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つみのこし(1)

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というわけで昨年の課題のつみのこし処理シリーズであります。まず最初に「非効率」に寄せられたTKさんのコメントに関連して、多民族・多言語国家における軍隊の話。戦場という極限状況を想定した場合、コミュニケーションに齟齬があるとやはりまずいわけで、まあ単純に考えてどれか特定の言語を軍隊内の公用語にしているか、あるいは言語別に部隊編成をしているかの二パターンくらいであり、しかし戦国時代の合戦ならともかく兵種間・部隊間の連携が重要な近代戦において後者は実現困難だよねえ、というくらいが事前の予想。ウズベキスタンで実際の事例について話を聞く機会があったので簡単にまとめると前者、ということでした。

話を伺ったのはソ連時代に実際に兵役に行った先生だったのですが、当時軍隊内で使われる言語はロシア語に統一されていたそうです。四十代の方(だと思う)なので軍隊にいたのは1980年前後でしょうか。大祖国戦争の頃ならともかく、もうソ連全土でロシア語教育が行なわれるようになって数十年たっていたでしょうから実用的にも問題はなかったんでしょうな。当時の東側諸国ではロシア語が現在の英語のようなlingua franca(共通語)的地位を占めていたわけです。N古屋大学が法整備支援事業の支援対象国から人を呼び集めてシンポジウムを開催したら「こっちの方が話しやすいよねえ」とか言ってみんなでロシア語で会話を始めてしまい、ホスト側のN大関係者がポカーン、という事件があったとかなかったとか。

さてそれがウズベキスタン独立後にどうなったかというと、現在のウズベクは約80%のウズベク人と、ロシア人・タジク人・カザフ人・カラカルパク人・高麗人などの少数民族からなる国家ですが、軍で使われるのはウズベク語にかわったそうです。すると、少数民族の中でもロシア人や高麗人にはウズベク語を話さない人が多くいるので、その人たちをどうするのかという問題が生じそうですが、その先生によれば現状では問題は起きていないとのこと。軍隊で使う程度であれば勉強するのも難しくないから、というのも一つあるそうですが、最大の理由は必要となる兵員が大きく減ったからということのようです。

つまり、旧ソ連時代は冷戦もあって大量の兵士を徴兵によって維持しておく必要があり、その兵士間のコミュニケーションを維持するために共通語としてのロシア語教育を普及させる必要があったわけです。一方、ソ連崩壊後の独立国ウズベキスタンは、もちろんアフガニスタンやタジキスタンなど情勢の不安定な国家が周囲にあるから気は抜けないわけですが、周辺諸国との軍事的緊張が高まっているわけではなく、「国を守る」ために必要な軍事力は大きく縮小している。青年を軍隊に拘束すればその分国家の生産力・経済力その他にはマイナスの影響があるわけですから、かつてのように全員とにかく軍隊に入れるというのではなく、国防を維持するために最低限必要な兵力だけに限定する方針に変わってきているわけです。

他方で兵役を志願する若者は多い。これは兵役を終えると進学や就職・社会保障の面でさまざまな特典があるというのが理由らしいのですが、すると軍隊というのは「買い手市場」になる。この状況では、たとえばウズベク語を公用語にしてしまってそれができない人間は排除する、という方針でも十分な兵力が維持できることになるわけです。実際、ロシア人や高麗人でも兵役を志願する場合にはあらかじめウズベク語を勉強しておくと、まあそういう話のようでした。

かつては身体にちょっとやそっとの不具合があっても軍隊に取られたけど、今では未治療の虫歯で排除されちゃうんだよね〜、というのがその先生の話。実際、日本法センターで勉強している中にも兵役に参加している学生がいるのですが(とはいえ一定期間行きっぱなしではなく週何回みたいな話なのでアメリカのROTCみたいなもんかと思うのですが)、それは名誉なこと、優秀な学生であることの証というような捉え方をされているようではあります。

ただこれを逆に見れば、軍事的緊張が緩和されたことが民族間の分断に結び付いていると言うか、兵役の恩典とか軍を通じた社会的上昇の可能性が母語によって制約される結果になっているわけでもあります。それ自体を是とするか非とするかはともかく軍事的緊張がnation state buildingを促進するという、まあしかしフランス革命を見ればそりゃそうだよな、というお話でした。

***

ところでタリバン後の新生アフガニスタンでどうしているか、という話が松本仁一『カラシニコフII』(朝日新聞社 2006)に出てくる。そこで引かれる米CIAの統計によるとアフガニスタンの民族構成は約43%がパシュトゥン人、27%がタジク人、ペルシア系のハザラ人とウズベク人が約9%ずつ、その他トルクメン人などであって、これが言語的にはパシュトゥー語とダリ語(ペルシア語の方言)に分かれている。新政府では両言語とも公用語とされたのだが、軍隊はダリ語に統一されている、とのこと。

Wikipedia「アフガニスタン」によればたいていのアフガン人はダリ語がわかるというので、だからそういうことになったのか、あるいは多数派のパシュトゥン人が国家を独占し過ぎないように軍隊は別系統の言語を採用することにしたのか。ちょいと興味深い話だなと思ったわけであります。

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Comment(5)

名無し院生 さんのコメント (2007年1月12日 20:25):

>アフガンの国防軍使用言語
現在のアフガン政府の中核になったのがダリ語系言語を使用する北部同盟(特に国防軍においてはタジク系)であったことが大きいのではないでしょうか?

bun さんのコメント (2007年1月13日 07:55):

放送大学の英訳名が巧妙にもUniversity of Airという訳になっていて、これを見た外国人はほとんど全員、空軍関係の大学だと誤解し、日本の軍関係の大学を出ているなんてよほど優秀な生徒だと思うのではないか、と思っております。

おおや さんのコメント (2007年1月15日 01:58):

>名無し院生さん
ああ、そうかもしれません。なるほど。
ただ兵士の新規募集については各民族の人口比におおむね対応した定員にしているらしく、偏りを薄めようということではあるのだと思います。

>bunさん
軍学校はacademyかcollegeじゃねえですか、と書こうとして調べたらアメリカ空軍にはAir Universityってのがあるんですな。というか空軍の教育機関は基本的にこのAir Univ.で、その中に目的に応じたacademyとcollegeが設置されているという形態らしい。というわけでレベルもピンキリなので放送大学と同じでいいんじゃないかと***DELETED for the Security Reasons***

TK さんのコメント (2007年1月17日 18:39):

やっぱり、一般の国家では、軍隊っていうのは、一定の敬意を受けいるんですね。日本での軍の扱いの軽さって、どうなのかな?と思ってしまいます。

おおや さんのコメント (2007年1月18日 15:51):

>TKさん
まあ一つはやはり他の職業と比較しての待遇の位置付けというような点はあり、なっても食えなければ社会から軽く見られるという点はどこの国も変わらないと思います。日本でも大正デモクラシー期にはそういう雰囲気だったようですし、それに対する反発が昭和の軍国主義につながるという側面もありました。
現在、まあ自衛隊の中の人が暴れる気配はない。あるいは三島事件の際にも呼応しようとしたりはしていない。というのは社会全体で見れば自衛隊に対する敬意というのがそれなりにあるというふうに中の人が納得してくれているのではないかと思うところはあります。マスメディアだけが社会ではない、ということでしょうか。

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おおや on つみのこし(1):
>TKさん まあ一つ
TK on つみのこし(1):
やっぱり、一般の国家
おおや on つみのこし(1):
>名無し院生さん あ
bun on つみのこし(1):
放送大学の英訳名が巧
名無し院生 on つみのこし(1):
>アフガンの国防軍使

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