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雑感

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書店で戦前の軍隊を扱った新書を手に取ったら前書きに日本近現代史研究でも戦争による「強制的同質化」という概念が提起されている云々という文章があったのだがあのまさかGleichschaltungの訳語だって気付いてないとかいうことはないだろうね(挨拶)。知ってて書いてるならなぜそこでナチズムに一応でも言及しないのかというのが極めて謎ではあるんだけど。というわけで、雑感。


  • ASEAN関係会議の会場にタクシン派のデモ隊が乱入して会議が全部延期になっちゃったそうで(「タイ騒乱、ASEAN会合すべて延期 各国首脳は避難」asahi.com)。まあそりゃ反タクシン派の国際空港占拠を容認しちゃったんだから、やり返すんじゃないのという話のような。そこで目の敵にされたタクシン派政権は一応民主的に成立したものだったわけで、それを直接行動によって・しかも国際的に「迷惑」をかけて打倒しても良いのだと、反タクシン派が示しちゃったわけでしょ。タクシン派・反タクシン派の紛争にあまり関心はないんだけど、前回実際に実害を被った人間としてはまあこれがreversibilityですかねとか冷たく言っておきたい。
  • まあでも、こういうことすると「場が荒れる」んだろうなあと、まったく別の文脈の話である人が使っていた表現を思い出す。現国王陛下の「場を収める力」にもそろそろ物理的な限界が迫っているわけで、それを失ったあとに政治プロセスの自律的な事態収拾能力があるのか、こんな有様ではそれも難しくて相当混乱が続くのかなと、そう思うところではある。
  • 別の話。森田健作氏が千葉県知事選に「無所属」で出馬したのが「虚偽事項の公表」で公職選挙法違反にあたると主張してる人たちがいるそうな。同法235条1項は「当選を得又は得させる目的をもつて公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者の身分、職業若しくは経歴、その者の政党その他の団体への所属、その者に係る候補者届出政党の候補者の届出、その者に係る参議院名簿届出政党等の届出又はその者に対する人若しくは政党その他の団体の推薦若しくは支持に関し虚偽の事項を公にした者は、二年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。」(強調引用者)とあるので、この「政党その他の団体への所属」の定義が問題になるわけだが、日本では政党への所属・非所属の基準が明確でない。国会議員については、政党助成との関係である政党に所属していること・他の政党に所属していないことを明確化する手続が定められているのだが(政党助成法5条2項3号)、たとえば同様にそこで届出の義務がある支部の代表者や会計責任者については、議員のように「他に属していない」ことを確認する必要はない。
  • 公職選挙法にも実は候補者が複数の政党その他の政治団体に所属している可能性を前提にした規定がある(「前二項の文書[公職の候補者の立候補届出]には、公職の候補者となるべき者の氏名、本籍、住所、生年月日、職業及び所属する政党その他の政治団体の名称(二以上の政党その他の政治団体に所属するときは、いずれか一の政党その他の政治団体の名称とし、次項に規定する証明書に係る政党その他の政治団体の名称をいうものとする。)その他政令で定める事項を記載しなければならない。」公職選挙法86条の4・3項、補足強調は引用者)。この場合、そこに規定されている通り「いずれか一の政党その他の政治団体」以外については届け出なくて良い・届け出てはいけない。つまり事実としての「所属」があっても選挙の際に書かないケースがあることは法が認めている。
