タクシーとマッチポンプ

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いや終電後にタクシーで帰宅する霞ヶ関のなかの人たちがビールだのおつまみだの商品券だのをもらっていたという一件。正直そういうタクシーの使い方をしたことがほとんどないのでよくわからないのだが(というのは別に清廉潔白を気取るわけではなくタクシーチケットのもらえる仕事でもできるだけ自腹で地下鉄を使って移動するようにしているくらいタクシーというものが好きではないので、まあ必要なら使うのだがとにかく相手が気を遣って話しかけてきたりするのに対応しないといけないようなシチュエーションが嫌いで床屋も会話がないのを狙って安いところに行くとかおねえちゃんと楽しい会話のできる飲み屋さんとかに絶対自分からは行かないとかとにかく偏屈な人間だからなのであるが)、普通に都心から長距離で乗ればよくあるサービスだという人がいてそうかなと思い、しかし現金とか商品券はやはり割り戻しであってまずいのではないかと思うとスタンプカードが満点になると商品のもらえるシステムだったという話もあって定価販売のはずの本屋でさえポイントカード制が普及してきたこのご時世だとそういうサービスを考える人もいるのかなあたとえば「5万円乗ってくれたら500円の図書券サービス」だったら目くじら立てるほどでもないのかなあとあまり定見なく見ているのだがしかし朝日の社説はひどかった。「居酒屋タクシー--これで負担増を言えるか」(asahi.com)。

だいたい常識で考えて世の中ビールの1〜2本飲めるからといって終電過ぎまで残業したがる馬鹿はいないのであって、なんでそんなに遅くなるかといえば一つには町村官房長官も会見で言及している(msn産経ニュース)「国会待機」であり、国会で質問する議員からの質問内容の通告が遅れるために答弁内容を作成する必要がある(かもしれない)官僚が全員で待機を迫られるという問題である。もちろんそういうことをする人間に野党議員が多いことは言うまでもない----ただしこれは、与党議員の質問は政策や法律案の内容を明確化したり説明したりするための仕込み(アメリカの通販番組のような)という側面がある程度あるからでもある。

第二は(悪名高い)質問主意書であり、国政に関し内閣の見解を確認する質問を国会議員が文書で所属議院に提出し、議長の承認を経て行政府に回答を求めるものだが、これの回答期限が原則7日間。しかもこの回答は内閣の公式見解である以上「担当課での起案→当該省庁の法令担当課での審査・必要であれば他省庁との合議→内閣法制局審査を経て閣議決定」を経る必要があり、要するに死ぬほど大変であると言われている。なおWikipediaの「質問主意書」の項目なども参照。しかも大問題なのはこの質問主意書の提出数や頻度に公式の制限がないことであり、第163・第164の二回の国会で255通の質問主意書を提出した(当然ながらそれらすべてに対応するだけの労働量を官僚に課した)鈴木宗男衆議院議員のような人もいたわけであるが、しかしこの点ではより悪名高い議員が別に存在する。他でもない、朝日社説で褒め称えられている長妻昭衆議院議員である。

この人がどういう主意書を出しているかについては、それに対する政府からの回答も含めてご本人のウェブサイトで衆議院のサイトへのリンクがリスト化されているので参照されると良いと思うが、一例としてこういうものがある。「天下りの総枠規制に関する質問主意書」(平成十八年・質問第二六七号)より引用。

二 すべての公益法人で所管省庁出身者(課長級以下や退職後十年以上経過しているOBも含む文字通りすべての所管省庁出身者)が、理事の三分の一以上を占める団体をお示し願いたい。
三 すべての公益法人で国家公務員OB(課長級以下や退職後十年以上経過しているOBも含む文字通りすべての国家公務員出身者)が、理事の三分の一以上を占める団体をお示し願いたい。
四 二、三で示した団体について、国と過去一年間、随意契約をしている事例があれば、その内容と金額、契約締結日、案件ごとに適性だったか否かをお示し願いたい。

