ナウカ、吠えないのか

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なお表題は単なる駄洒落であって意味はない(挨拶)。「唯一のロシア語専門書店、閉店 革命思想の退潮」(Sankei Web)という話についてである。年度末くらいに国税から債権の差し押さえが入ったという話があって、そんなに経営が悪いのかと思った。私も何度か本を頼んだことがあるのでついに閉店というのも寂しいものである。

日本で唯一、ロシア語の書籍を専門に店頭販売してきた書店「ナウカ」(東京・神田神保町)が9月末、その75年の歴史に静かに幕を閉じた。最新書籍の輸入を通じてソ連・ロシア事情を日本に伝え続けてきたこの書店の歩みには、日本人がこの隣国に抱いてきた関心の変遷が刻まれている。

というのだが、う〜ん、わかっているのかいないのか、「革命思想の退潮」だけの問題でもなかろうと思う。いや私もこの会社について詳しく知るわけではないが、ナウカって普通の洋書屋さんでもあったよね、という話。そうでないと、ロシア語を解さないし、キリル文字について一丁字もない私と付きあいがあるわけがない。ちなみにモンゴルに行くと不便で仕方ないのでキリル・アルファベットだけは覚えようかと挑戦したが挫折気味です、はい。ラテン・アルファベットと片仮名平仮名と漢字二種類くらい読み書きできるんでもういいんじゃないかと思うんですがどうでしょう。

「洋書屋さん」てえのがどういう商売かというのは普通の人にはわかりにくいかもしれない。まあ学者ってのは大概において横文字を読む商売なのだがそういう本をどこで買うかというと、紀伊国屋や丸善の店頭に行っても専門書なんかろくに在庫してない。毎月このナウカとか国際とか極東とか丸善とかがカタログを送ってきて、そこから選ぶのが一つのルートである。タイトルと筆者だけじゃなくて内容紹介が付けられている場合もあるし、あんまりマイナーな本は仕入れないから一応の目利きも効いている。ざっと眺めるだけで「ああこんな傾向で本が出ているのだなあ」というのも掴めるという仕組みである。

さて、しかし私自身は申し訳ないのだがこういう洋書屋さんをあまり使わず、前述の通りナウカには何度かしか頼んだことがないし他の業者さんと深い付き合いがあるでもない。何故かといってAmazon.comがあるからねえ。助手論文を書いた頃にそれなりの量の洋書をまとめて買い込んだが、大半はAmazon.comで買って船便で運んでもらった。確かまだ当時Amazon.co.jpはなかったんじゃなかったか。なんでそんな手間をかけたかって高いんだよね、洋書屋さんの本は。当時で換算レートが1.5倍くらいじゃなかったか。つまり(今の円ドルレートで言うと)10ドルの本を1800円くらいで売っていたわけで、それならアメリカの値段で買って送料かけた方がまだ安いということになる。もちろん洋書屋さんにも言い分が(多分)あって、それは月々の情報提供料コミですという話なんだろうけど、買う側に情報と見識があればその部分は実は不要だし、今ではAmazon.comの「おすすめ」機能の方が――通り一辺のリストじゃなくてpersonalize(個人化)された情報を送ってくるんだから――より洗練されている(というような話をちょうど原稿に書いていたのである)。

それでも洋書屋さんに頼むとき、というのは大学のカネで本を買うときだけだなあというのが正直な印象。法人化されて大学によっては事情が少し変わったかもしれないが、基本的に国立大学では「領収書をもらってきて精算」という手段が通用しない。業者さんから品物と「見積書・納品書・請求書」(これを「3点セット」と通称したりする)をもらってきて、何ヶ月かあとに指定の口座に振り込みで決済というのが一般的で、もちろん普通の家電量販店やAmazon.comはこんな悠長な支払い条件を飲んでくれない。「3点セット」がきちんと作れて支払いも待ってくれる業者、和書なら生協・洋書の場合は洋書屋さんに頼むしかないということになるわけだ(ちなみにこれがHISとかで安い航空券を調達できない理由でもある)。

ところが最近はその状況も変わってきた。第一に名大の場合は生協が「Amazonの代わりに書類出します」商売というのを始め、まあ油断も隙もないというか義理も人情もないというか。つまり生協がまずAmazonに代金を払い、大学に「3点セット」を出して数ヶ月後に大学から代金を受け取るというシステムで、いや表向きの契約がどうなってるか知らんが要は信販業者と同じことである。ちなみに生協もご商売ではあるので7%の手数料を乗せるわけだが、まあ要はそれでも洋書屋さんより安いんだな。こうなると洋書屋さんのメリットはどこにあるのか、という話になる。

第二に、そもそも大学の図書購入予算全体がかなり厳しくなってきている。本研究科の場合はそれでもまだ「中京圏の基幹大学だから」とか気負って無理矢理図書予算を維持しようと努力しており、割を食って教員の個人研究費が削れてきたりしてそれも正直どうかと思うわけだが、ウチよりもっと基幹のはずの某大学の図書予算が全然確保できていないという噂を聞いてふざけんなと思ったものの本当かどうかはわからない。まあ大学全体の予算にマイナスの係数がかけられていて年々落ち込むことが決まっており、しかし生首切って人件費を減らすわけにもいかないと切っても文句を言わない本を削ることになるのも自然かもしれないのだが。とにかくパイの中の取り分の割合がどんどん減っているうえにパイが年々小さくなっているという事情がナウカ廃業の背景にはあったんだろう、すると退潮しているのは「革命思想」では必ずしもなくて大学という知の継承の舞台なのだろうなあと、そういう話なのであった。念のために言うと大学以外の場所で知が継承されるならそれでいい話ではあるし、「大学」というパイ全体は膨らみすぎなのでちいと削った方がいいとは(その中に自分がいるという点を除けば)思っているのである。

ところで行動範囲の地名や看板を見て一応わかるようになるためにはあと漢字1種類と表音文字を3通りくらい覚えないといかんのですがさすがに無理だと思う。というかもともと語学大キライなのでおとなしくあと一つくらいにしようかなと。

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コメント(3)

遅いコメントなんですが、いまみたので許されよ(気づくかしら)。

>毎月このナウカとか国際とか極東とか丸善とかがカタログを送ってきて、そこから選ぶのが一つのルートである。

ええっとこれは、名大の法学部には見計らいはないということですか? それとも丸善はもう見計らいはやってないの?

見計らいはなんか生協のリストが教授会で回ってきますよ。でも和書だけで洋書はないですね。極東や国際に頼めば特定テーマのリストは作ってくれると思いますが、私は頼んだことないです。向こうからの提示は、リストのレベルで、営業さんが回ってきたとき(年に1・2度かな)だけですねえ。

おー。リストで来るのか。それは考えたことなかった。それだとあまり見計らいの恩恵がないかも。

上で想定していたのは、本屋さんが現物持ってきて、買い手はほしいものをとって残りを返すという形式でした。伝票は後で本屋さんが作って持ってきます。個人で欲しい本があった場合、別途私費の伝票を書いて次回持ってきてもらうことになります。本は少なくとも一月くらい講座においてあるので、拾い読みしたり出来て、貧乏学生には便利でした。でも昨今は本屋さんも大変みたいだから、そういう悠長なやり方は減っていくのかな……

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