とても言えない。

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疲労がたまっているせいか左肩の調子が悪くて回すとごきんごきん言う(挨拶)。しかし休んでいると仕事が増えて余計休めなくなるのでだましだまし作業に取り組むわたくし。で、ぼんやりネットでも見ているとこういうシロモノにぶち当たるわけだ。牧太郎「大きな声では言えないが:「通信の秘密」は今」(MSN毎日インタラクティブ)。

それより気になったのは、写真誌はどうして2人の関係を知ったのか?である。恨みを持つ人物が写真誌にタレこんだ、と想像できるが、昨今、美しい国にふさわしくない“密告”があちこちではやっている。/それにしても「密会の時間、場所は2人しか知らないはず?」とつぶやくと、

ええと、パパラッチってどんなことする人でしたっけ。大手局の女子アナなんて基本的に写真週刊誌のターゲットだろうし、有名番組に出世した直後ならとりあえずつけまわしてみるとか「男がいるらしい」という聞き込み情報をもとに尾行してみるとかされても不思議じゃない気がするんだけど、そうじゃないという確実な根拠でもお持ちなのかしらん。

そのあともすごいよ。

コンピューターに詳しい若者が「何しろ、他人のメールの中身まで分かる時代ですから」とただならぬことを言い出した。/特定のソフトを使えば、少なくともサーバーの管理人は、誰が、いつ、どのネットにアクセスしたか、誰にメールを送ったか、そのメールのやり取りさえ知ることが出来る。

インターネットのメイルというのは最初からそういうものですが何か。「特定のソフトを使えば」どころか通信を途中で覗けばメイル本文がそのまま書かれているし、メイルサーバに蓄積されている状態でも普通はそのまんま、管理者なら特別な仕掛けもソフトもいらずに全部中身は見えるもの、と思った方が良い。村井純『インターネットII: 次世代への扉』(岩波新書 1998)あたりの古典的な入門書でもきっちりとそういう説明はされているわけで、だからこそ秘密を保持する必要があれば暗号化などの手段を講じなくてはならない、というのはインターネット・セキュリティの初歩の初歩。ところが、想像はここからさらに変な方向に飛翔しはじめる。

ネット技術はここまで来てしまった。もし、国家権力が国民のメールを簡単に入手できるとなると、憲法第21条2「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」は危うくなる。

普通の国民が普通に使っているネットの管理者は国家権力ではない。たとえば私が自宅でインターネットを使っているとき、その通信が経由するのは私が契約している私企業たるISP(インターネット・サービス・プロバイダ)から中継路を経て相手方の契約しているISP(私企業)まで。中継部分も今は全部私企業じゃないかと思うがどうだったかな。いずれにせよ、国家の権力行使を担当する機関がそこに関与しているということはない(*1)。

つまりさまざまな私企業が我々に対して持っており、暴走する可能性を秘めている分散した権力の問題が、勝手にいつのまにか国家権力の問題にすりかえられているわけ。念のために言うと、国家権力が法的規制をもとにしてインターネットを管理する私企業群に干渉し、特定の情報を検知させたり収集させたりすることは不可能ではない。というか、それをアメリカがやっているのは9/11に関する報道でもちゃんと出ている。いわゆる「カーニボア」というのは国家がISPに設置させた・情報収集のためのシステムだ。

しかしこれを日本はやっていないはずで、それは何故かというとまさに憲法21条2項の「通信の秘密」があるから。国家権力に対する懸念にからめて憲法のこの条項を持ち出した時点で、ネットの検閲問題に関する状況を何一つ知らないで書いているということが自ずから暴露されてしまった、わけ。まあ「憲法第21条2」なんて書き方をしてる段階でまともに憲法の勉強してないことは一目瞭然なので、いいんだけどね(*2)(*3)。

そもそも最初から、昔の三木武吉(自民党)のエピソードを持ち出して比較するんだけど……

奥方が亭主の不倫に腹を立てるのは至極当然。不倫は決して褒められたことではないが、赤の他人にとやかく言われる筋合いはない。これは極めてプライバシーの問題。(……)政治家は「事件の処理能力」で評価される。

第一にこの細野代議士、自分の発行しているメイルマガジンで「大学」の「修身斉家治国平天下」を引用しながら「自分や家族を修められない人間が、天下国家を論じても説得力がありません。」と書いてしまっている。それで不倫騒動を起こせば、まあ燃えるよね。

