雑感

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さあこれで年度末まで少し原稿を書く余裕ができたぞと思ったら次々とアポイントメントを入れられている件(挨拶)。忙しさに取り紛れて書き忘れていたのですが、名古屋大学法科大学院(大学院法学研究科実務法曹養成専攻)で私が開講している「情報と法」が、2009年度は南山大学法科大学院との共同開講科目になります。まあ私にとっては別に学生さんによその人も一定数混ざるかもしれないというだけのことで、授業も従来通り名大で一度やるだけなのでいいのですが(でも授業時間は(より遅い)南山に合わせるので45分遅れ)、これに伴い南山・名大の双方で履修に事前手続が必要になるようです(講義開始日にいきなり教室に来ても履修が認められません)。つまりその、LSの授業なので人数が一定数を超過するとまずいということらしい。履修希望のある人がここを見ていたらご注意ください。さて。


  • 民主党・小沢代表の秘書が逮捕された件。まあ本体の進展状況は拘留勾留期限(24日修正)の24日にある程度判明するだろうということで、現状はそれを待つしかないよねと。問題は(前にも書いたけど)その周辺でダメの人が次々と洗い出されているところにあるだろうと思う。
  • 陰謀論者についてはすでに言及したが、関連して漆間・官房副長官発言問題というのがあり、これは相当に根深い。というのは、伝えられている発言の内容というのは(もちろん記録が残っていないのでどれが最も真実に近いのかがよくわからんところではあるが)私でもこの事件について何か聞かれたら言うだろう程度のごく常識的な内容に過ぎない。
  • つまり、政治資金規正法違反を問う場合、形式的にはもちろん合法的な献金のごとき外観は作出されているわけであり、それに実態がない(したがって違法性がある)ことを献金側は当然に知っているのだが、受領側が知っているかはとりあえず明らかではない。仮に献金側が単独で・到底受領側の関知し得ないような偽装を巧妙に施した上で違法な献金を行なった場合、にもかかわらず受領側の刑事責任を問うことは過失すらない純粋な結果責任を問うことになり、近代刑法の原則を逸脱する(絶対に認められない、とまでは言えないだろうが)。不正な政治資金の流通を防止するという立法目的に照らしても、コントロール可能性がない場合にまで責任を問うことが正当化されるとは思えない。従ってそれは妥当ではなく、実際にも政治資金規正法の罰則(23条から28条の3)はいずれも故意犯のみを罰する規定になっている(過失犯を罰する旨の規定がないので、そうなる)。
  • ここから、受領側が可罰的になるのは故意がある場合、すなわち合法的な枠組が偽装であって実態は違法な献金であるということを認識し、かつそのことを最低限消極的に認容していた場合ということになる。問題はこの「認識」ないし「認容」であるが、これを正面から「ありましたか?」などと聞いてもおそらく単に否定されるだけであって、それは全身をナイフでめった刺しにしておいても「殺すつもりはありませんでした」とかのたまう被疑者がいることと同じである。いやもちろんそれは彼の主観においては真実かもしれないが、要するに我々はそんなものを刑事責任を問う裁判の基礎とすることはできないのであって、この部分に関する認定基準は客観化されている。つまり、言葉の上では「認識」とか「認容」とか、あるいは「過失」や「故意」のように当事者の主観の問題であるように読めるのだが、実際はその有無について「我々」が認定するための客観的根拠の有無が問われているのである。
  • さて、そこでいう「客観的根拠」としては当人の行動・言動の整合性(当事者はある程度の理性と首尾一貫性を持って行動していると想定する......前に触れたprinciple of charityでもある)、他の当事者の証言等との整合性などもあるわけだが、何といっても強いのは物証であろう。当事者が過去において、容疑事実の認識と容認の下に一定の行為を取ったのでなければ生じ得ないような物理的痕跡があれば、故意の認定は容易になされる。逆に言うと、当人は(理性・首尾一貫性の)「弱い」個人であって整合的な行為を取っていないかもしれず、他の当事者は当人を罪に陥れるために虚偽の証言をしている可能性もあるわけで、物証抜きで故意を証明しようとするのは――特に刑事裁判では「合理的な疑い」を差し挟む余地があるだけで(本来は)無罪になるはずであることを考えると――なかなかに困難だと、そういうことになる。このあたり、和歌山毒物カレー事件や恵庭OL殺人事件を参照のこと。
  • で。ということは、仮に偽装献金の実態としては民主党側と自民党側で同様のものがあったとしても、認識・認容のない事例は罪にならないし、より重要なこととして認識・認容が客観的に立証できる証拠が出る見込みがなければ捜査できないということになる。漆間・官房副長官の発言時点ではたしか、小沢党首側ではそのようなものがある程度あるというリーク情報がすでに出ており、他方二階大臣側ではそれがなかった(パーティ件購入という、違法性認識を否定しやすい枠組になっていた)はずである。この時点で見通しを聞かれれば「物証が出たとすれば立件はあり得る。他方、物証の出ていない(自民党)側に関する捜査は難しい」という意見になるだろうなと。
