二つの法曹(2・完)

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だいたいその、新司法試験は合格率が高いから信用できないというのは実のところ議論になっていないわけである。例えば大型二輪の運転免許というのがあって、これはいま教習所を卒業してから行くと合格率100%に近い(まあ実技免除になるからな)。一方、運転免許試験場で一発本番の実技試験を受けることもできて、まあ合格率は0%に近い。ここで一発試験の方が合格率が低くて難しい試験を受けているから運転能力が高いと言えるかというと、まあそうではない。もちろん一発試験を通っているからヘボではないだろうが、運転で体験するシチュエーションのすべてが実技試験でカバーされているわけでもない。例えば教習所ではシミュレータを使って危険回避や高速運転の体験もするが実技試験にそういう科目はないのであって、一発試験組は試験場のコース走行は上手でも免許とって高速に出て一発で事故る、かもしれない。幅広い事例で必要になる能力を幅広くカバーできているかが重要だ、それを目指すのがLS教育だから司法試験というコース走行の能力だけ比べて高い低い言っても仕方ないという話はできるだろう。

念のために言うと、LS修了者が本当にそんな能力を身に付けているかはよくわからない(そうであってくれればいいな、とは思うが)。もう一つ、新旧の司法試験合格者を合格の時点、あるいは修習修了の時点で比較されてもな、という気もする。旧司法試験の場合、もちろん早い人は大学在学中に合格していて修習を終えて24歳あたりで法曹になるわけだが、多くはまあプラスして2〜4年、単純な合格者平均年齢は確か28歳あたりになっていたように思う。これにはいろいろな事情で高齢になってから合格している人が含まれるのでただちに平均的な合格者像と一致するわけでもないが、それでもまあ修習を終えて30前という感じかなあと。

一方LSの場合、もちろんこちらにも社会人からの転身とか比較的高齢になっている人が含まれるのだが、直接進学するパターンだと22か23歳あたりで入学、既習なら2年・未習なら3年の過程を終えて半年後に新司法試験に合格、1年間の修習を経て法曹なので、まあ25か27歳というあたりか。つまり旧司法試験に在学中合格できるような優秀な層は2年ばかり余計に勉強する破目になるが、普通の合格者と比較すると2〜3年早く資格を得ていると、そんな感じになる。その時点で比較したら平均的な学習期間が減ってるぶん能力が低く見えるのも当然、30歳前くらいの同じ年齢段階で比較してほしい。その期間に自分で能力を伸ばせるだけの基礎と素養はLSで育てましたと、まあLS関係者は言うのではないかな。

繰り返すが本当にLS修了者がそんな伸びしろを持っているかどうかはよくわからないし、現時点で判断できるものでもない。まあ10年もすれば全体としては見えてくるだろうし、特定のLSは確かによく伸びるが別のところは逆にツブれているとか、そういう話も出てくるかもしれない。現時点で言えるのは特定の結果が出るように比較すれば特定の結果が出るだろうけどそれに意味があるのかなという程度の話だろうか。

こう書くとじゃあ修習修了時には能力差があるんだから同一待遇できないじゃんと言われそうであって、いや私もそう思う。つまり旧試験合格者が修習を終えて一応の製品になるなら新試験組は半製品というか、いやバッジ付けたてのヒヨっこなんか半製品程度のもんですよと言われれば新試験組は素材だろうというか、まあ平均的にはそうだろう。もちろん優秀な人はすごく優秀であり、一方あるはずの伸びしろが全然出てこない人もいるし、それがしかし伸びてみるまではわからないという状況なのだから、とりあえず低い方にあわせた待遇にしておいて伸びたら一人前扱い、給料も責任も格上げしますよという展開になりそうだ。すると養成システムだけじゃなくてこちらもアメリカ化していくと、そういう話なのかと思う。

アメリカのLSはどこを卒業してもちゃんと弁護士attorneyになれるわけだが、実はその中にかなりの格差があるという話はいつだか書いた。一流LSを卒業すれば大手ローファームに就職、パートナー目指して高収入コースであり、三流LSにしか入れないと低収入の街弁コース一直線である。この両者のあいだの格差は統計的には明らかだが、しかしこれはあくまでスタート地点の格差に過ぎないというのもどうやら事実ではあるらしい。つまり能力や適性がなければせっかくローファームに就職できてもドロップアウトを強いられるし、逆に三流LSから這いあがって大手のパートナーという人もいることはいる。LSに入れば、LSを出てattorneyになれればそれで競争終わりではなくて、勝ち組でいつづけるためにはずっと努力を続けなくてはならないと、そういう話になる。