第二に引きあいに出された三木武吉は1955年の保守合同を為し遂げた大物の党人派政治家で、戦前には1939年の翼賛選挙に非推薦で出馬・当選したという気骨の人ではあるが、まあ一方でクリーンでないことでも知られていた。1928年には疑獄に連座して有罪、一旦政界を引退するところまで追い込まれている。そういうキャラクターの人、別の言い方をすれば「汚れ役」であって政治のホンネの部分を代弁する人だから許されたという側面があるわけですよ。これがタテマエ担当の三木武夫だったら通らなかったんじゃないかねえ。

で、自民党にはずっとそういうタテマエとホンネの使い分けがあって、その代わり手を汚しているホンネの人は表には出られなかった。三木武吉も党の役職には就いているが大臣にはなっていないし、これは他の理由もあったんだろうが衆議院議長に推されたときには与党候補であるにも関わらず落選している。総理・大臣など表の役職は官僚出身者を中心としたタテマエの人、党で実権を握るのは党人派という使い分けを壊したのが田中角栄で、まあその系譜を引く人が民主党には多いようだからそういうコントロールが下手なのかねえ。一方オモテウラの感覚が自民党には戻ってきたのではないか、というのは例えば今回の幹事長人事を見られたい。まあ端的には、格好いいことを言う人間はそれなりの格好をつけないといけない、というだけの話だと思うんですけどね。

さあしかし、なぜこの記事はこうなってしまったか。筆者は毎日新聞の専門編集委員であるらしく、たしかサンデー毎日の編集長だった人じゃなかったかな。知識が乏しいのに、だから勉強しようとか調べてから書こうとかわかってる人に聞こうとかいう対処ではなく足りないところを妄想で補完してしまうあたりが問題だろうが、そのさらに理由について考えると自分に知識がないという自覚がないんだろうねえ。前にも書いたけど、元々マスメディアの人というのは何の専門家でもないわけで、長所としては情報源を広く持っているとか、情報源の信頼性を評価する技術を持っているとか、情報収集に専念できる社会的リソースを持っているとか、しかない。現場から離れた新聞記者というのはこういうメリットをどんどん失っていくわけで、それを自覚しないでモノを書くようになると、まあこうなるのかなあ。連載タイトルが「大きな声では言えないが」とある点は非常に理解できるところで、確かにこんなん大きな声で言えないよね、恥ずかしくて

(*1) 大学で使えばそこの管理者は大学の教職員だが、これはもう公務員ではない。政府機関にメイルでも送ればそりゃ確かにそこの管理者は公務員であり国家権力の一員かもしれないが、そもそも宛先が国家権力だろう、それは。
(*2) これでは「第21条第2項」なのか「第21条の2」なのかわからない。まあ項には項と書かない(単に数字だけを前置する)という慣習を知らずに憲法の字面だけどこかで見たんだろうけど、まさに「憲法読みの憲法知らず」そのものですな。
(*3) なお現行憲法は改正されたことがないので条文の枝番号は存在しないから項番号と特定できるという異議は却下。読む側にそんなインテリジェントな判断させてどうする。

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コメント(6)

いつも勉強になります。「美しい国にふさわしくない“密告”があちこちではやっている。」って、いかにも政府筋がリークしたといわんばかりの表現ですね。今回の件に限らず左巻き太郎氏のコラムは突っ込みどころが結構ありますので、大学の入試問題(論評せよ型)にも使えるんじゃないでしょうか。

私は逆に、毎日新聞に生涯を捧げたベテラン記者の凄み、と言うものを感じました。

>不倫は決して褒められたことではないが、赤の他人にとやかく>言われる筋合いはない。これは極めてプライバシーの問題

毎日新聞の原点とも言える沖縄密約事件。その西山記者の魂が正しく受け継がれていると言うことでしょう。

>恨みを持つ人物が写真誌にタレこんだ、と想像できるが

他でも無いサンデー毎日の元編集長がこう「想像できる」と言うことは、サン毎のニュースソースは「美しい国にふさわしくない」ものであった、と言うことでしょう。自らの経験に裏打ちされた説得力のある発言かと。

>コンピューターに詳しい若者が「何しろ、他人のメールの中身
>まで分かる時代ですから」とただならぬことを言い出した。

そしてこれが毎日新聞の「現在」なのでしょう。
今、毎日がどのようにしてネタを入手しているかを端的に示しています。なに、裁判でも取材源は秘匿していいと最近どこの新聞でも言っていますから何の問題もありません。

結論としては、「毎日は取らないことにしよう」でしょうか。

しかし最近の新聞はバナー広告費稼ぐために釣りでもしているんでしょうか?