  • というわけで、これはあくまでまったく根拠のない空想であるのだが、たとえば「なんで民主党だけ捜査されて自民党は捜査されないのか、これは国策捜査ではないのか」とかそういう常識なしの質問をどっかの記者さんがしたとして、自分の名前は出ないはずだし相手の無知迷妄は明かしておいた方が親切ではあるまいかとか、なまじ専門的な知識もあってメディア対応の心がけもあって親切な人なら思ってしまうのではないかと。もちろんこの空想に根拠はまったくない。しかしまあ仮にそういうことがあったとすればその人もその人がどういう目に遭ったか見た人も二度と親切しないよねとも思う。結局マスメディアは重要な情報源を一つ潰してしまったことになる可能性はあり、自前で情報分析する能力が低いのにそれで大丈夫なのかとか思うわけだが、まあこれは余計なお世話か。
  • しかしその、漆間・官房副長官の名前をかなり早い時期に出したとされる鈴木宗男氏はご自身で情報源は複数の記者だと書いており、これが事実だとすればソースロンダリングだよね。鈴木氏に言わせて、「鈴木氏が言った」と報道したのだから我々は言っていないと主張したところで「オフレコ」を成り立たせていた信頼関係が維持できると思うのか。「迂回報道」だから受領側に認識・認容がなければいいのかしら。
  • まあその点はどちらであっても、この件は結局マスメディアの言う「取材源の保護」が偽装された自己利益でしかなかったことを如実に示したなと思う。それが守るべき規範だというのなら「発言者を明かせ」という要求にはマスメディアとして抵抗すべきだったし、裁判所の令状でも持ってこられない限りそれに協力すべきではなかったし、さらに言えば要求があること自体を黙殺して報道すべきではなかった、かもしれない。最後の点には疑念もあるけど、少年法に違反してでも少年犯罪者の個人情報を報道せよという、たとえば被害者遺族の要求をマスメディアはどう扱ってきたのか。あるいは実際に(まあ動機はどうあれ)報道してしまった週刊新潮に対し、どう批判してきたのか。
  • もちろん(新潮がそう主張したように)この場合は一般的な規範を上回る必要性があったと主張することはできる。ではそれは何なのか。たとえばテロリストを取材したらうっかり連続テロ計画について聞き出すことに成功してしまったのですが「取材源の保護」を貫くと100万人死にますと言われたら破っても仕方ないんじゃないかと思う。閾値がどのへんかはともかく。それと同じように「この場合は取材源の保護を優先できません」ということを正当化する要因はどこにあるのか。私個人としては、(たとえば)官房副長官と検事総長が通謀しておりこれは無実の人を罪に陥れた国策捜査なのだということを示す証拠が「オフレコ発言」の中に潜んでいたのなら「取材源の保護」など破っても仕方ないと思うが、そのことは示せないので・あるいは示せないのがわかっていたのでソースロンダリングに頼ったのならずいぶんと下卑た話やな、とは思う。
  • ところで話は急に冒頭に戻るが、明日どうなるかという問題について検察の捜査はうまくいっていないという意見があちらこちらで報道されており、しかしそう主張した「元特捜検事」がなんかどこを見ても同じ人なので大丈夫なのかそれは。いやもちろん「元検事」にも元検事総長から平検事で辞めた人までいろいろとおり、後者のたとえば検察組織の運営に関する意見に相当の価値とか根拠とかがあると思わない方がいいよねえというような話はあるところ、当該の人は確かに(平検事としてのようだが)東京地検特捜部に所属したことがあり、広島地検の特別刑事部という、直接捜査を行なう部署の長も勤めたことがあり、法務総合研究所の教官も務めたりしているので検察組織の運営にも検察活動の理論面にも相当の見識がある方だろうと一応の推定はできると思うのだが、しかし業績全部「コンプライアンス」だよねえ。ええとつまり主として民間の法令遵守関係の専門家であり、独占禁止法とか談合関係の摘発についてのご意見は尊重するにたると思うのだが、あんまり政治家とかの汚職事件には直接関与しておられないような気も。
  • いや4月の異動を前に極めて忙しいはずの時期に各地から応援検事を呼んでいる、事前の想定より人手が急に必要になった証拠だというような読み筋には迫真性があり、上記の通り検察組織の内部をある程度ご存じの方だと思うので尊重すべき意見だと思うのですが、進んでみたら思ったより泥沼でガダルカナル化しつつあるのか、思ったより埋まったかぶらが大きくてみんなして掘らんとどもならんという話なのか、そこが難しいよなと思ったりする。
  • このあたり、もちろん私は素人なので詳しい筋の方々複数のご意見を聞き合わせて判断したいなあと思うのだがなんか前述の通りお一人しか出てこないような気がしており、どういうことなのかねえ。「選挙の直前はひどい」という意見もそこここで目にするが、某所では昨年9月の麻生内閣成立前後から民主党関係者が「そろそろ選挙」と言い続けている記録とかがまとめられており、まあ今回も同様なのだが単に民主党の脳内「選挙直前」が続いているだけのことで客観的な「選挙直前」などなかったのだと、従ってそれを根拠にする捜査批判は成り立たないと、そういうことになるのではないかな。逆に、今年9月には(このまま行けば)客観的な「選挙直前」が成立するわけで、そうなる前に捜査を済ませたと、同じ根拠から検察の行動を評価することもできそうである。
  • そうするとこのあたり、結局主観と客観の区別のできない人たちが暴れているという概括もできるのかなと、ちらりと思った。これはまとめすぎだと思うけどね。