  • もちろん問題は、複数あるときに一つ以外は書かない・書けないのは規定通りとして、全部書かないことが認められているのかということではある。ここが争点だろうとは思うが、おそらくこの「所属」の基本的な目的はもともと選挙期間内は政党の政治活動が禁止されているところ「所属候補者又は支援候補者」として届け出られた場合にはその禁止を解除する(同法201条の9)ところにあるので、法の想定している一般論としては「所属」があるのに届け出ないと不利になるはずである。わざわざ不利になることをするのが「当選を得又は得させる目的をもつて(......)虚偽の事項を公にした」ことだと理解するのは、無理筋かと思われる。そもそもいままでいくらでもこういう「無所属」候補はいたんじゃないかとも思うし。
  • 法の想定とは違って最近の選挙では「無所属」の方が有利なんですという議論はなおあり得ようが、そのことをどう確認するかという問題もあろうし、同じような届出をしても世間の風向きによって「無所属」が有利なときは違法、不利なときは合法てえのも無茶な話だろう。刑事罰則なんだから法の規定から明確に読み取れる意味に限定しないと人権保護の観点から危険きわまりないんじゃないのと、そういう話である。しかしまあ、政党の意義とはなんぞやと考えさせられる話ではあるよね。
  • また別の話。民主党の小沢党首秘書に対する捜査を、東條内閣下で起きた中野正剛に対する検挙・弾圧事件になぞらえている法律家というのがいて、なるほどこれは極めて趣深いので探して読むと良いよ。当時衆議院議員であった中野は、独裁を強める東條首相に反発して早稲田大学で弾劾演説をやったり、朝日新聞に「戦時宰相論」を書いたり、倒閣運動を進めたりして公然と東條内閣に敵対していたわけですよ。これに対して東條は憲兵隊を動かし、倒閣運動などを戦時刑事特別法違反に問うて中野を含む関係者百数十名を検挙、中野は議会への欠席を約束させられた上で釈放されたが憲兵監視下の自宅書斎で割腹自殺を遂げたというのが一連の顛末で、そこに支持の低迷してきた東條→麻生、中野の議会活動を妨害するために勾留請求した検事局→特捜検察、口実としての戦時刑事特別法→選挙資金規正法、中野正剛→小沢一郎という構図を重ねようとするわけですね。
  • いやほんとなるほどなと思わせられるわけですが、だって中野正剛ってヒトラーやムソリーニと会見して日独伊三国同盟を支持したファシズム団体・東方会の親玉じゃん。議会政治を否定して衆議院議員を辞職したりしてるし(1939年)、その前には安達謙蔵と組んで国民同盟を結成してるでしょ。幣原協調外交の若槻禮次郞内閣を潰した、あの安達ですよ(1931年)。要は自分でぶち上げといて思う通り行かなかったからすねちゃった人でさ、それが最後だけわりと正しい(ものと一致した)行動を取ったからってそれまでのダメが治癒されるわけじゃねえだろうと。「いつもオードブルだけ食べて、まずいと思えばすぐに出て行ってしまう」とか評されているあたりも何事かを想起させるよね。
  • まあそれ以外の、特に刑事手続の簡素化が大変に気味悪い戦時刑事特別法(たとえば「有罪ノ言渡ヲ為スニ当リ証拠ニ依リテ罪ト為ルベキ事実ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スニハ証拠ノ標目及法令ヲ掲グルヲ以テ足ル」(26条)とかな。参照、中野文庫)と選挙資金規正法を重ね合わせる見識とか、戦前の、まあ大逆事件とか政治介入を許してしまった検事局と、現在の独立性の高い検察庁をごっちゃにして良いものかとか、そこで批判対象となる検事局ですら、緒方竹虎『人間中野正剛』によれば検束された中野について証拠不十分だから起訴は到底できないとか、現職代議士を議会に出席させないわけにはいかないとか、最後には「総理大臣ははなはだ失礼ながら、中野のことになると感情でものを言っておられる」と東條自身に向けて堂々と刃向かっていることを考えると、この人は自分の元職場についてどれだけナメた考えを持っているのかという気がしてくるわけではある。まあご自身でも辞めて良かったと繰り返し言っておられるようであるし、検察のなかのひとも一緒に仕事したくねえんじゃねえかと思うから、良かったんじゃないですかね、結果的に(なげやり)。

