立法学シンポジウム(当日)

| コメント(0) | トラックバック(0)

P1000298というわけでシンポジウム「より良き立法はいかにして可能か: 立法の実践・制度・哲学を再考する」に行ってまいりました。写真は会場の大ホールですが、150人以上ご参加とのことなのでまあ盛況だったのではないでしょうか。私自身は新幹線の時間の都合があってパネルディスカッション残り10分くらいの時点で退出してしまったのですが、議論も盛り上がっていたと思います。その大きな要因としては報告者の中に大変に喋りたがりサービス精神旺盛な方々が多数お見えになったことが挙げられると思い、何というか司会の井田先生のご心痛やいかにという感じだったのですが、お前もその混乱に拍車をかけただろうと言われると返す言葉もありません

全体の議論について言うと、「立法学」と言った場合の中身としては大きく(1)いかなる政策目的が立法に適しており、あるいは立法によって対処することが許されるのかを検討することと、(2)所与の政策目的を適切な実定法規へとencodeする方法を研究すること、の二つが(関連する部分はありながらも)別々の課題として考え得るところ、そのいずれを中心的な問題と考えているかに報告者の間で意識の違いがあっただろうなという気がする。

(1)についてはたとえば、個別具体的な事例の解決は司法に委ねるべきであり、立法は一般的・普遍的な規範の定立に関わるというような原則を想定することができる。が、それが何故なのかに関する説明が十分なされてきたとは言えないし、逸脱事例も(高見報告が指摘した個別事例のための法律や、井上報告に登場する政策形成訴訟がそうであるように)相当に存在する。他方(2)について言えば以前から「法政執務」という言葉で扱われ、スタンダード的教科書も確立しているように、昨今その水準が低下しているのではないかという懸念は指摘されるものの、蓄積のある分野であろうと思う。もちろんそこで政策目標が「所与」となっている点が問題であって、特に昨今政治がどのような目標の実現をめざすべきかについて大きな議論があるなかで従来からの(2)だけで十分なのだろうか、という問題意識は法制定に関わる実務家のあいだからも聞かれるように思う。

その意味で、立法学の可能性事態に懐疑的な加藤雅信報告は主として(2)への疑念であるところ、川崎報告が指摘しているような政策プログラム法の増加や、高見報告に登場した個人の家庭内の事柄・私生活上の事項に介入する「お節介な法律」(高見)の繁茂という問題を見逃しているのではないかとの疑念なしとしない。私が質疑において指摘した、立法学の使命は理想的な立法目的の特定といったポジティブな課題にあるのではなく「これはやってはいけない」というネガティブな排除にあるのではないかという点は、この問題に関連している。

その一方、松原報告はそのような視角からポピュリズム的立法論議とその前提をなすマスコミ報道のあり方などに関する問題を指摘し、専門家による冷静な議論と世論の善導(などという露骨な表現を松原教授が使われたわけではないが)を要請しているように思うのだが、人民主権の民主政という我々の政治制度の建前に照らしてそのような限界付けをどのように正当化するのか、現実的にポピュリズムによく抗し得るのかという問題は指摘できるように思う。

個人的には、松原教授の指摘した刑事法における逆転可能性の欠如という問題、すなわち法改正をめぐる議論に参加するのが被害者とそれに同調する人々にほぼ限られており、(労働法分野に関して濱口報告が紹介したような)利害の対立する双方当事者の参加が確保されない、だから犯罪者が激高する世論をなだめるためのスケープゴートとして用いられがちなのではないかという問題に対しては、むしろ犯罪者団体を組織化することによって、すなわち対抗的な言説を奨励することを通じた民主政の活性化によって対処する方が健全なのではないか、と考えている。

高見教授への質問において私が「お節介な法律」という表現をそのまま用いたことに対して、濱口教授は「誰がお節介だと決めるのか」と述べられ、つまりあるべき立法課題の範囲・その限界といった事項もそれ自体として民主政に委ねられるしかないのではないかと指摘されたのではないかと思う。利害関係者のベタな議論の方が、本来は馴致され・純化された人民の意見を代表すべきものと想定される国会議員の発言などと比べてもレベルが高い場合があるという趣旨の実例も、その文脈で出てきたものではないだろうか。しかし私としては、ポピュリズムの特徴というのはまさに利害関係の特にない一般大衆の素朴な感情が動員されるところにあるのではないかと思うので、利害関係を持つものが真剣に議論する方が良さそうだという点では濱口教授に同意見だと思っている。法案審議過程に民主的要素を導入するという高見教授の提案を批判したのも結局それは監視人の監視人の監視人の……を作ることにならないか、それよりは現在のシステムがきちんと機能する前提を整備することを考えた方がいいのではないかという趣旨なのであった。

いずれにせよ、聞き応えのある報告が揃っていて久々に満足して帰ってきた。事務方を切り回していた谷口さんお疲れさまと、まあそういう話である。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.axis-cafe.net/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/458

コメントする

2012年10月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Monthly Archive

Webpages

Powered by Movable Type 5.14-ja