on integrity

| | コメント(3) | トラックバック(0)

というわけで前のエントリに対するbewaadさんからのコメントを受けて若干。要は「官僚にとってintegrityとは何か」という問題だと思うのだが、ここでは二つのレベルにわけて検討する必要があろう。第一は、integrityが尊重されるべき価値であるとした場合に官僚はそれを満たし得るのかという問題、第二はそもそもintegrityは尊重されるべきなのかという問題である。

まず第一点は、民主政においてごく当然であると考えられる以下の三条件が満たされる場合に、官僚がintegrityを持つことができるのか、という問題。

  • 異なった政策パッケージを有する党派(連合)が複数存在し、その間での政権交代がある。
  • 政策を決定するのは議会であり、官僚を含む行政府はそれを執行する。
  • 個々の官僚には、特定の政策パッケージに対するコミットメントがある。

別の言い方をすれば自分が反対している政策パッケージを掲げる党派が政権を握った場合に官僚はどうすればいいのかということになるのだが、この問題に対する回答はだいたい2種類である。まずひとつめはアメリカ型、すなわちその場合は辞職するべきであって空きポストは現政権に忠実な人間が埋めるであろうというもので、まあ個々人のintegrityは尊重されるのだが行政の継続性(やたとえばそれによる熟練度)は犠牲になるし、交代要員の大きな人材プールを用意しておかなくてはならないという問題もある。たとえば共和党政権下で民主党に忠実な人材はシンクタンクとか大学のポストで食いつないでおり、政権が交代すればその人たちといま行政府にいる人々が入れ替わるわけであるが、要するに官僚(予備軍)を2セット用意しておかなくてはならないわけで社会的にはその分コストが余計に必要になっている(もちろん効用も増えているかもしれない、のではあるが)。いずれにせよこの場合、integrityは重要な規律だと言って差し支えないのではないかと思われる。

ふたつめはとりあえず「面従腹背型」と言っておこうか、つまり官僚(団)は政権交代があっても入れ替わらないというシステムで、当然ながらこの場合上記の問題には個人的なコミットメントを犠牲にすることで応えるわけである。じゃあこのような官僚にはintegrityがないかというと、しかし「政治の決定に従い、それを忠実に執行する」という意味では一貫している。つまりそこでは、特定の政策パッケージを支持するか・しないかという決定のレベル(「一階のintegrity」)ではなく、どういう理由でそのように決定するかというレベルが問題になっているのであるから、これを「二階のintegrity」と呼ぶことができるだろう。個々の官僚にとって「政権が変わったのでやる内容が変わります」というのはOKでも「気が変わったので」とか「阪神が優勝したので」政策変更します、という行動はやはりおかしいなあという感覚があるとすれば、そこでは二階のintegrityが尊重されており、その意味でintegrityは重要な規律だとまだ言えるのではないかと思われる。

だが根本的な問題としては第二点があり、そもそも政権交代が何故生じるかというと有権者にintegrityがないからだ、という見方も十分可能である。もちろん個々の有権者にはintegrityがあるのだが世代交代や人口移動によって多数党が入れ替わるのだとか、政権党は必ず腐敗するので有権者の評価が低下していくのだとか、そういう説明も可能ではあり、どちらがより説得的かは経験的研究によるべきだろうと思うが、そもそもintegrityがないといかんのかと聞かれたらどうするか。

私の場合、いやそれがないと「個人」とか「人格」とか、さらにはそれを基礎とした「責任」とかいう概念が機能しなくなってしまうではないかと(やや力なく)言ってみるわけだが、たとえば安藤馨に「そういうものも丸ごとひっくるめていらないですよねえ」と言われたらどうするかというと、わりとどうしようもない。第一には「責任」とかなくても個々人の不幸が回避されるように統治が行われるのです(そういうアーキテクチャが作られるのです)と言われてしまうからだし、第二に個々の「有権者」はすでに責任を問うシステムの外側にいるからでもある。無記名投票によって個々の「有権者」が特定できなくなる以上、問題にし得るのは集団としての行為のみであって、逆に言えば「有権者」はすでに免責されている(そこで井上達夫のようにだから無記名投票けしからんよねえという方法もあり、いやまあ権力の暴走可能性を考えるともごもごと口ごもる私だけが両者の中間で問題を抱えるわけだが)。

しかし他面において、「移り気な民意」をそのままに受け止める安藤的システムが——「integrityなりreversibilityを頑なに守る」システムと同様——「民主政などやめて」しまっているのも事実なのである。だって人民は完全に幸福な統治の対象であって、主体じゃないんだもんな。民主政の可能性というのは人々が実際にはintegrityに従わなくともそれを尊重するところにしかないのではないか、だとすれば「integrity重要」という言説は強調されておかないといけないのではないか、と思うところなのである。あまり結論的にはbewaadさんの「毒抜き」というものと変わらないのだが、何故そうなるかという話の筋道なのであった。

