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due process (1)
まあその、田母神俊雄・前空幕長の懸賞論文問題については、当該「論文」自体についても懸賞論文に応募したという振る舞いについても「あほやな」の一言で終わりだと思うわけである。その後の処理として空幕長を解任されたということも、定年退職という扱いになったことについても、後述する通り理解できるというか、やむを得ないのではないかと思うところがある。だがしかし退職金について「自主返納という本人の判断を待ちたい」と防衛相が発言する(Nikkei Net)というのはいかんでしょう。というのは行為とダメージの均衡という話ではなく、適正手続due processの問題。
まあそもそもあほおであるというのは分限処分の問題であって懲戒処分の対象ではないのであるが、仮に懲戒するとしてどのような理由でどのような処分が科せるかということが問題になるだろう。そこでたとえば「栃木県職員の懲戒処分の基準」を見ると(ぐぐったら一番最初に見つかっただけなので栃木県であることに深い意味はない)、免職に相当する行為は正当な理由のない21日以上の欠勤や争議行為の煽動、秘密漏洩により公務の運営に「重大な支障」を生じた場合、重度のセクシュアル・ハラスメント、公金横領や収賄といったあたりであり、職場内秩序紊乱は暴力を伴った場合ですら停職まで、公金の不適正処理や給与等の不適正受給という手続規律違反では減給または戒告のみが相当とされている。もちろんこれは一般の県職員に対して適用される一般的な基準に過ぎないので、行為の態様などによって標準以外の処罰にすることあり得べしとは基準自体も明示的に述べているし、自衛官という職務の特殊性から、たとえば上官に対する犯行や秩序紊乱、一般人に対する暴力の不当な行使といった行為類型についてはより重い処罰にするべきだという考え方は十分妥当だろう。あるいは、今回問題となった田母神氏が空幕長というまさに組織の模範を示すべき立場であったことを考えれば責任は重く、処罰もそれだけ重くなるべきだという考え方も適当であろう。しかしそれでもなお、まあこれで懲戒免職に持ち込むのは無理やなというのが、相場というものではあるまいか。
補足しておくと、たとえば国会において公務として答弁するような場合においてはともかく、個人としての立場において政府見解と異なる主張をすることが信用失墜行為であるとか非違行為だということにはならない。言論の自由という問題もあるし、仮にそのようなことを認めれば法人化まで国立大学教員は国家公務員であったので、たとえば自衛隊の合憲性について政府見解と異なる主張を公表していた憲法学者は全員懲戒処分ということになる。いや我々には学問の自由があるのでと反論する人がいるかもしれないがすでに述べた通りそれは学問的な検証のプロセスを経るという「査読誌の自由」であると解されるべきところそのような検証水準に到底達していない自称「論文」を書いている連中だって大量にいるわけでげふんげふん。いや中川八洋せんせいだって「憲法思想がご専門」ですからねえええええ。
政治的行為の問題についても同様で、規定が悪用された場合のことを考えるとこれに該当するのは特定の政治勢力(典型的には政党)を支援する目的で・明確にそのための行為を取った場合に限定しないとまずい。「結果的に特定政治勢力の利益/不利益になる」程度のことはごく一般的な職務遂行の場合でも珍しくないわけであるし(自衛隊による災害復興が混乱に乗じて政府を転覆しようとしている革命勢力の妨害として機能するとか、特定遊技の射幸性について賭博行為との類似性をなくすために厳格化したら何故か特定政治勢力の資金源が細くなるとか、まあそのようなことも可能性としてはあろう)、やはり本来的には政治的行為の自由があるところ・公務員としての職務の性質に鑑みて人権に対する制約を加えているという構造から必要最小限の規制であるべきだという議論でもある。一般職国家公務員に対して適用される人事院規則14-7(政治的行為)が規定する禁止されている政治的行為が限定列挙であり、例示ではないとされているのもこのような考え方に由来する。
となると、今回の事例で簡単に問題にできそうなのは外部への意見公表について、定められた手続を踏んでいたのかというポイントに絞られるが、これは上述の通りまあ戒告か、立場を考えて減給かという程度の行為である。もう一つ、これが認定できれば懲戒免職取れるだろうというスジがあり、それはこの「懸賞論文」の審査に実態がなくて実質的には偽装された献金であるという場合だろう。「なんで都合よく空幕長が(しかもあの程度の「論文」で)最優秀賞?」という疑問を持った人も多いだろうし、あり得ない線ではないと個人的にも思うのだが、問題は審査実態がなかったことを処分する側が証明しなくてはならないところ強制捜査権限があるわけでも当事者が調査に協力する義務があるわけでもないので口を拭われたらそれまでという点にあり、まあ案の定というか関係者はすでに審査段階では匿名だったので迂回献金なんてことはありませんよと言い出しているわけである(一例として花岡信昭氏の主張。もちろんこの通りの事実関係があったということも十分あり得るだろう......その場合の審査員の見識云々という問題はさておいて)。
で、この状況で当人が自発的に辞表を出すつもりも、事実関係について争わずに処分を受け入れるつもりもありませんと言っている場合、それでも懲戒処分を狙うなら(朝日新聞記事でも紹介されている通り)「審理」を行なって対象者に弁明と意見陳述の機会を与えなくてはならない。不利益な処分をする以上、対象者に十分な弁明の機会を与えるべきであるというdue process(適正手続)の考え方から言えば当然のことなのだが、だがしかしそれには同時に相当の時間と手間が必要となり、さらにそれらの手続が終わるまで自衛官としての身分を保たせなくてはならないのだから、定年延長の限界である来年1月まで俸給を払い続けたあげく「戒告」処分で終わり、という結末に至る可能性はかなり高い(それでもまだ処分を行なうところまでいければマシな方かもしれないのだが)。もう諦めて定年退職にしてしまうという処理がよくわかるというのは、そういうことである。
なお空幕長の職を解くことについては人事異動の問題であって、「懲戒処分としての降任」(「階級又は職務の級の一級又は二級だけ下位の階級又は職務の級にくだすものとする」自衛隊法47条1項)に当たらない。幕僚長は階級ではなく官職であり(階級としては空将のまま)、「職務の級」は「事務官等」に対してのみ適用される概念だからである。従ってこれについては、権限の乱用に当たるような場合であればともかく、職務の性質を考えれば政治上の問題について内閣と意見を異にするとか、防衛大臣との信頼関係が築けないまたは失われたという程度の理由で十分であろう。それは単なる「配置換」の問題であって不利益処分ではなく、今回はたまたま幕僚長以外の官職に配置換されると定年に達してしまう状況だったというだけのことになる。この項続く。
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