。要するに怒っている人々の大半は朝日の見出しに釣られたらしい。

「ありえる体罰」に言及するのもけしからんという主張はわからなくもないが、当面の問題としてはエキセントリックな人々に話を集中したほうがいいんじゃないかなと、そういう話。

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コメント(1)

>>「体罰は暴力に決まっているだろう」と反発している人々も見受けられ

山口二郎‏@260yamaguchi

暴力ではない体罰というものがあるのだろうか。義家という人は、暴力と懲戒としての体罰の間に線を引けると思っているようだが、これでは教師による暴力はなくならないと思う。

https://twitter.com/260yamaguchi/status/291010423958929408


いや、なんというか、おおや先生はよくわかってらっしゃるというか、山口先生はブレないなあというか、もはや、吉本のお約束芸の領域ですな。


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