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君が代判決の周辺
とんでもねえあたしゃ助教授だよ(挨拶)。いやまあ職名がAssociate Professorでも敬称は普通Professorなので「おおや教授」と書かれても間違いとは言い切れないのですが(学位持ってねえからDoctorも使えないしな)。なお助教授であるのもあと一月です。別に昇進するわけではなく学校教育法改正で職名が「准教授」に変わるだけでして、英語では従来通りAssoc. Prof.のまま。
さて、缶詰め中に「君が代のピアノ伴奏命じた校長の命令は合憲 最高裁判決」(asahi.com)というのがあり、別に判決自体にはそう意見もないのであるが報道や判決に対する反応に気になった部分があるので若干書く。
一つはasahi.comの記事でも「最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は(……)との初判断を示し」というような書き方になっている部分。システム的に仕方のないところもあるのだが、テレビではこのあたりが「最高裁第三小法廷の那須弘平裁判長は(……)と述べ」みたいな言い方になっていてちょっと気の毒だと思った。というのはasahi.comの記事の下にも出てくるが、この判決には藤田宙靖判事の反対意見以外に補足意見(結論も理由付けも多数意見に同意するが付け加えたい内容がある)があり、これを書いたのが実は那須裁判長である。
まあ結論同旨なのでこの場合はそう問題もないが、判決が裁判官の多数決(小法廷の場合は5人中3人)で決まるということは裁判長本人が結論に反対というケースもあり得るので、判決についてはあくまで「最高裁第X小法廷」のものとして、組織のものとして扱うのがよいのではないかと思ったことである。
この点、下級審の場合には合議といっても裁判長と陪席裁判官のあいだには率直に言ってかなりの格の差があり、従ってまあ多数決だとは言われているものの議論のイニシアティブを握っているのは裁判長だろうから、「XX裁判長は……」式の言い方でもよいかとは思う。それに対して最高裁の場合、まあ年齢とか最高裁判事としての先任順とかで若干の上下感覚があるかもしれないが各判事は基本的にほぼ同格であり、裁判長も事件ごとにかわるがわる決まっているだけなので、たまたまその事件を担当したから判決の責任を負わせるというわけにもいくまいよと、まあそういう話。
なお当該判決における藤田反対意見は、(1)本件で問題になっている「思想」の内容を君が代に対する否定的評価ではなく評価の分かれている行為を強制することに対する否定的評価だと解すればそれが憲法によって保護される可能性があること、(2)その思想を保護する重要性とピアノ生演奏の必要性を比較考量すると前者の方が重くなる可能性があることから原審に差し戻すべきことを主張したものなので、第一に本件における強制が違憲であると判断したわけではない。(1)を考慮すると具体的な事実によっては違憲になる可能性があるところ、原審はその点の審理が十分ではないので補充すべきだと言っているのであり、直接的に本件の合憲性について判断しているわけではない。
第二に、仮に「君が代が国歌であることは認めるが、意見が分かれている以上それを強制することには反対」という立場を考えれば、その中にある「意見が分かれているものを強制するのはよくない」という信念は一定の保護に値する(「自由主義・個人主義の見地から、それなりに評価し得る」)のではないかと主張しているので、単に自分にとって苦痛だからというだけでは命令拒否の正当な理由にならないことは当然の前提になっている。それはたとえば「「およそ法秩序に従った行動をすべきではない」というような、国民一般に到底受け入れられないようなもの」に対する否定的記述からも伺うことができよう。このあたりを理解していない人もちらほらと見かけられるのだが、判決原文読んでないんだろうなあ。
多数決なのがおかしい、アメリカの陪審は全員一致でしか結審しないとか言っている人もいて腹を抱えて笑う。第一に、アメリカの連邦最高裁判所も判決は裁判官9人の多数決で決める。連邦控訴裁判所も多数決である。第二に、陪審員全員一致でないと評決ができないというのは確かにコモンローの伝統だが、それは小陪審(審理陪審)のことであって、大陪審(起訴陪審)はやや特殊な多数決である(連邦の場合16名以上23名以下の陪審員のうち12名以上が起訴する根拠ありと判断した場合に起訴)。まあこれは「審理中のことを話題にしているんだ」と言えばいいからたいした問題ではないかな。
第三は12名全員一致の伝統はアメリカでも崩れつつあるということで、州の中には陪審員が12名いる必要はない(事故により数名が欠けても評決できる──イングランドの例だがCriminal Justice Act 1965で9名以上12名以下ならよいとした)とか、全員一致を緩めた例が相当数見られる。連邦の民事陪審も6名以上で評決を下すことができ、当事者の合意があれば非全員一致評決が認められる(連邦民事訴訟規則48条、浅香吉幹『現代アメリカの司法』東京大学出版会)。ただ、連邦の場合そもそも当事者の合意が必要だし、州の場合も1〜3名の反対があっても構わないという程度に緩めたもので単純過半数まで落としたものは見当たらないそうなので、「過半数よりは厳重だ」くらいならまだ言うことができるだろう。まあ今回の最高裁判決は4:1なわけだが。