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>本体の進展状況は拘留期限の24日に

「勾留」ですよね? いや単純な脱字や誤変換とかはともかくこの手のタームをお間違えになる印象がなかったもので、すこし不安になりまして。

>なかの人 さん
チェック漏れであります。さきほど修正いたしましたが誠に申し訳なく。ご指摘ありがとうございました。

>当該の人は確かに(平検事としてのようだが)東京地検特捜部に所属したことがあり、
>広島地検の特別刑事部という、直接捜査を行なう部署の長も勤めたことがあり、
>法務総合研究所の教官も務めたりしているので検察組織の運営にも
>検察活動の理論面にも相当の見識がある方だろうと一応の推定はできると思うのだが、
>しかし業績全部「コンプライアンス」だよねえ。
>ええとつまり主として民間の法令遵守関係の専門家であり、
>独占禁止法とか談合関係の摘発についてのご意見は尊重するにたると思うのだが、
>あんまり政治家とかの汚職事件には直接関与しておられないような気も。

2009年3月11日付で日経ビジネスオンラインに掲載された
郷原信郎氏の「代表秘書逮捕、検察強制捜査への疑問」という記事中に
「100年に1度とも言われる経済危機が深刻化する最中、
政治を大混乱に陥れている今回の事件だが、検事時代、
自民党長崎県連事件など多くの政治資金規正法違反事件を捜査してきた
私の経験からすると、今回の検察の捜査にはいくつかの疑問がある。」とあります。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090310/188674/

同記事の著者プロフィールに
コンプライアンス関連の業績しか記されてないのは確かですけれども
「あんまり政治家とかの汚職事件には直接関与しておられないよう」
だというのは郷原氏については当てはまらないのではないでしょうか。

おおや先生が言及されている元特捜検事が郷原氏とは別人だったらごめんなさいね。

問題の「元特捜検事」の方は、今回、「自民党長崎県連の違法献金事件(2003年)の捜査に携わった」という話があるそうですが(当時、長崎地方検察庁次席検事)。
事件概要→ http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/display/423/

他の「元特捜検事」では、宗像紀夫教授も否定的なコメントを出しているそうですね。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090325-OYT1T00165.htm

議論の中身はあんまり動かないような気もしますが、一応。

どうでも良いのですが、
「政権交代が至上命題」と言っているのですが、
「政権交代」後、小沢代表が代表を辞任する事態になった場合、
小沢「代表」(=総理候補)で戦ってきた民主党は、
もう一度民意を問うために解散総選挙をやるのでしょうか?

