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近代国家の外の風景

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ラオスの奥地の山岳民族を近代国民国家に編入するために警察官僚がひどい目にあった話なぞを懇親会でしていたところそういう途上国の現状とか社会のイメージというのがなかなか日本にいるとよく見えないというご指摘を受け、その通りだと思ったものの私の前でそういうことを言うとアゴアシマクラ付きでタシケントご招待とかいう案件を嬉々として持ち出すので注意した方が良い件について(挨拶)。ん〜その、楽しいですよ? ホテルの風呂の栓は閉まらんけど。

さてこの問題についてちょうど良い本が出たのでちょっとご紹介。高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫、2007)は著者がアヘン生産で有名な「黄金の三角地帯」の中心地、ミャンマー北部の「ワ州」という反政府ゲリラ支配区の農村で7ヶ月生活し、実際にケシの栽培からアヘンの生産、さらにアヘン中毒まで体験した記録というとんでもない本である。

中国とミャンマーの国境付近にあるこの地域は、もともと山岳地帯に住む(というよりはおそらく中国系・ビルマ族の進出によって山岳へと追いやられた)少数民族がたくさんいた場所で、ビルマ王朝時代も「藩王」という豪族によって半独立的に統治されていたに過ぎないし、イギリス植民地時代も一応その領域内には入っているもののほぼ実効統治をなし得なかった。まあ「首狩り」の風習がある民族が峨々たる山脈で抵抗してるわけで、あんまり突っ込みたくなくなる気持ちはよくわかる。いずれにせよ、その後ビルマが独立するとヤンゴンの政権に抵抗するビルマ共産党の支配地域となり、それを支援していた中国とミャンマー軍事政権の関係が良くなると共産党がお払い箱になって地元民族の独立運動が反政府ゲリラとして成立したのだが、つまり何がポイントかというと高野が正確に指摘する通り、いまだかつて国民国家の一部になったことがない地域だというすげえ事態である。近代国家の周縁云々ではなく、最初から「まだない」というこの地域で生産されたアヘンが、あるいはヘロインとなって先進国に大量流入しているわけだ。

で、高野はそこで実際には何が起きており人々がどのように暮らしているのかを見届けるために、ワ州を現に支配している反政府ゲリラと話をつけて本当に住んでしまうわけである。そこで彼が見出したものについては読んでもらうのが一番正しいと思うが、抱腹絶倒ものであると同時に国家とか社会とか民族とかいうものについて非常に考えさせられる内容であった。たとえば、村人たちのまさに原始共産制的な生活(したがってこの地域では共産党が原始共産制を破壊したのだと、高野は指摘する)、しかしその中にも貧富の格差やさまざまな人間関係が存在していること、ワ州を実効支配しているゲリラの中に残る中国共産党的な官僚主義と、村人に対する搾取。アヘンの生産と取引の背後に何があるのか。近代国家なるものを批判するのは簡単だし、その批判ももちろん必要なものではあるのだが、しかし私としてはそれが近代国家なき社会を正しく理解したうえで為されているのか、とは問いたいところがある。この本は、そのような非=近代国家的な社会の一つのありかたをとても読みやすく我々に知らせてくれると思う。とてもおすすめ。

同じ著者で『ミャンマーの柳生一族』(集英社文庫、2006)という本もあり、こちらはヤンゴンを中心にミャンマーを支配している軍事政権下の社会と、その重要な統治機構である軍情報部について扱った本で、作家・船戸与一との取材旅行の記録である(なお著者はこのときはじめてミャンマーに合法的に入国したとのこと)。表題中の「柳生一族」とはつまりその軍情報部のことであり、本屋でたまたま見かけて半分くらい立ち読みして面白えなと思ったがちょっと筆が受けに走り過ぎてるかなと思うところもあって買わなかった。が、上の『アヘン王国潜入記』と合わせるとちょうど表と裏の関係になっているわけで、こりゃ買って読まないといかんと認識を新たにしたところである。

***

なお文中「ミャンマー」「ヤンゴン」の表記を用いたのは軍事政権であっても同国の当局として機能している実態を尊重したものである。また、書名はamazon.co.jpにリンクされているがアフィリエイトはしていない。

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