これは弁護士を使う側、仕事を頼んだり何かの拍子で関係を持ったりする側にも注意の必要になるところで、つまり同じattorneyでも大手ローファームのパートナーもいればamblance chaserという救急車を追っかけて仕事をもらいに行くようなのもいる。相手の素性を確認しないとattorneyというだけで信用しちゃいけませんと、そういう感覚を持たないといけない。だいたいspam問題の端緒になったCanter & Siegelからしてattorneyなんだからね。

でまあ、日本の弁護士というのもそうなっていくのかなと。いや元々そういうところはあったと言いたくなる関係者の人も多そうで、ヨコベン登場で弁護士のパブリックイメージが傷付いたこともあったし、整理屋と組んで懲戒受ける弁護士もいるわけだ。しかしまあ全体としてはさらに品質保証とそれに基づく社会的信用の低下ということが起きそうであるところ、それを食いとめる必要性を法曹が感じるとすれば、それができるのは法曹の自助努力だけかなとは思うわけである。弁護士会というのは特権的な自律性を担保された組織なわけで(それが悪いと思っているわけではない)、国家の介入を排除している分だけ責任もすべて自分たちに降りかかってくることになる。「転落」した弁護士が一般人に被害を及ぼす前に「失格」を宣告できるか、あるいはより高度な品質保証を別に用意できるか(例えばお医者さんの世界の「専門医」制度みたいなの)。LS制度への変化を契機にしてそういう問題が意識されるといいんだけどと、まあとりとめもないがそういう話である。

まあ実のところあまり成功するとは思っていない……というのは日本の専門家の世界でそういう自律的な品質保証が機能している例をあまり見ないからである。だから消費者の側において十分気を付けないといけない、というのが規範的に望ましい状態だとは思っていないが多分に事実だろう。大学ももちろん例外ではないが、「転落」したロースクールにどういう対処ができるかという形で、おそらく法曹界全体よりは若干早くその自浄能力を問われることになるだろう。おまえ自分は安全地帯にいると思いやがってと言われるだろうがその通りであって以上はポジショントークであるから読者において十分取り扱いには注意されたい。つうかポジションを踏まえない本音ばなしを誰が見てるかわからないオモテでするわけねえだろう。おもんぱかれ。

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2回試験については、過去に、カンニング問題等もありましたが、あれは受かって当然、というものだっただけですが、一つの仮説ですが、修習所(修習所の教官)がLSを横目に見て、実践的な対応をしたということはないのでしょうか?つまり、論点ブロック・論証表丸暗記、では対応しきれないような卒業試験を出したのでは?ということですが。

最近、ペット関係の雑誌を読むのですが、行政書士って、「法務事務所」って看板だせるようになったんですね。ペット雑誌での法律相談(犬が人を噛んだとか、ペットショップで買った犬にダニがいて、他の犬に感染した、とか言った相談)を行政書士が「先生」として答えています。(こういうのも、法曹のアメリカ化の現れでしょうか?)なんか、弁護士、司法書士、行政書士が入り乱れて、司法サービスが無秩序化しているような感じがします(実際、私の経験でも、「なんでそんなことhしたんですか」と聞いたら、「法律専門家のアドバイスに従ったんです」と答えるので、聞いてみたら行政書士、なんてことがありました。その会社社長は、アドバイスに従った結果、酷い目にあいました。。。)

>TKさん
第一の点、あり得るとは思います。ただそれを検証するためには二回試験の問題を従来のものと比較しなくてはならないので、私では無理(笑)。弁護士さんなんかが何とかやらないですかね、と。最高裁は合格基準は変えていないとコメントしたみたいですけど。
第二の点、いやそういう看板を出せるようになったんじゃなくて単に禁止されてないだけでしょう。「法律事務所」の名称は弁護士(法人)の独占ですが(弁護士法74条)、逆に言えばそれ以外の名称を使うことに特段の規制はないのだと思います。とはいえ非常に紛らわしいわけで、あまり拡大すると問題にはなるでしょうね。
というのは、法律関係の専門職といっても弁護士・司法書士・行政書士の間には率直に言って天と空と地くらいのレベルの差があるわけで、その価値付けを混乱させてはいかんでしょ、と。
ただこういう制度に関する知識をどう社会で共有するかというのはなかなか難しい問題ですね。我々から見てお医者さんが全部「お医者さん」なのと同じように、外から見ればどんな資格持ってようが「法律のわかる人」なんだろうなと(個人的にはしかし基礎法屋に法律相談するのは解剖学者に診療させるのと同じことなんだぞと小一時間)。

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