それとも、小泉人気で得た議席を活用して
小泉→安倍→福田→麻生、と選挙を経ずして政権たらい回ししてきた
(と、当の民主党が批判してきた)自民党をまねして、
小沢人気で得た議席を活用して、政権たらい回しするのでしょうか?

今までの、政治・政治マスコミの世界は、
野党が政権をとることは無い、ということを前提に、
与党を批判することに終始してきたように思います。
(つまり、野党側が批判される側になることはない、という前提)。

どうするのでしょうか?興味津々です。

ついで:議席の世襲を禁止すると、4世議員が声高々に言う姿は、
ジョーク以外の何者でもないように思うのですが。。。。
もちろん、「だから、私は次の総選挙には出馬しません」と言うのなら、言行一致で尊敬するのですが。。。。

>「客観的根拠」としては当人の行動・言動の整合性(当事者はある程度の理性と首尾一貫性を持って行動していると想定する

 うまい表現があるものですね。以前、判例とか結構読みましたが、見たことないかもしれません。
 いろいろ勉強させていただきました。

>>TKさん
それ以前に憲法14条1項に違反するのではと(ry
つまり世襲議員に反対する人々は改憲h(違う
もしくは選挙地盤の相続に否定的なリバタr(もっと違う

>>TK氏
細川→羽田と政権のタライ回しをしたのはどこのだれかと。
それともそれじゃまずいから次は自民から海部を引き抜いたとか?

法律の議論としてはおっしゃる通りかもしれませんが、やはり、違和感を感じます。
仮に、虚偽記載は軽い犯罪だが捜査の影響は甚大、証拠がない側にも実際は認容があったはず、という前提に立つと、片方にだけ強制捜査を行うことには不公平観がぬぐいきれません。
だから、検察側は、政治資金規正法違反は重罪、小沢氏は金額も大きく悪質と主張されるのでしょう。
法律論争には勝ったとしても、将来、検察が国民の支持を失う(そしてその判断は道義的にも正しい)という高いリスクがあるような感じがします。

>ヒトシさん・崎山伸夫さん
想定していたのはご指摘の通りの方であります。でまあ程度問題であって郷原先生が汚職捜査とか知らないと主張するつもりもまったくないのですが、(崎山さんにご教示いただいた記事に登場した)宗像・土本・河上といった方々と比べるとやはり、
 (1) 直接捜査を指揮した経験が少なそうである
   (長崎地検は部を置いていないようなので、次席検事として指揮を執られたようにも思いますが……)
 (2) 公刊業績は、ご著書も論文もほぼ完全にコンプライアンス関係である
とは言えるのではないでしょうか。なんかこう、この方に「も」意見を伺うのは問題ないと思うのですが、この方だけに伺って十分というようなキャリアじゃないでしょ? という。

>TKさん
あっはっは。まあ現実的には「政権たらい回し」するのでしょうけどね。記憶力とか首尾一貫性への考慮とかない人は生きるの楽そうだなあと、時々思います。

>匿名ですいません さん
ども。まあ虚偽記載が重罪か軽罪かというのは価値観にも依存しますが、政治資金規正法25条だと5年以下の禁錮ですか。このあたりをどう判断するかということでしょうね。
閣議決定に過ぎない「大臣規範」違反について政府を攻撃してきたようなこととの整合性も気になるところですが、上記の通り「ダブルスタンダード」という批判は記憶力のある相手にしか効きませんから、それのない人が「世論」の多数を占めていればご主張の通り検察が世論の支持を失うというリスクは高いかもしれません。その可能性も否定しきれんしなと、個人的には暗澹としますが。

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