何がなさけないかといって、永田メール事件の時に電子メールの仕組みの基本的部分すら勉強しなかったことです。真贋問題になったところで、それくらいは勉強するか、少なくても「コンピュータに詳しい若者」に聞いておいてしかるべきでしょう。

 知らない、分からないのは仕方がないとして、勉強しない・調べないという態度はどうにかならないものか。

来年の入試問題にでもお使い下さい(↓

問1 次の空欄アを埋めよ

兵庫県で塾帰りの女の子(9つ)が胸を刺された。愛知県春日井市で女子中学生(12)が登校中に髪を切られた。
岐阜県関市では女子大生(21)が電柱の陰にいた男に傷つけられた。先月末、続けて起きた事件である。

いずれも、ひとつ間違えると大事にいたったケースだろう。
それが日常茶飯事になった。普通、動物は肉食獣でも無意味で無駄な攻撃はしないという。
情けないかな-人間だけがこうした異常な行為におよぶ。

(        ア       )のも先月末だった。
(後略)

1.幼女連続殺人が起きた
2.本年度の犯罪被害統計が出された
3.危険な都市ランキングで名古屋がランクインした
4.県内の学校で登下校に十分配慮するよう呼びかけられた
5.安倍晋三首相が所信表明演説をした

正解
http://www.chunichi.co.jp/00/uho/20061002/col_____uho_____000.shtml

美しい国→美国(中国式アメリカの略称)→安倍はアメリカの犬、という連想ゲームは流石にベタ過ぎて誰もやれないんでしょうか。

しかし、ファッションの話が唐突に右翼系の若者の話につながる朝日コムのこの記事(http://www.asahi.com/culture/fashion/TKY200609110089.html)からこっち、脈絡もなく右傾批判が始まる記事が微妙に流行ってるようなんですが一体何なんでしょう。プロパガンダのため脈絡もなく「なおカルタゴは滅ぶべきであります」と言い続けたという大カトーのひそみにならいでもしてるんでしょうか。あるいは「まさかの時のスペイン宗教裁ば(zap)」

みんなひどいなあ(棒読み)。

>昔のHN忘れた。さん・truly_falseさん
あのですね、試験というのは選抜として機能しないといかんわけで、全受験者の得点が理想的には0点から100点までの範囲に適当な分布で散らばってくれないと困るわけですよ。こういう「電波文」では正解者が出ないので受験者に差がつかないわけで、使い物になりゃしません。せめて若宮文くらいの巧妙さがないと。

>紅くん
まあ毎日は記名主義なので個々の記者の当たり外れがわかりやすくて良いという評もあり。分析してる人に言わせると社論の分裂が劇しいようだとか、きっとこの人あたりが左の側なんだろうけど、サンデー毎日自体もはや東大・京大の合格者名を掲載する以外に何の意味があるかわからない雑誌なので、どうでもいいような。

>高橋さん
あの事件があったからといってマスメディアの中の全員が電子メイルの勉強を始めるとは思えないし、そんなことせんでもいいという気もするのですが、しかし勉強していないという自覚くらいは持つべきだという点はその通りかと。本当に理解していないのか、わざと理解していない身振りで書いてみたのかという問題もあり、後者だとすればデマゴーグそのものですが最近の電波文の横行をかんがみるにどうもなりふり構わない人々が横行しているようなのでその可能性も無視できんなと。もちろんだとすれば余計問題なんですけどね。

>諏訪さん
岐阜あたりの教職員組合の人がブログで書いたらしいですよ?>「美国」ネタ あと、「美しい国」を逆から読むと「憎いし苦痛」というのが中日とか朝日に出たそうで、「憎いし苦痛」を逆転させてるんだから呪術の法則性に照らすとそういうものから解放されるんでしょうが、と突っ込みを入れる気にもならないありさまです。
たぶん何かに焦っている人々が出てきてるんだと思います。奮闘にも関わらず9・11総選挙で小泉自民党は大勝してしまうし、期待の福田さんは降りちゃうし、安倍さんは後継になってしまうし、というあたりでしょうか。しかし人々は新聞やメディアが何を書き何を伝えたかという情報を保存し・共有し・比較するようになってしまっているわけで、正直「自滅」の一言だな、という気がするわけですが。

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