一般職員とビジネスクラス

| コメント(3) | トラックバック(1)

あ~この程度でも騙される人多いんだろうなあと思った話。「一般職員もビジネスクラス使えます 独法・国立大の6割」(MSN産経ニュース)で、「独立行政法人と国立大学法人の約6割が海外出張規定で、役員以外の幹部や一般職員に対し航空機のビジネスクラス搭乗を認めていることが29日、財務省が行った平成22年度の予算執行調査で分かった」と言うわけですが。

まず本記事の(ある程度やむを得ないとはいえ)不正確なところ。「政府では本省課長以上が原則のビジネスクラスの利用」と書いてあるが、そのような規定ではない。正しくは、「国家公務員等の旅費に関する法律」(昭和25年法律114号)の第34条に外国旅行の航空運賃に関する規定があり、要するに「指定職(......)、七級以上の職務にある者」はビジネスクラスを使っていいと書いてある。一般的な行政官に適用される行政職(一)俸給表の七級というと本省の室長(課長級)になるので(人事院規則9-8)、結果的に「本省課長以上」ということになるのだろう。じゃあ行政職(一)以外の場合はどうするかというと、それぞれの俸給表のランクをどのように行政職(一)に対応させるかという読み替えのルールがある。たとえば海事職(一)の場合に職階として設けられているのは「船長」とか「機関長」とかであって「課長」なる人がそもそも存在しないのであるが、行政職(一)七級以上に相当するのは海事職(一)六級以上という規定があるので(正確にはこれは昇給幅を抑制する給与法8条6項の適用対象に関する読み替え規則なので旅費の場合は違いがあるのかもしれないが)、「大型船舶(一種)の船長若しくは機関長又は困難な業務を処理する一等航海士等」が該当するのだな、というようなことがわかるわけである。

さてそこで国立大学法人の場合。事務職員はほぼ行政職(一)相当なのでいいとして、構成員の過半を占める教員については前述のように読み替えを行なうことになる。でまあその一般の方々には驚かれるのかもしれないが、そのルールによると教授がほぼ本省課長に相当するんですな(行政職(一)七級は教育職(一)四級=教授に相当)。である以上、ある国立大学が教授のビジネスクラス使用を認めるようなルールを持っていたとしてもそれは国と比べて甘いとかお手盛りだということにはならないはずである。

しかしここで問題なのは教授というのは管理職ではないという点で、つまり大学の教員組織で「管理職」と位置付けられるのは研究科長(学部長)と評議員(だいたい各学部1名)程度に限られており、他の教員は――私のように上司とか部下とかいう関係を持たない野良教員であろうと医学部・工学部のように巨大な講座組織に君臨する教授であろうと――「一般職員」だということになる。ルールとしては政府と同じ内容であっても、規定の正しい表現ではなく職階、さらに管理職か一般職員かという職務との関係によっても変わってくるので本来は職員としてのランクの高低に関係のない要素での表現を使うことによって、いかにもそこでお手盛りの甘い対応がまかり通っているかのような印象を与えることができるわけですな。

さらに念のために言っておくと、確かに規定上はおおむね教授以上ならビジネスクラスを使うことが認められているわけだが、これは単に使っても規定違反にならないというだけのことで利用する権利があるわけではない。つまりたとえば弁護士さんとかであれば問答無用でグリーン車とかビジネスクラスを使ってしまい、かかった金額を「必要経費」としてクライアントに請求することができるだろうが(いやまあクライアントの財政状況によってはそうもいかないんだとは言われるかもしれないが)、我々は一般の行政組織と同じようにあらかじめ決められた範囲の予算でやるべきことをやりなさいと言われているわけであって、さらに大学にはカネがない。自分が使途を決められる研究費等であればそんなところに使うより本でも買うわいという話になってしまうし、事務方やプロジェクトリーダーが差配している場合にはその人がいいと言ってくれないとカネが出てこない。いや正確には私だって准教授(規定上はおおむね本省課長補佐相当)なので八時間以上の空路であればビジネスクラスに乗ることが許されているはずなのだが(名古屋大学旅費規程35条1項3号)、そんなこと認めてもらったことねえぞ

要するにこれは「私には六本木ヒルズに住む自由がある」という話と同じであって、なるほど私はそれを強制的に禁止されてはいないのでそうすることが法的には可能なのであるが、しかし現実的にはそんなカネはどこにもなく、従ってできないわけである。国立大学法人の一般職員(である教授や准教授)にビジネスクラスの使用が許されていると言えば法的にはその通りだが、現実的にはそんなカネはないし、そのカネを出さないのは財務省である。要するにこれは国立大学等の予算をさらに削りたい財務省が「ヤツらは無駄遣いしている」と主張するために本当はそんな使い方をするカネなどないことを承知のうえで流したデータだと、そういうことなのだろう。

念のために言うと私はこの点について財務省を批判する気はあまりなくて、だって彼らは彼らなりの目的にとって有利に解釈できる・嘘ではない情報をうまいこと出してきたということなのだろうから、それはきわめて合理的で当然のことだと思う。問題はこういう意図を含んだ情報を出されたのに無批判に書き写して報道したつもりになっているマスメディアの能力にあり、まあしかしそんなもんだろうなと思わなくもない。結局事情が多少は分かっている当事者が喋ったほうがまだましだろうかと、そうも思うのだが。(7/14公開)

トラックバック(1)

トラックバックURL: http://www.axis-cafe.net/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/714

サッカー戦争中央公論社 リシャルト カプシチンスキ ユーザレビュー:1969年、中米でサ ...第三世界のアイデンテ ...Amazonアソシエイト by... 続きを読む

コメント(3)

昔の旅費法しか知らないので、現在は異なる運用がされているのかもしれませんが、旅費法上は決まった額の旅費を支払う必要があるのでは?(つまり、旅費法上、旅行者の旅費がビジネスで計算される場合、ビジネスを利用しようがしまいが、ビジネスで旅費が計算され・支給されるのでは?)。
昔、議員の旅費について調べたところ、議員の場合、ファーストで旅費が計算されるので、「私はエコノミーで行くからエコノミーでしか旅費を請求しない」と言った場合、法令や条例上それを認める規定がないと、ファースト旅費を受け取る権利の一部を放棄したことになるので、当該放棄部分が寄付にあたり、公職選挙法上の問題が生じる可能性があるのでは?という議論を真剣に行った記憶があります。

初めてコメントします。
現在の旅費法の運用は「安くなるなら安くする」といったところです。
例えば、JRであれば運賃表を基に定額の旅費額を決めていますが、JRの特別切符を利用して安く旅行できる場合は、その安い金額しか支給しません。
また、泊まりがけの旅行の場合、運賃と宿代がセットになったパック旅行の利用が原則となっています。(こっちの方が安いことが多いため)
財務省が情報を流したとすれば、財務省はマスコミの知識の度合いを正確に把握している、ということになりますね。政治家を上手に操縦してきたのだから当然といえば当然ですが・・・

# 一月半も放置してから書いてみる。

>s-showさん
ありがとうございます。

>TKさん
そういうわけで、「可能な限り安くする」という運用が流行しております。典型的には通勤定期代も「6ヶ月定期の額÷6を毎月支給」ですから、金利+紛失リスクが労働者側に転嫁されているわけですな。まあ悪いことしたやつがいっぱいいたのもわかりますし、節約は大切ですが、なにぶん営利企業ではないので「コストパフォーマンスを無視した経費節減」に陥りがちな点に問題があるとは思っています。

コメントする

2012年10月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Monthly Archive

Webpages

Powered by Movable Type 5.14-ja