われわれの税金

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鳩山一郎とはどういう政治家だったかという話をにこにこしながら留学生向けの英語講義で披露している(挨拶)。さてなにやら以下のような大学ができたというので一部で話題になっているようである。

日本経済大学渋谷キャンパスは、940人の新入生の約9割を中国からの留学生が占める。他にも、ベトナム、ネパール、バングラデシュなど17カ国からの留学生を受け入れ、留学生率は99%。日本人がたった12人という超異色大学の挑戦が始まろうとしている。(「新入生9割が中国人、渋谷に誕生した超異色大学:「全入」時代にあえて東京進出を果たした日本経済大学」JB Press)

でまあその「日本人も学費不足で大学に行けないのに留学生には奨学金かよ」とか「こんな大学にも助成で税金が使われてるんだろ」とか怒っている人もいるようなので誤解は解いておくべきかなと思って多少書く。つうか最近特に前者関係でデマコピペをあちこちで見かけるようになっていて、多少むかついているところがあるのでね。

まず第一に、当然のことだが中国からの留学生の全員に日本政府からの奨学金が出ているなどというわけはない。文部科学省から奨学金の出る狭義の国費留学生は、全体で約1万人(cf. 「国費外国人留学生」Study in Japan)。もちろん中国だけでなく世界中含めてこの数字。これに対して中国からの留学生全体の人数はというと、「平成21年度外国人留学生在籍状況調査結果」(JASSO)によれば約7万9千人。そのページに出てくる「留学生数の推移」というグラフを見てもわかる通り国費留学生の数は微増傾向くらいで、留学生数の増加をもたらしたのは圧倒的に私費留学生だということになる。

で、まあそのですね、ここからしばらくは数字で出せと言われても難しい話になるのですが、国費留学生が日本経済大学(旧・福岡経済大学)の入学者のうちどのくらいの割合を占めるか予想しろと言われたら「ゼロか、ひとりふたりいるかねえ」という感じになる。というのは、国費留学生というのは大学側が交流協定締結校などから受け入れる大学推薦という制度と、学生が試験を受けてから受け入れ先を探す大使館推薦という制度、それに国内採用という・すでに私費留学生として日本に来ている学生から選抜する制度があるのだが、どれも結構難しい。というのは大学推薦は事実上各大学に一定の数が割り振られているような感じなのだがウチあたりでも本来の枠は大学全体で年に一ケタなので、まあその正直そのへんの私大にはねえだろ枠という気がする。大使館推薦はというと、これに受かるクラスの学生というのは本当に優秀なので旧帝大や有力私大に当然に行けるわけで、やはりそのへんの大学には行かない。

結局、ウチで見ても中国からの留学生の主力は私費で、国費がぼちぼち。これに加えて最近増えているのは中国政府給費で、まあ経済発展もあって日本の直接支援の対象からは次第に外れてきているし、日本からの支援ということになると選抜にも日本側の価値観が反映するわけで、それは中国側の送りたい人材とは微妙にズレてくる。もうカネは自分たちで都合するので日本側は受け入れてくださいという話にシフトしてきている。「国家建設高水平大学公派研究生項目」とかいうのが、そういうのね。当然これを取ってくる学生も「中国政府お墨付き」の優秀さなので、行くのは旧帝大や有力私大ですよ。

だからまあ、前述のような報道を見ても私なんかはまあほぼ全員私費留学生だろうなあと思い、もちろんよくそれだけ集めてきたなあとか質とか出口戦略とか大丈夫かしらと思うわけだが、まあでも奨学金が云々の話にはならない。むしろ学費を払いにきてくれるのでその面では日本経済に貢献してくれてありがとうと言わないといかん話だよと、そう思うわけである。

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さてしかし大学運営には国費からの助成が投入されているはずではないかと思う人もいるだろうと思う。いわゆる私学助成であって、一般的にはその通り。まあ合憲性の問題とか全部すっ飛ばして現実的に言えば私立大学全体で年間3千数百億円が使われている。日本私立学校振興・共済事業団によれば、ならすと大学生一人あたりでは16万4千円ということになるそうで、だとすれば900人の留学生でキイと思う人もいるだろう。

しかしその、そこがこの報道の読みどころであって、まず私学助成というのは助成金であるからもらう側から「ください」と申請しないともらえない。申請してももらえない条件というのがあり、一番問題の少ないのは「未完成」、つまり大学・学部を新設してからできあがるまでのあいだ(最初の卒業生が出るまで)はもらえないということになっている。これはまあ、その程度の財政基盤がない・最初から私学助成をアテにしないと作れないような大学は認めませんという話ね。あとまあ、申請に関する不正とか不祥事で減額とか不交付というのもある。