これ7日間で答えろっていうの? ちなみに平成18年12月時点で公益法人の総数は全国で25000以上(総務省・公益法人データベースによる)。政府答弁は「膨大な作業を要することから、お答えすることは困難である」ということになり、まあ当然だよなと私などは思うわけだが、長妻議員は「「膨大な作業」のひと言で、質問の核心部分の答弁を拒否することは大変問題であると考える」として再度同内容の質問主意書を提出している(平成十八年・質問第二七九号)。問題なのはどちらか、まあ読者の判断されることであろうと思う。

有名なのをもう一つ紹介すると、「キャリア官僚のエリート度に関する質問主意書」(平成十五年・質問第五〇号)。「すべての二〇才代の国家公務員のうち(地方等出向中も含む)、最も部下の多い国家公務員ベスト一〇人をお示し願いたい」とやったらほとんどが自衛隊幹部(小隊長・中隊長)だったとか、「先進国の官僚制度と比べて、日本の官僚のエリート度合いは強すぎるとお考えか。先進国の事例も交えてお示し願いたい」と書いて「『エリート度合い』とか定義してから聞け馬鹿」(意訳)と答弁されたりとか、なかなか趣深い一品である。要するにこの人何を聞くのが効果的かさっぱり理解していないのでとにかく権限を振りかざして質問してるだけなのがよくわかるのだが、これで日経ビジネス誌の記者だったというのが恐ろしい。どういう取材してたのかね。

つまりこのタクシー問題で長妻議員が騒いでいるというのはある意味で放火犯が消防車のサイレンに文句言っているようなものなのである。もちろん接待であれば問題だがそもそも何故彼らはタクシーで帰らなくてはならなかったのだろうというこの点に、他の新聞はそろそろ触れてきているわけだが(たとえば日経・毎日社説)、朝日新聞がその面を完全に無視して社説をまとめたことはいっそすがすがしい。まあ同紙の知的水準にはまだ比較的信頼を置いているので、これが政治的立場と党派意識によって生み出された記事であることを切に祈るところである。

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論点すりかえてんじゃん
仕事が忙しくて深夜タクシー使うのはいいんだって
問題はタクシー券に料金以上の金額書いてキックバック得る違法行為がまかりとおてっることじゃね

>まかりとおてっることじゃね(原文ママ)

社説中では「料金以上の金額をタクシー券に記入して見返りを受ける」行為が罷り通ってかどうかについては「厳しく調べなければならない」としか書いておらず、おおや氏がその社説に言及しつつエントリをしていることからも、その行為について触れることに特に意味はないですよね。

社説が言及しているのなら、その指摘は全く正鵠を射るわけですけどね。

いつも楽しく拝読させて頂いています。
初めてコメントさせていただきます。

私は、元役人で現在は同業同専攻の者です。
私が霞が関に居た10年程前にはこんなことはありえなかった
(もちろん、私がそういう場面に遭遇しなかっただけという
可能性もありえますが)のですが、今回の件は、
この10年間の経済環境や社会構造等の変化が深く関係して
いるような気がしています。(例えば規制緩和が進んで
タクシー業者が悲鳴を上げた結果である等。)
そういう「変化」が端的に現れた事象は、過去の政策を
検証する絶好の機会だと思うのですが、
それを、余り深く考えない国会議員や新聞社や国民などが
キックバック云々という形で矮小に「論点すりかえ」を
しているのが残念でなりません。

その点で、今回の件を統治機構の構造的な矛盾について
書かれた今回のエントリーは瞠目いたしました。

さらに、質問主意書に関する記述は、
内部の人間なら誰でも感じていることながら、
内部の人間だからこそ言えない部分であり、
(失礼な言い方をお許しいただければ)内部に居たことがない
おおやさんが、ここまで的確に問題点を把握されておられる
のは御慧眼の極みだなぁと感じました。

ただ、質問主意書については、行政の人間にとって
はなはだ厄介なものですが、国会の少数派が行政から
情報を得る手段としてはかなり有効なものだと思います。
運用上の問題(7日以内回答要件とか、回数無制限とか)を
改善すれば、立法府の少数派のための道具としては
有益なものであると考えています。
今回はad hocな話でしたので、なかなか総論的な話が
できなかったのだろうと思いましたが、そもそも
質問主意書の意義について、おおやさんはいかがお考えかを
伺いたくなりました。