なおintegrityについては「どう訳すか」問題があり、要は行動に一貫性があるとか整合性があるとか矛盾していないとかそういう概念だがもう少し強いような気がする。たとえば「よし、コーヒーを飲もう」と口に出したが炬燵から動かない人というのは別に行動が矛盾しているわけではないがintegrityがない。「純一性」という訳語もあるがちょっと日本語としてなじまないような気がするので、私は「統一性」とか「首尾一貫性」(ちと長い)とか訳している。あと本エントリ全体について参照、大屋『自由とは何か』(宣伝)。

Trackback(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: on integrity

Comment(3)

Gryphon さんのコメント (2007年10月10日 19:54):

やっぱり米国的な政治任命のほうが、長期的に見るとすっきりしてお徳なんじゃないですかね。


五百旗部真防衛大校長が9.16付の毎日新聞で書いてたのですが

「日本ほどの先進社会は、二つの能力ある政党を持って当然なのである」

という、ある種ナショナリスティックな言い方(笑)をしていましたが、「野党的完了予備軍」がいる社会というのはなかなか面白そうだという気がします。
でも、大学やマスコミにそういう人が巣食う(という表現をする時点で駄目だなあ)のを、あまり温かく見守る自信もないな。そのへんから意識を変えなきゃいけないですかね。

おおや さんのコメント (2007年10月14日 01:16):

え〜すいません、統一のためにタイトルのcapitalizeだけ変更しました。

>Gryphonさん
あれも一つの解決策だとは思います。でまあ前にも書きましたが大学の肩書きがあるから中立的な(少なくともそれを偽装すべきだと思っている)意見だ、ではなくて党派的なバックグラウンドを気にしなくてはならないとか情報リテラシーで対応すればそれはそれで成立するのでしょう。
ただその、待避先としては大学やシンクタンクだけでなくて民間企業がもちろんあるわけですし、そことのつながりとかいう問題は当然に出てきます。というか民間で高給を稼げる人材がなぜわざわざ給料の安い官職に就くかといえばそこからパイプとかノウハウとかが得られることを期待して次に民間がさらに高い給料を払うからなので、官民の癒着がはるかに構造化されてるよね、という見方もできます。
私個人としてはアメリカモデルってあまり高く評価していないので、二大政党化するとしても専門官僚制と組み合わせる仕組みを考えた方がいいと思っています。イギリスとか古典的にはそうだと言われてましたけどね。

政治学者の卵 さんのコメント (2007年10月14日 09:45):

亀レスですが,アメリカでも(というかアメリカですら)きちんと2セット用意するのには失敗してるような気がします.原因は二つあって,ひとつは政党ごとに得意分野があるというか当該分野の専門家がどちらかの政党に偏って存在していること,もうひとつは4-8年くらいで政権交代が起こっていればともかく12-16年くらい政権が続くと,その間野党だった側に実務経験が不足すること,でしょうか.

例えばクリントン政権発足時には,81-93年まで共和党政権が続いたことと,カーター政権以降外交安全保障関連の専門家がほとんど共和党に行ってしまったので,外交安全保障分野における人材不足ががかなり顕著だったわけです.で,専門家が圧倒的に足りないので共和党員やネオコンを国防長官やCIA長官といった要職にすら入れたりして補っていたわけで.また他方ブッシュJr政権で内政分野で経験の無い人間が要職についていることが批判されるのには,政権にとって政治的に信用できてかつ当該分野で専門能力や経験を持つ人間が足りていないからかと.

そういうのを見てると,やっぱり官僚組織は一セットで,その代わり官僚側に「政治の決定に従い、それを忠実に執行する」+政治側に「前政権にとって忠実だったからといって,それを理由とした意趣返しをしない」といったシステムのほうが効率いいんじゃないかと思います.

ちなみに,アメリカ人に日本の制度をうんぬん言われたときに僕が言い返すのは,「なんでお前ら軍隊組織の上のほう(例えば大佐以上)を政治任用にしないんだ」ってやつですね.結局,安定的で専門的な官僚組織の有効性ってのは連中でもわかってるわけですよ.他方,軍隊のほうでも(建前だけでも),「政治の決定に従い、それを忠実に執行する」ってのは叩き込まれてるわけですが.

Write Your Comment

August 2008

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

Recent Comments

政治学者の卵 on on integrity:
亀レスですが,アメリ
おおや on on integrity:
え〜すいません、統一
Gryphon on on integrity:
やっぱり米国的な政治

Monthly Archives