言いたいのは「12名全員一致の評決」というのがもはや金科玉条ではないということで、さらに言えば全員一致原則というのもあくまで一致しなければ陪審員の選任からやり直すという前提でのみ維持できる、訴訟全体が裁判官の指揮下にあるから可能な制度であるに過ぎない。「12人の怒れる男」でも見たのかしら映画は現実ではなくってよ、とか言いたくなるところではある。なお本件訴訟は処分取消しを求めたものなのでエクイティ上の訴訟でありアメリカでは陪審審理の対象にならない事例なんじゃねえかという疑念が私の中では膨らんでいるのだが、詳しい人がいたらご教示を請う。
まとめ:「ちゃんと読め」。
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「○○裁判長は・・・と述べ」式の表現には私も違和感を抱いてました。もっとも、個人名を出さずに「第三小法廷は・・・」という報道をすると逆に違和感を感じる人もいるでしょうし、難しいですね(合議体全構成員の名前を列挙するわけにもいかないでしょうし。)。
合議体で意見が割れるケースも現実には結構ありますよね。ただ、最高裁の場合は少数意見を書くことができるからまだ精神衛生上いいと思います。下級審の場合、意に沿わない判決でも自分が書いたもののように扱われ(特に裁判長)、評議の秘密ゆえ世間の批判を受けても弁解できず、結構つらいと思います。住基ネット違憲判決を言渡した直後に自殺された裁判長がおられましたが、合議に敗れたのが原因なのかなあと何となく思いました。
君が代判決自体については私も特に意見はないです。
原告の女性教諭のコメントを読んで、興味がわきました。
彼女は、
>自由に心の表現ができる音楽を否定し、権力の道具におとしめるものだ
とコメントしてますが、このコメントと、教育の場で、教師として生徒に音楽を教えること(つまり、成績評価を伴う活動)とが、彼女の中で両立できているのでしょうか?「自由に心の表現」をした結果を、どのように評価し、成績を付けているのか、知りたいです。
>女性教諭「大きな憤り」
>原告の女性教諭(53)は判決後、記者会見し、「職務命令を是認し、思想・良心の自由を認めない判決が出されたことに政治的意図を感じ、大きな憤りと司法への不信感を隠せません」と語った。
女性教諭は「上告してよかった」と開口一番に話したが、「日の丸・君が代は強制されるものではない」と強調。その上で、「この判決は、自由に心の表現ができる音楽を否定し、権力の道具におとしめるものだ」と判決を改めて批判、今後は同じような立場の教師らを支援していきたいとした。(一部略)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/41182/
この裁判もそうですが、学校現場と、社会の現実との落差を痛感することが、多いです。
>HN忘れた さん
ども。「判決は……」でいいんじゃないかという気はするのですよね。あと新聞報道の書き方はまあ許容範囲だろうなあと。
下級審の場合に意見表に出せないし、というのはその通りなんですが、実際に合議が割れてしかも裁判長が孤立して負けるケースってどのくらいあるんでしょうね。まあ書いてくれないので(笑)中の人にでも聞かないとわかんないところですが。
>TKさん
まあ第一にマクロの権力を問題にする人は往々にしてミクロの権力を忘却しがちであるというのと、第二に学校という社会の特殊性という前にも書いたような話なのかなと思います。
しかし私のような人間によくわからないのは、テープは用意されているわけだし自分で演奏するのが苦痛だというならなんでその日に風邪引かないのかなというあたりなのですが、そうしないあたり結局自分の信念は他者に強要しても構わないと考えているのであって藤田反対意見が想定するような反転可能な主張じゃないんじゃないか、という気はしました。はい。
はじめまして
メール・アドレス等が見当たりませんでしたので,記事とは無関係な書き込みをこちらでさせていただきますが,どうかご容赦ください.
当方は
http://mltr.e-city.tv/index02.html
というサイトの管理人をしておりますが,このたび,このブログにおける貴氏の記事を引用させていただきましたので,お知らせいたします.
http://mltr.e-city.tv/faq05f02v.html#08105
の下のほうになります.
引用権の範囲内かと存じますが,念のため,お知らせする次第です.
それでは,今後ともよろしくお願い申し上げます.
>消印所沢さん
ども。厳密に適法引用の範囲内かと聞かれると主従性の用件から若干疑義がないわけでもないと思いますが、いずれにせよ私が異議を唱えることはありませんので問題ないです。
利用していただいて光栄とするところです。ご通知いただきありがとうございました。
ご快諾いただき,ありがとうございます.
>厳密に適法引用の範囲内かと聞かれると主従性の用件から若干疑義がないわけでもないと思いますが
うっ…,もっと勉強いたします.orz