政治的中立性(1)

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私が小沢前党首のことを嫌っていると思う人がいるようで、いや嫌いだが(別に私に嫌われたからどうこういうこともなかろうが)、しかしそれと能力の評価は別問題であって、ある意味で私は氏の能力を高く評価している。だって民主党の首脳陣では一番マシなんじゃない?

なかでもこの人の発言というのは正直まともに相手するのが間違いというレベルだと思っているのだが、今回もその知的レベルの低さを端的に露呈しているので一点のみ指摘しておく。政権交代のある場合の官僚制と政治セクターの関係をイギリスに視察に行ったことを踏まえての発言なのだが、以下の通り(菅直人公式サイトより「公務員の政治的中立性。」)。

日本の国家公務員法にもその102条に公務員の「政治行為の制限」が規定されている。イギリスの上級公務員は「国政レベルで議論になっている問題について公の場で発言したりマスコミに意見を発表すること」が規則で禁止されている。しかし日本では禁止されているかどうか必ずしもはっきりしない。ここに問題がある。

いやあの、その国家公務員法102条1項が委任している人事院規則14-7(政治的行為)てのがあるんだから、それを読めばわかる話じゃないかと。で、当該規則は第5項で「政治的目的」を定義し、第6項でそれを受けて国家公務員法102条1項の禁止する「政治的行為」を限定的に列挙しているわけである。この中に「国政レベルで議論になっている問題について公の場で発言したりマスコミに意見を発表すること」に該当するものがあるかどうかが問題なわけであり、まあ無理矢理適用するなら第6項11号「集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。」と第5項5号「政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し又はこれに反対すること。」の組み合わせだろうが、これら規定は原則として限定的に解釈されるべきことを考えると、それこそ「現実の悪意」が立証できる場合はともかく、一般的に想定される問題点の指摘や政策的合理性の観点からの評価を述べることを第5項5号の想定している事態に含めるべきでないことは、多くの法律家には共有される価値観だろうと思う。

ここで私が「これら規定は原則として限定的に解釈されるべき」と当然のように述べたことに引っかかりを感じる人もいるだろうと思うので補足しておく。たとえばこの人事院規則がなぜ(1)「政治的目的」の意義を限定し、(2)「政治的目的」がある場合でも限定列挙された「政治的行為」に外形的・客観的に該当しない場合は国家公務員法102条1項違反にならない旨明記しているかというと(5項本文)、新憲法下において政治参加の自由は基本的人権として全国民に等しく保障されるべきものだという前提がまずあるからである。当然ながら公務員についてはその職務の特殊性によって一定の制限を加えられるべきところ、もちろんそれは基本的人権への制限なので、禁止の目的・行為との関連性・利益衡量という基準によるにせよ(全体奉仕者説)、LRA基準(当該目的達成のためにより制約的でない規制手段が存在しない場合にのみ正当・芦部説)によるにせよ、限定的に解されるべきことは言うまでもないということになる。なおLRA基準に立って当該規則の適用意見を主張した事例として猿払事件第一審判決(旭川地裁判決昭和43年3月25日)、逆に理由は必ずしも明らかではないとされているが当該規則を合憲とした判例として同上告審判決(最高裁大法廷昭和49年11月6日判決)を参照のこと。

さて。ここで猿払事件を出したことによってわかっている方には自明であるように、国家公務員法102条1項における人事院規則への委任が白紙委任的であって無効だとか、人事院規則の禁止範囲が過度に広汎であるというのは下級公務員に政治活動をさせたがる人々の主張だったわけである。猿払事件はまさに郵便局員が日本社会党の選挙ポスターを貼ってまわったという事例であり、これが摘発され有罪とされたことを批判してきた左派・市民運動系の方々は本来人事院規則14-7を禁止範囲が広すぎると主張してきたはずなのである。こう考えると、その《禁止範囲が広すぎる》人事院規則においてもかなり薄いグレーゾーンにしかならない高級官僚による政策評価発言を菅直人氏が批判するというのは、また盛大なブーメランかよと言わざるを得ない。ここにもまた日本の左派における逆転可能性感覚の欠如という、以前より指摘してきた問題の一例を見て取らざるを得ないのである。

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コメント(1)

いつも、とは言えませんが(^^;)たまに来て読ませていただいております。
いつも興味深い記事で、非常に参考にさせていただいております。

大変恐縮ですが、

>なおLRA基準に立って当該規則の適用意見を主張した事例

ひょっとしたら「適用違憲」ではありませんでしょうか?

失礼いたしました。

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