混乱の先について(2・完)

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しかしそれにしても思うのは、野党の人は口々に小泉改革を批判するが、政権交代の可能性を生み出した・ヨコ交代依存の政治体制そのものが小泉政権の生み出したものなのだな、ということである。当然ながら、小選挙区制下では獲得議席数が大きく変動して政権交代の可能性が生まれるということ自体はそれ以前から理論的に予測されていたわけだが、実際にone issue的な選挙を通じて大議席の獲得が可能であることも、それによって強固な政権基盤を築けばある種「やりたいほうだい」であり、反対者がいようが選挙公約と矛盾していようが次の選挙までは自分の意志が貫けるということも実際にやって見せたのは小泉純一郎だよなと。そして、小泉政治というのがそのように、従来のコンセンサス形成的な政治から為政者のリーダーシップを強く発揮させる、井上達夫の言葉を借りれば批判的民主政的な構想への転換を意味していたのだとすれば、なるほどその物語はそのリーダーシップに対する国民の評価としての政権交代、つまり「悪しき為政者の首が切られること」で完結を迎えるのだなと。

言い換えるとこういうことだ。従来の政治家像を医者にたとえよう。つまり「あなたの健康状態は良くありません、全治三年です」と患者に嬉しくないことを告げ、治療のために酒やたばこを禁じる。それが苦しいと訴えれば、「しかしそれを許せばあなたは死にます。苦しいことでも強制するのが医者としての責任です」と苦虫を噛みつぶして言うだろう。もちろん実際の政治家にはそのような側面(待鳥聡史先生の表現を借りれば「統治の論理」ということになろう)と、当選して政治家で居続けるためにそれと矛盾するようなバラマキを行なう側面(同じく「代表の論理」)があるので過去の現実の政治家たちがみな上記の医者のように振る舞っていたという気はない。しかし少なくともそのようなあり方が政治家の理想像の一部として想定されていたことは間違いないのではないか。

それに対して小泉的な政治家というのは、「この薬を飲むだけで健康回復万事OK、酒もたばこも大丈夫。ただ三年間は私を信じてこの薬を飲み続けなくてはなりません」と、代替治療のような美しい夢を売りに来るわけである。もちろんそれは夢に過ぎないので、患者は三年間高い代金を巻き上げられたあげくに体も良くならず、むしろかえって悪くなったことに気付いて激怒し、薬売りの男を高く吊すわけである。しかし薬売りは笑うだろう、「しかし皆さんが本当に望んでいたのは、苦しい闘病に耐えて健康を取り戻すことではなく、美しく楽しい夢を見続けることではなかったのですか。私はそれを皆さんにちゃんと提供しましたよ」......

もちろん小泉純一郎氏本人は、夢を見せるのは政権獲得のために過ぎず、それに成功したあとは「統治の論理」に基づいて行動するのだと、少なくとも主観的には思っていたかもしれない。あるいは逆に、結局のところ国民が求めているのは良好な「統治の論理」の遂行などではなく、ネタのばれた薬売りが虐殺されることまで含めたエンターテインメントに過ぎないということを確信犯的に示したのかもしれない。いずれにせよ面白いのは、与野党それぞれの提示している政治家像がどちらに近いのかということであり、少なくとも小泉純一郎の(数代経た)後継者である麻生太郎が主張する「責任力」というビジョンは(あくまでビジョンの話であり本当にそのような力があるのかどうかとかいう話は措いておくとして)明確に後者を否定するものだろうということだ。念のために言うと私自身はこの小泉改革への評価と政治家像のねじれという問題について与野党のどこかを批判しようとか馬鹿にしようとかいった気分はなく(自民党については見直し基調ということで一貫しているのかもしれないが、もちろん一部賛成一部反対という姿勢もあろうし、またいずれにせよ政治家の発言である以上支持獲得のためにポラライズしていたりはするよねえと思うので)、ほぼ純粋に面白がっているだけなのだが、仮に小泉氏がさきほど指摘した後者の可能性に基づいて日本国民全員を彼なりのエンターテインメントに巻き込もうとしていたのであればなるほどたいしたトリックスターであるわいと感心したり、何分か煤烟事件における森田草平のごとき気分に襲われたりしているわけである。

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