だが一番の中心は定員管理で、つまり(簡単に言えば)(A)在籍学生数が収容定員に対し1.5倍以上か、入学者数の入学定員に対する割合が1.3倍以上(医歯学部は1.1倍以上)という学生多すぎパターンと、(B)在籍学生数の収容定員に対する割合が50%以下という少なすぎパターンが不交付になる。後者はつまり社会的に需要がないものに助成なんか出せませんということで、まあいろいろ救済措置もあるのですぐに淘汰ということにはならないものの一時期以降学生が集まらなくて募集停止→廃校ルートに入る私立大学が出てきていることはご存知の通り。

問題は(A)の方で、これはつまり設置認可の際には大学設置基準というのがあり、学生定員にふさわしいだけの教員がいるか・設備があるかというのを審査している。いわば定員を前提とした品質保証を行なっているので、学生を取れば取っただけ授業料収入が増えるからってそんなことをするんじゃない品質が保てなくなるだろう、そんなことをする金儲け第一主義の大学モドキに助成なんか出せませんという話。まあだから大学というのはいくら運営の効率化だの経費節減だのを求められてもあくまで非営利事業・営利目的ではない事業だという建前があるわけですな。

さてところで、何故かは知りませんがこの私学助成をそもそも申請していない大学というのがあります。うち2校は設置の事情から厚生労働省の支援を受けている産業医科大学と日本社会事業大学なのでいいとして、残り25大学。何故かは知りません。知りませんが、うち6校は日本経済大学(旧・福岡経済大学)を含めた都築学園グループの大学です。というか、未完成でそもそも交付対象にならない横浜薬科大学を含めた7大学がすべて私学助成を申請していないというのが同学園の特徴ですね。

何故かは知りませんよ。私立大学である以上国からの助成を受ける代償として運営に干渉されるようなことはすべきでないという理念なのかもしれませんし、税金に頼らずに運営したいという高潔な志なのかもしれません。いろいろあって申請しても通るわけがねえので最初から申請していないのかもしれません。そういえば1991年頃に入学定員の約12倍も学生を入学させてしまった私立大学の話というのを聞いたような気もしますが、きっと偶然ですね、ええ。まあとにかくそういうわけで記事に出てきた日本経済大学の運営に私学助成は投入されていないので、我々は税金の使途について思いめぐらす必要はないわけです。

***

......だからね、こんなもん大学の名前見た段階である程度事情を知っている人間ならああまあ、なるほどねえとなる話であって、まあ受け取る側のリテラシが問われますわなと言うかこういう書き方するメディアの信用性の問題だよなと言うか、そういう話なのですよ。

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コメント(3)

初めてコメントいたします。名前の通り大分市出身で38才です。

現役(高3)の時クラス担任から「第一経済大しか受からない」と言われて頭に残っています。

都築グループのイメージの悪さから、3年前に「第一」を「福岡」に改称したばかりなのに、今年から東京進出を知りあ然としました。

第2次ベビーブームの私たちは、意欲があっても受験学力が達せず、不本意な進学をした人が多かった。今はどうなのでしょう。

>学生を取れば取っただけ授業料収入が増えるからってそんなことをするんじゃない品質が保てなくなるだろう、そんなことをする金儲け第一主義の大学モドキに助成なんか出せません
個人的には、入れるだけなら何人でも構わんが定員ぴったりまでしか学位は出せない、というので構わないような気がするんですけどね。

すっかり遅レス。

>豊後各駅停車さん
全体としては少子化も進んでいるし、大学進学率の伸びも鈍化しているので競争相手は減っているという状況でしょうね。ただ、とはいうもののみんな「良い大学」に行きたいとは思っているのでしょうし、国立法学部系がLS設置の際に大幅に学年定員を減らしたり、グローバル30の開始に伴ってまた旧帝大の学年定員が実質的に減ることになっていたりするので、「競争感」は弱まっていないのかもしれません。

>kogeさん
考え方の方向性としては好きなのですが、教室に入らないとか体育館で授業したとかいう話になると学生間で公平な競争条件すら確保できないわけで、しかも一般的に教育水準や内容を判断するための情報量に事業者・消費者間で大きな格差がありますから、一定の国家規制が入るのは仕方がないのかなと思います。20歳前後の数年というのは貴重なので、市場競争を維持するために犠牲にするのもあまり良くないなあと。

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