RIMG0014.jpgところでインドシナから戻ったばかりなのですが昨日はこんなところにいたりして、自分でもなんか移動距離が長いなあと思う今日この頃。そろそろ授業だから落ち着かんといかんのですがね。

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Comment(4)

匿名ですいません さんのコメント (2009年4月18日 17:10):

 3月23日「雑感」への私のコメントにお返事をいただき、ありがとうございました。
 ところで、本日の小沢氏関係の雑感にも、やはり違和感を感じました。
仮に中野正剛がファシストだったとしても(松岡正剛の書評、千夜千冊によると、行動の振幅が大きい人物だったようです)、不当検挙・弾圧は許されないんじゃないでしょうか。
同じく、23日のコメントで小沢氏のダブルスタンダード云々とありますが、だからといって不当捜査が許されるということにはならないと思います。
 素人目には、「失礼ながら、小沢氏のことになると感情でものを言っておられる」ようにも感じます。
少なくとも、公選法違反他の論評の論理の明晰さとは落差があるような気がします。
 わかりにくい文章で、くだくだとご批判めいたことを書きました。ご無礼をお許しください。

HR さんのコメント (2009年4月19日 13:07):

>匿名ですいません さん

 ぼくはおおや先生ではありませんが、「雑感」を最初見た時に、
同じような違和感を覚え、その後やや考え直したところがあったので、
代わりというわけにはとてもいきませんが、ぼくが考えたところを少しコメントしたいと思いました。

中野氏がファシストだったとしても、その最後の東條独裁に反対する言動が間違いということではないことは、おおや先生も認めておられると思います。ただ、おおや先生が言いたいことは、従来の立場と反するようなことを言うことは、「そのことの正しさ自体は別として」、説得力がないし、その本人は救済に値しないのではないか、ということではないかと思います。

これは、法学の訓練を多少受けた身としては納得できなくもないです。というのは、その人の主張自体の正しさをおいといて、「前と言ってることが違う」「おまえがそんなこと言うな」というような状況にあることを理由として(禁反言に基づく信義則、あるいは主張適格の問題として)、その人の救済を否定するということは、法律の世界ではありうるからです。

そのように「主張の正しさ」と「主張する者の救済」を一応別問題として区別した上で、中野氏の話を小沢に応用して、「小沢は救済に値しない」と暗示する(ように見られる)おおや先生の主張の筋そのものは、通っていると思います。

その上で、おおや先生が「小沢氏のことになると感情でものを言っておられるか」ということですが、ぼくはこのブログのファンで過去ログを含めて結構読んでいますが、個人の感想としては、おおや先生は決して「公正・中立」ではないし、おそらくご本人にそのつもりはないではないでしょうか(そうですよね?)

過去の日記でご本人も認めておられるように、おおや先生は「保守派」です。「保守陣営」と「革新陣営」でおなじぐらい「とほほ」な話があった場合でも、おおや先生が大々的にとりあげて筆誅を加えるのはほぼ後者です(小沢氏が本当に革新派かどうかはわかりませんが、現在自民党の反対面にいるのは確かです)。

小沢氏が自民党内部にいて同じようなことが起きて小沢氏が同じことを言った場合(わかりやすく言えば、今回の小沢氏に起こったことがそのまま麻生首相に起こった場合)、おおや先生がここまで取り上げて嘲笑ともとれる批判をするかというと、個人的にはかなり疑わしいのではないかと思っています。その意味では「感情的」だというのは、ぼくも思うところです。

でも、「敵は嫌い」という感情に基づいて、その敵の失態を取り上げて批判しようということと、その敵の問題を取り上げる際に感情的になるということは、やはり別問題かと思います。

ぼくが見てきた感想では、おおや先生は個人的な好悪の感情に基づいてトピックの取捨選択をすることがあっても、取り上げたトピックについて議論する際に感情的になって論旨が乱れる、ということはほぼないと感じています。

そしておおや先生に「公正・中立にトピックを選択して論評せよ」という義務を課せるかというと、ここは個人的なブログでマスメディアでもなんでもありませんから無理な話です(そもそもマスメディアにそんな義務を課せるかも問題ですが…)。

なので、かなり明確に一方に肩入れする姿勢をとった上で、筋が通った主張をしようとしておられる、という観点からおおや先生のブログを読めば、それが悪い意味で「感情的」というものではないということがお分かりになるかと思います。

もちろん、以上はすべて一読者の勝手な思い込みにすぎませんが。。

HR さんのコメント (2009年4月19日 18:52):

鰤さま

すみません誤解をさせたら申し訳ないですが、ぼくが使う「保守」「革新」はいずれもカッコつきで使っていることからも明らかなように、極めて便宜的なまものです。さしあたり、例えば現与党と野党というふうにおきかえていただいてもかまいません。真意をくみ取っていただけると幸いです

匿名ですいません さんのコメント (2009年4月20日 00:06):

>HR さん
(ご本人をおいて勝手に議論するのはおかしいと思うのですが、少しだけ)
もし、「従来の立場と反するようなことを言うのは(政治上、道義上)おかしい」という御主張でしたら、一応、その通りだと思います。
しかし、「その本人は(法的)救済に値しない」というのは言い過ぎではないでしょうか。
うろ覚えですが、「禁反言」は私法(それも任意規定)の話で、刑事手続にはごく例外的に適用されるだけだと思います。
最近、小沢氏批判が目に付きます。私は虚偽記載だけを理由に辞任勧告等するのは、ちょっと不自然だと感じます。小沢氏に何か決定的な瑕疵があるのなら、むしろそれを真正面から指摘した方が説得力があるのになァと思います。

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