続・ビラまき裁判(1)

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どうでもいいけど「御五家」って日本語はないよねえ(挨拶)。普通は御三家・四天王・五摂家とかだと思うんだが。なお「五摂家」の例としては一昔前の中部財界(松坂屋・名古屋鉄道・東海銀行・中部電力・東邦ガス)。ポイントはトヨタが入っていないことで、つまりしばらく前までトヨタは地元政財界の主軸ではなかった。だがここ十年くらいのあいだに勢力図が一変し、最近ではトヨタ・JR東海・中部電力がビッグスリーなんだとか。地元のインフラ整備にトヨタが積極的に乗り出したのもその頃から、という印象はある。ところで7になると七本槍・七福神があるのでいいとして6はなんなんだろう。六地蔵か。

さて、「ビラまき裁判」にいただいた「たなこ」氏のコメントへの応答である。

「有産者であるところの大家が/って/大家のすべてが大資本家みたいな麗しい誤解に大爆笑。」という出だしからして「有産者」(資産を有する者)がたちまち「大資本家」に置き換えられている素朴な印象操作に大爆笑、とでも言えばいいのだろうか。しかし自己の用に供する以外の生産手段を私有してる以上「有産者」としか言いようがねえだろう、有産者の対義語は「無産者」=プロレタリアートなんだよとか思うがそういう常識も遠い時代のものになりましたかね。まあしかしここではその後の「世間には借地にアパート建てて、本人もそこに住んで、経年でボロくなり、安い家賃に抑えざるをえない、当然、家主も店子も貧乏人なんてパターンはいくらでもあるよ。」という部分に注目してみたい。

これに対しては「どこにどれだけあるのか客観的に示してみせろ」と言う手もあるが、それに対して「ここにもあるあそこにもある」と言われても検証不能だし、だいたい「どんだけあるっちゅうんだねあほらしい」という私の言い方だって具体的な数を示したりはしていないわけである。大学入学のときだからもう十年以上昔になるか、井の頭線沿線の安下宿を見て回ったとき(とはいえお付き合いだったので高々十数件の話である)、その中に大家が同居しているような物件はひとつもなかったがなあと思うが、ごく限られた範囲での見聞に過ぎない。そこでちょいと統計を洗ってどんなもんかアタリを付けようと思った次第である。利用したのは総務省統計局の公表している「住宅・土地統計調査」(平成15年)というやつだが、もちろん賃貸共同住宅に大家本人が居住している割合と大家の世帯収入階層なんて便利な統計は存在しない(つうかそんな統計何に使うんだ)。ので、いくつか別のデータから問題の大きさを推測していくという形になる。

Dwell1.png第一に、貧乏な大家がどのくらいいるか。まず「大家」(自己の住居以外に住宅を所有している世帯)の数を世帯の年間収入階層ごとに区分すると、右のグラフのようになる。同じく総務省統計局による「家計調査」(平成15年)によると全世帯の平均年間収入は570万円なので、まあ「500万円以上700万円未満」の区分あたりが平均的な層だと言えるだろうか。すると平均以上の世帯収入のある大家と平均以下の割合はまあ似たようなものだという感じになる。これはストック(資産)ではなくフロー(年間収入)で見た数字なので、フローは小さいが莫大なストックがある場合があり得ることに注意しなくてはならないが(例えば林業用の山の所有者などの場合はそうなる可能性がある)、大家の場合、所有物件から月々の賃料という形で収入があるはずなのであまり考慮しなくてもよさそうである。

「貧乏」がどのあたりまでか、というのはやや難しい。OECD(経済協力開発機構)の定義による「相対的貧困層」は可処分所得(所得から税金などを引いたもの)が全体の中間値の半分以下になる家計のことで、日本の場合は中間値がだいたい470万円くらいなので235万円くらい以下を指すことになろうか。「収入」ではなく「所得」であり、さらに「可処分」に限定しているのでこの数字をそのまま上のグラフにあてはめるわけにはいかないが、一般的に「収入>所得>可処分所得」だろうから年間収入300万円未満くらいの層かなと思うと全体の17.4%、2000年のOECD報告は生産年齢人口に対する相対的貧困層の割合が日本では15.3%だとしているところ、「住宅・土地統計調査」によれば全世帯の18.8%は年間収入200万円未満の層に入るので(生産年齢人口と総世帯数で母数が違うので単純に比較できないが)、まあその層だけかなと思えば7.9%である。大家全体に占める「貧乏大家」の割合は限定的だ、と言えるだろう。

Dwell2.pngところでいまのグラフでは世帯数に着目していたわけだが、「大家」と言ってもその経営規模(所有している住居の数)はさまざまであろう。住宅戸数の方に注目して同様に年間収入階層ごとの割合を出してみると、左のグラフのようになる。先程と比較すると「貧乏」側の割合が大きく減っていることがわかる。まあこれは当然で、裕福な大家ほど経営規模が大きくなる傾向があるだろうし、その逆も然りだろう。こちらで見ると300万円未満までで9.3%、200万円未満の層だけだとわずか3.9%になる。「貧乏大家のいるアパート」が賃貸の共同住宅全体に占める割合はごく限定的である、と言ってよさそうだ。

