泡沫やあわれ(2)

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なおさすがに(婉曲表現を取り去ると)「馬鹿かお前は」という指摘が集まったらしく、同議員は翌日のエントリ「裁判員制度に知られざる「罠」、裁判員面接での選別の論理 (リンクはウェブ魚拓)において、上記のように検察弁護両サイドが対等になっている点、あるいはアメリカの陪審員制度でも同様の忌避が認められている点の指摘に対して反論しているが、まあおおむねこういう場合にそうであるように追加的なエンバグをしているので簡単に指摘しておく。

まず「アメリカの捜査と日本の捜査は透明度は同一なのだろうか」という点について、たしかに透明度においてアメリカの方が優れている面があることは事実である。しかしでは透明だったらその捜査機関は信頼できるのか。保坂議員自身が言うように「アメリカでも冤罪事件が後を絶たない」のであって、つまり信頼できないから透明化させられたと疑ってみることは重要である。逆に日本の捜査機関の透明度が低いのはそれでも国民に信頼されてきたからという側面はあり、まあ最近あやしいので取り調べ可視化の話が出てきているわけだがそれでも「アメリカの捜査機関の方が信頼できる」とか言えばおそらく両国の法曹を含めて多くからは失笑されることだろう。

次に「陪審員が全員一致で判断するかどうかで有罪・無罪を決める陪審制」というのはほぼ神話である、という指摘はすでにしたことがあるが、重罪に関する刑事裁判では全員一致原則がほぼ維持されているようなのでこの記述の範囲では誤りではないだろう。しかしもちろんそれが可能なのはどうしても意見を変えない陪審員がいて評決不能(hung jury)に陥った際に全体のやり直しを命じることのできる裁判官が陪審の外にいるからであって、日本のように裁判官と裁判員が合議体を作って特別多数決で決める制度では同じことができないのである。まあつまりたしかにアメリカの陪審制と日本の裁判員制は別物であって、「アメリカでもやっている」が「理由を示さない不選任の請求」の十分な根拠にはならないのだが、だからといって両サイドの公平性が崩れているという話にもちっともならないというのがポイントであろう。批判の問題性は批判されている意見の正しさを証明しない。

さらに弁護士のブログから「陪審制を採用している米国でも裁判官の質問制度はあるが、このようなアホな質問は許されない」、たとえばマサチューセッツ州では以下の6問であるという反論を紹介しているが、これもまあデタラメといってよろしい。だいたい法律問題について「アメリカではかくかく」と断言する人間はほぼシロウトであり、何故かというと連邦と各州では司法制度も訴訟手続もバラバラなので「○○である法域が多い」とか「××であるケースが中心」程度のことしか言えないのが大半だからである。だって二審制か三審制か、全員一致評決を維持してるかどうかも州によって違うんだぜやってらんねえよ。

でまあ陪審員選任に関する予備尋問(voir dire)もその一例であって、質問が許される範囲、質問するのが裁判官か検察官・弁護人なのか(直接質問が許されるかどうか)も法域によって違うのである。というわけで「アメリカでは許されない」とか書く時点で電波だ電波。と言うだけでも芸がないのでちょいと情報をご紹介すると、たとえば連邦司法省が公開している検察官のためのマニュアル(United States Attorneys' Manual)によれば、予備尋問の際にする質問の例には以下のようなものが含まれている。

11. あなたは連邦政府やその機関、特に司法省・連邦検察庁・住宅都市開発省に対して、この事件において公平な陪審員を務めるために障害となり得るような意見や見方を持っていますか?
16. あなたは不動産の持ち主はそれを賃貸している場合でもその不動産を好きなように扱う権利を持つべきだと信じていますか?
25.あなたは、政府は黒人やその他のマイノリティの権利を守りすぎていると思いますか?
27. あなたはマイノリティのためのアファーマティブ・アクションを定めた法律に反対ですか? より能力の低いマイノリティがアファーマティブ・アクションのおかげで就職や昇進できていると信じていますか?
31. いつも聞いているラジオのトーク番組がありますか? あったら、その番組のホストは誰ですか?

なお住宅都市開発省だの不動産だのが登場しているのはこれが住宅賃貸に関して人種差別が疑われた場合の訴訟例だからだが、当該事件に関連し得る政治信条として連邦政府全体・検察への意見が問われているのは見ての通り。ラジオのトーク番組を聞いているのはつまり人種偏見を煽り立てるような番組を聞いている人間を排除するためだが、ここではつまり公平性を確保するためには個人的な事情まで突っ込んで聞かないといけないと想定されていることが確認できる。

こう書くとそれは検察のマニュアルだからだという反論が返ってくるかもしれないので(人種差別と闘っている検察ですがと言い返したくはなるが)、もう一つ、アメリカ弁護士会連合の公開している例を紹介する。5月1日の「法の日」に7〜9年生(日本でいうと中学生)にこういう授業をしたらいいんじゃないかな? という教材サンプルから。

8. あなたはアルコール飲料の販売や摂取を批判する宗教団体や友愛団体に属していますか?
14. あなたは我々の司法システムは公正だと思いますか?
20. アルコール飲料を飲んだ人とのあいだで不愉快な経験をしたことがありますか?
28. あなたはこの事件の被告人よりも警察官を信じるだろうと思いますか?

なおこちらは飲酒運転容疑のケースが想定されているわけだが、というわけで「このようなアホな質問」だらけである。もちろんアホはどちらか、というだけの話なのだが。さらに続く。

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