続・ダウンロード犯罪化の経過について

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話題になっていた違法ダウンロードの犯罪化を含む著作権法改正案が15日中に衆議院文部科学委員会・本会議で可決されたとのこと(「リッピング違法化+私的違法ダウンロード刑罰化法案、衆議院で可決 」Internet Watch)。報道もされている通り今国会は議案の処理が非常に低調で、内閣提出法案ですら5月23日段階で25%弱という水準にあり、会期末が6月21日に迫っていることもあって(まあ衆議院の優越があるので延長しようとするだろうけど)このまま潰れるんじゃねえかなと思っていたところである。どうも与野党で対立していない法案についてはやっぱり処理しておこうと、ギリギリになってそういう空気になったようには見える。

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さて本件についてはすでに書いたことがあるが、内容面については現在の民事違法規定も活用できていない状況でさらにハードルの高い刑事制裁を追加しようとするもので、威嚇効果を除けば実効性は期待できない(そして威嚇効果については特に若い年齢層について期待できないことが、過去のP2P関係の調査などで示されている)。また、国民の治安に対する不安(それが実のあるものかどうかは議論がある)が高く、警察が対応に追われているなかで、言い方は悪いが直接的な死人の出ない違法ダウンロード行為の取締に捜査リソースを積極的に割くことも非現実的と思われる。

というわけで、当該行為を実際に行なった人間が相当の割合で捜査対象になるというような実効性の高い状態を作ることができるとは考えにくく、たまたま摘発されたアップロード側の情報をもとに威嚇効果を期待して数人摘発してみるとか、いわゆる別件捜査の端緒として活用する程度のことになると予想され、要するに権利者も権利侵害者も警察当局も嬉しくないということになりそうである。というわけで「誰得」

他方、手続面についてまた故障を申し立てている人もいるようであるが、やはり前述の通り内閣提出法案であろうが(あるいはだからこそ)修正案を出すのは議員の正当な権限である。自民党政権時代ですら、内閣提出法案について事前の合意を得ているのは党内部に限られていた以上(連立相手の政党もそこに100%組み込まれていたわけではない)、提出した法案に連立与党・野党からの異論が出てくるのは当然であり、議事進行を考慮してそれに妥協するという政治的決断がなされることも珍しくなく、その場合の手続きとしては議院内における修正案の提出ということになっていたわけである。まして民主党政権下では与党内の調整がろくに済んでいないわけであるから一旦議院に提出されたものがそちらでごちゃごちゃする可能性は高まっていると言わなくてはならない。

また、正直なところ内閣提出法案については合憲性・他の法律との整合性・立法の必要性などをめぐって内閣法制局による厳しい事前審査が行なわれていることが知られているわけだが、である以上そのあたりに問題のありそうな案件は議員立法で突っ込むというのは当然考えられる対応で、そこまで含めて立法プロセスだということになる。必要性・実効性に問題があるからこそ国会議員に直接ロビイングして修正案提出という形で実現することを権利者団体側が狙っていたのだとすれば正鵠を射ていることになるし、冷たい言い方にはなるが霞ヶ関で十分に抵抗して安心していた側の油断であると、そういうことになる。

文部科学委員会で議論がなかったということを問題視している人もいるようだが議論する必要があるのは異論があるからであり、当日の同委員会においてはそれがなかったのだから問題ないということになる。別の言い方をすれば、世の中には与野党が一切対立しない・ごくごく技術的な内容の法案も山のようにあり、それらについてすべて議論しなければならないということにすると国会がいつまでたっても終わらない。いや世間には反対者もいるのだという人はいるだろうが、南極の地下にはナチスのUFO基地があるのだと真剣に主張する人だって世間にはいるのであっていちいち相手ができるものでもない。適切な代表者を議会に送れていない時点で負けと、そういうことになる。

なお与野党で合意したから質疑がないといってもどこで合意したかわからないと書いている人もいるが、そんなもん文部科学委員会の理事会に決まっている。なお理事会は全員一致が原則であるところ、現在は民主・自民・公明しか(委員数の関係で)理事を出せていないので、この三党が合意すればなるほど終わり。ことほどさように現在の(特に日本の)民主政は議員個人ではなく会派(≒政党)単位で動作しているので、そこで決定権を持っている人にどう働きかけるか・意見を伝えるかというのが永田町的な観点からは重要になってくる(民主政のあり方論として「これでいいのか」と問うことは可能だが、この問題に固有の事情でもなんでもないことは理解しておく必要がある)。法律・制度を介して実際に社会に生じる影響を考えるとか社会を動かすことを目的とするのであれば、霞ヶ関だけでなく永田町の論理も理解しておく必要があるということだろう。

まあ要するに、この法案の内容について怒るのは十分理解できるが(個人的には不愉快だが怒るほどではないと思っているが)、手続きについて怒るのは自分の無知をさらけ出すことになるのでやめたがいいですよと、そういうことである。

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ところで、これも善悪を抜きにして技術的予測の範囲で述べることであるが今後どうなるかという話。まず衆議院で与野党合意に基づき成立したということは、各会派の意思決定が済んでいるということであって参議院においても同様の経過になる可能性が高い。なお参議院文教科学委員会の名簿も検索すれば出てくるが理事は自民・民主両党のみだし、同委員会の構成員20名のうち両党以外に所属するのは5名のみなので、どちらかの考えを変えない限り結果は変わらないだろう。

一旦成立した場合、上述の通り実効性は期待できない一方、偏った摘発や見込み捜査などによってかえって大きな弊害を生じさせる危険性はある。反対派としてはその点を追跡・批判して著作権法の再改正・犯罪化規定の廃止に持ち込むというルートを考えるだろうし、著作権法は毎年のように改正されているので刑法や民法のような基本法に比べればなんぼか楽だとは思うのだが、あくまで一般論として言うと一旦犯罪化したものの非犯罪化や刑罰の緩和にはそのような行為を助長・促進するシグナル効果があるという意見があって抵抗感が強い。この意見がどこまで客観的に正しいかはよくわからないのだが、刑事司法・治安関係者はかなりそう思っているという指摘はあり、確かに犯罪規定の明文による削除や刑罰の緩和が行なわれた例はあまりない。仮に時代の変化によってあまり適切でない規定が生じたとしても、それを捜査に活用したり適用しないという形での運用による処理が好まれているようではある(例としては軽犯罪法1条22号のこじき罪や、同13号のうち「威勢を示して汽車、電車、乗合自動車、船舶その他の公共の乗物、演劇その他の催し若しくは割当物資の配給を待ち、若しくはこれらの乗物若しくは催しの切符を買い、若しくは割当物資の配給に関する証票を得るため待つている公衆の列に割り込み、若しくはその列を乱した者」)。

成立してしまったあとでひっくり返すのはかなり大変になると予想されるので、頑張るとすれば参議院における審議のあいだ、特に委員会の理事として審議過程を止められる実権を持った人を対象にするべきだということになろうか(という話を書くあたり私もたいがい気のいいあひるなのであるが)。

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