以上、ちょっと半ば思いつきで書いたものです。
ただ、この点について、お気が向いてお時間頂ければ、
是非、コメントを頂ければ幸いに存じます。

質問主意書といえば、例の「UFO騒動」も発端は野党議員の質問主意書でしたね。

官房長官がUFOについて言及したのがそのためであることもわきまえず、「UFOごときにごたごた騒いでないで年金とかどうにかしろ」(意訳)と町村氏を批判した映画監督さんがいらっしゃいまして(支障があるかもしれませんので特に名を秘しますが、Y本氏です)、いやあ実に香ばしいなあと思いつつワイドショーを観ていたものです(笑)

社説
> 役所のタクシー券は税金で払われる。私費ではない。

今回の件、私はこの点が腑に落ちません。タクシー券というのは、個人で使うのが普通だと思っているのでしょうか。

新聞業界はハイヤーを使っていてこのような問題は無いのかもしれませんが、日常的に使っている他の業界の方は飛び火しないか、ドキドキじゃないかなと。

ちなみに5年ほど前に某通信会社に訪問して、打ち合わせが終わって帰ろうとした時に、タクシー券を渡されて驚いた記憶があります。
そういう業界なんだ~、すごいな~と。
尚、タクシー券は丁寧にお断りしました。だって時間は16時頃で、場所が大手町なのにもらえるわけがないですよね。

>mokeさん
キックバックを得るという不正行為があったことはまだ確認されていないでしょう。まあタクシー側の営業記録と付き合わせないと確認できないので《まだ確認されていない》ことは《なかった》こととイコールではありませんし、絶対になかったという気もありませんが。
ところで「チケットを不正利用する官僚が良くない」ということと「タクシーを利用しないと帰れないような過重労働を強いる政治家が良くない」ということはまったく矛盾しないような気がするのですが、どうでしょう。さらに言うと、たとえ全官僚が清廉潔白でまったく問題のない・最小限度の利用しかしないとしても過重労働がある限りタクシーは利用され、我々の税金が使われるわけですから、そちらの方がより根本的な問題だと思いますが。あえて言えば全官僚が終電前に電車で帰宅できるように労働量が調整されるならば(まあ無理な相談ではあるのですが)ちょっとやそっと悪い官僚がいてもタクシーチケットを利用した不正行為はしようがないわけですが。
というわけでやはり《なんで朝日新聞は「論点すりかえ」るのかなあ》という疑問の方が正当だと思うのですけど、どうでしょうね。

>けんたさん
ども。お褒めいただきありがとうございます。質問主意書についてですが、ちょっと考えたことがあるのでまたエントリを改めて書かせていただきます。はい。

>トリヘドランさん
Y本監督というのは映画を最近撮っていない映画監督の人でしょうか。まあ専門知識も取材もなしでスタジオで素材見て何かを言う種族の人ですから限界があるのは当然で、そういう人に頼って演出するテレビも含めてそういうものだと思うしかないのでしょうが。
その点も含めて、素材をそのまま出してくるMSN産経はえらいなあとメディアにとっては嬉しいのかどうかわからない褒め方をしてみます。でもまあ、ある意味変なプライドがないからできたのかなあ。

>MUTOさん
まあ民間企業の場合は株主が納得してればいいやという話なのかもしれませんが、mokeさんが挙げておられるような悪質な例だと背任が成立するんじゃないですかね。上に書いた通り実例が確認されたでもないのにそういう手口を疑うというのもすごいなあやったことでもあるのかなあというのはちょいとイヤミの度が過ぎてまして、まあタクシーチケットというものを使ったことのある人間ならそういう手法があり得ることくらいは思いつきますかね。
なお私はありがたく頂いて使わないことにしております。じゃあどうやって移動するのかとか相手に気を遣わせるのもイヤだなあというだけのことなのですが、ちょっとしたコレクションが手帳のなかに、と書いたところでいらないからと言って捨てるときにも気を遣わないといけないことに気付きました。やっぱり最初から断った方が楽だったかなあ。

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