リスクの転嫁
apj先生が言及している、指定校推薦制度における出願ミスの話(asahi.com)。結論的に言えば、apj先生の「疑問点」の捉え方は基本的に逆。
「疑問3」(一般入試で不合格になる生徒を推薦してはいけないのでは)が一番簡単で、これはコメント欄でもすでに指摘されている通り、そういう生徒を合格させるために指定校推薦制度があるが正解。別の言い方をすると、一般入試で受かるような生徒しか受からないのであれば実質的には選抜機会が多様化できていないので、指定校推薦の意義は実施時期が早いことだけになる。つまり青田刈り。これを野放しにすると良くないことがいろいろ起きるので禁じ手ということにしており、従って早い時期の入試は「一般入試とは異なる観点から選抜する」というエクスキューズが求められており、であるならば一般入試では落ちる子が受かってもいい、むしろ制度趣旨にかなって健全に運用されている証拠と、こういう論理展開になる。まあ本当にそういう建前をみんな守っているかと言われればいろいろいやいやいやいや。
「疑問1」(なぜ受験生本人が願書を出さないか)については、「指定校推薦だから」というapj先生の推測がおそらく正しい。ウチは学部入試に指定校推薦はないが(一般推薦はある)、大学院入試(*1)の規定から考えるとそういう趣旨だと思う。
そこで「疑問2」(高校側が出願すると不要なリスクが発生するのでは)についてだが、これはそういうリスクを大学から高校側に転嫁する制度が「指定校推薦」だからということになろう。たとえばapj先生が書くように〈高校が発行した推薦書を添えて各受験生が大学に対して出願する〉システムにした場合、推薦書が偽造でないか(*2)、開封された痕跡がないか、認められた通数を超えて発行されていないか確認する負担が、大学に生じることになる。出願期間のあいだためておいて、締め切られてから所属高校ごとの通数を確認し、超過していたら高校側に連絡して発行先を確認する......なんてえことをするくらいなら最初から高校の責任で推薦対象の願書だけを送付させる方が楽だ、とそういう話。大学の事務としては、届いた封筒を開けて定められた通数を超過していたら封筒ごとポイでいい。もちろん合格者は必ず入学するという保証も高校の責任においてさせ、辞退者が出たら高校にペナルティ。「気が変わりました」とか言い出す生徒は高校が必死で潰してくれるだろうから、大学は入学者数のヨミが楽になってよろしいと、まあそういう話。体育会系なんかの場合部活を途中で辞めたり不祥事を起こしたりしたら出身校にペナルティとかもあるかも。やっぱり大学はコントロールする責任を手放せるので助かるなあと。
もちろん、これが高校側にとって一方的に不利な制度かといえばそんなことはなくて、リスクを引き受ける代わりに一定数の進学枠が(事実上)確保できるというメリットがある。もちろんそれは、受験者や在校生に対するアピール材料になるわけだ(ウチにはこれだけの進学実績があります/推薦が必要なら「良い生徒」でいなさい)。そのメリットを考えて引き合うと思っているから受けているので、見合わないと思えばそもそも「指定」を受けないか、受けても棚晒しにするだけだろう。今回は引き受けたリスクの処理に高校側が失敗して大学に泣きついたわけだが、迷惑をかけないというのが優遇の条件でしょ?で門前払い。一般生徒が泣き出す場合に比べて高校のドジには世間様が厳しく、「かわいそうだから......」とかいって大学に無理を飲ませようとするモンスターも湧きにくくてめでたしめでたしと、まあ大学の観点からはそういうことになろう。
結局、入試自体がそもそもリスキー・ビジネスなのですよ。そのことを忘れているから「要らぬリスクや手間」と言い出してしまうわけです。このあたり、准教授でも校務にバリバリ動員されてしまう文系だから見えてしまうことだという可能性も、まああるわけですけどね(*3)。
(*2) 言っておくがこれに近い事態は現実に(国内で)生じたことがある。あと推薦書がどう見ても本人の筆跡というのは日常茶飯事だが、これには書くべき立場の人が英語書けない(→だからお前自分で書いて持ってこい、サインはしてやるから)という背景があるので何というか仕方がないのである。
(*3)
あ〜なお、たとえば学生・大学間関係であっても基本的に法・契約に基づいて処理すべしというapj先生の基本姿勢には賛成なので、変な味方探し・敵探しには巻き込まないように。
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