増刷

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中野剛志(編)『成長なき時代の「国家」を構想する:経済政策のオルタナティブ・ヴィジョン』(ナカニシヤ出版、2010)がもう増刷になったそうです。おや。この本には私の原稿(大屋雄裕「配慮の範囲としての国民」)が収録されているのと、巻末の座談会(「第III部 討議 『経済政策のオルタナティブ・ヴィジョン』をめぐって」出席者:中野剛志・松永和夫・松永明・大屋雄裕・萱野稔人・柴山桂太・谷口功一)にも出ているので、本当は12月の記事で書くべき話だったのですが多少補足しておきます。

これがどういう本かというのは冒頭にも解題があるのですが、まず典型的にはGDP増加率で測定されるような経済成長の実現のみを経済政策の目標にすることは適切なのかという問題意識が編者である中野剛志さんなどにあり、まああまり適切ではないだろうという見通しがあったわけですが、それは特に日本の場合は将来の人口減少が予測されているなかで総生産だけを増やすというのは非常に難しいだろうという見込みがあるからだし、先進国を通じてみても状況は似たところがある。まあそれでもやはり総生産大事なので移民政策とか手を尽くして成長を実現するべきなのか、それとは違う考え方(オルタナティブ・ビジョン)があり得るのかという話で、後者の可能性を探るために組織された研究会に従来経済政策を論じてきたのとはぜんぜん違う層の若手研究者が集められたわけです。さきほどの座談会の面子を見てもわかるように政治思想とか法哲学とかまああまりお金の話に縁のなさそうな分野が多く、経済の人も経済思想ですな。

で、研究会では政策目標として「福利」(ないし「功利」「幸福」)といったものを掲げる功利主義の話とか、グローバライゼーションと国家政策の関係を考えるために割当責任論の話とか、政治思想としてのリバタリアンと共同体論の位置付けとか、日本における共同体の性格とかやっぱりあまり直接的に経済政策に関係しなさそうな話題でえんえんと盛り上がっていたわけですが、一方でそもそもみんなで経済成長しているというのが非常に特殊な時代状況だという柴山先生の指摘なんかも聞けて個人的には非常に面白かった。でまあ驚いたのはそういう直接的なご利益も乏しそうな議論を経済産業省の役人の人たちが結構えらい(従って忙しい)方まで含めて聞いておられたということであって、うんいやなんかやっぱりちゃんとした役所の中の人というのはちゃんとしているのだなあと、これはいつぞや警察政策フォーラムとかに呼ばれた際にも感じたことですが、思ったことでした。

で。そこでの議論を踏まえて中野剛志さんが中心にまとめたのが提言としての「オルタナティブ・ビジョン」で、しかし書いてあるとおりその内容に研究会に参加したメンバーが賛成しているというものではありません。たとえば私は、(あとの座談会にも出てきますが)提言の共同体志向的な点について、それが「悪しき共同体」の盲目的な保護に繋がる可能性には警戒感を隠していない。まあしかし内容的に興味深い論点を多く含んでいることは間違いないと思うので、ご参照いただければと思います。

続いて第二部は個々のメンバーによる論文ですが、私のはさておきやはり非常に面白い文章が多い。個人的には、日本における「家族」の性格を論じた河野有理さん(日本政治思想史)の議論を、アジアからの留学生に対する教育に使うためにもきちんと勉強しようとか考えているわけです。

で、第三部は経済産業省の方々も含めた座談会の記録ですがしかし妙な面子だねえ自分で言うのもおかしいけど。収録の際も話している相手が局長さん・課長さんだというあたりでどうしてこうなったとか思っていたわけですが局長さん出版のときには事務次官になられてまして。しかしそれでちゃんと議論が成り立っているように読めるのがとっても不思議。編集したナカニシヤさんが頑張ったのではないかというツッコミは禁止だ(分量的にだいぶ削ったという話は聞きました。すいませんやたら喋る人間で)。

というわけで、まあ基本的には研究会などで役所の方々を前にお話しするようなことですから、それぞれの専門を活かしつつも一般の方々が読めるような文章にしてある。いろいろな話もとり合わせて面白く読めるように編者の人が工夫したものですから、ぜひご覧いただければと思います。買うて

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