Dwell3.png

ところで調べた私が面白かったことの1は上のグラフで、これは年間収入階層ごとに「大家」の数を全世帯の数で割った比率である。「反社会学講座 第4回 パラサイトシングルが世界を救う」が平成10年の「住宅・土地統計調査」をもとに同様のグラフを示しているが、(1) 収入階層が高いほど「大家」の割合が増えること、(2) 年間収入1000万円を越えるあたりでその割合が急増していること、がやはり読みとれる。「すべての大家が裕福である」は間違いだが、「裕福な人間は大家である可能性が高い」は真だと、そういう話になる。これは参考まで。

さて第二に、大家のいる貧乏アパートがどのくらいあるか。まず「大家のいる」というのはどういう意味かというと、民営住宅に限る=持ち家・公営・公団公社・給与住宅(社宅などのこと)を除くということである。その大家の所得階層あるいは同居・非同居の別は無視されているので、つまり「貧乏大家が同居している」住宅の最大数がここから導けることになる。「住宅・土地統計調査」によれば共同住宅の戸数は全体で1800万戸弱、このうち持ち家約400万戸(主として分譲マンション?)を除いた約1400万戸が賃貸住宅になる。しかし上記の通り民営以外の賃貸住宅に「大家」はいないのでその部分(約400万戸)を除外すると、約1000万戸という結果になる。つまり共同住宅全体の半数強には「大家」がいるということ。実はこの「民営」には法人による経営のものも含まれているので、大家が同居できるかどうかという点に限ればその部分を除外しなくてはならない。だが法人経営の民営住宅が占める割合は1割程度のものなので、とりあえずは無視しておこう。

Dwell4.pngさて、しかしこの「民営住宅」には貧乏アパート・普通のアパート・オートロックはないマンション・オートロック付きのマンション・豪華マンションなんかのすべてが含まれているわけである。ここから「貧乏アパート」をどうやって抜き出すかというのが問題になるが、もちろんアパート自体に「貧乏」と書いてあるわけではないのでそのものずばりの統計はない。賃料に着目してみても、東京都区部の月3万円と地方都市の月3万円はぜんぜん違うだろう。ここでは建物の構造に注目してみよう。つまり木造か、防火木造か、非木造かという話。「防火木造」とは骨組が木造で、延焼する可能性のある部分がモルタルやトタンなどの防火材料でできているもの。「木造」はそのような防火がなされていない場合で、一刻館はここに入るだろう。「非木造」はそれ以外のすべてで、典型的には鉄筋コンクリート造や鉄骨造のこと。レンガ造などもここに入るが、いずれにせよそんな貧乏アパート滅多にねえよと言ってよろしかろう。

典型的な安アパートというと「防火木造」という印象がある。物件検索をかけても例えば愛知県で月3万円以下というとほとんど「木造」だが、その大半はモルタルあたりではないだろうか。本当は「防火木造でも3階建の物件は『貧乏アパート』ではない、少なくとも『住人がいつも顔をつきあわせている貧乏アパート』ではない」という気がするが、まあ非木造の貧乏アパートがないわけでもないので相殺、ということにしておこう。すると上のグラフが「大家のいる貧乏アパート」の最大割合を示したものとして読めることになる。つまり木造・防火木造を合わせて14.0%。仮に上で計算した「貧乏大家」の割合がそのまま該当するとすれば(300万円未満説をとっても)貧乏大家のいる貧乏アパートの割合はたった1.3%ということになる。

念のために言うと、豪華マンションを所有している貧乏大家はいない、つまり大家の収入階層と所有物件の「貧乏さ」には相関性があるだろうと予想できるので(根拠は示さないけど直感的にそれでいいよね)、実際にはもう少し割合は高いだろうと思われる。しかしその全部が全部、自分の所有する貧乏アパートに住んでいるわけではないというのもまた事実であり、結局「大家と毎日顔つき合わせてる」「ホントに貧乏なアパートの住民」なんてほとんどいないという結論は正しかった、ということになろう。

そもそも私はそういうケースが「どんだけあるっちゅうんだねあほらしい」と言っているのであって、「ない」とは主張していない。「ホントに貧乏なアパート」は「それなりの数ある」と明示的に書いてもいる。ただ、本件での問題は住民自治が構成しやすい分譲マンション・オートロックで侵入を自動的に排除できる賃貸マンション住民自治もオートロックも難しい賃貸マンションの対比だったのだから、Bar氏の挙げたような貧乏アパートはレアケースであってその対比にほとんど影響を及ぼさないという話だったわけだ。これに対してそういうアパートはあると言っても反論にならず、相当な数、上記の対比に影響するくらいのオーダーであると主張しなくてはならない。が、統計を見ればそんなことはないと言わなくてはならないだろう。

おそらく、「たなこ」氏は主観的に嘘をついたつもりではないだろうと思う。氏の周囲には「借地にアパート建てて、本人もそこに住んで、経年でボロくなり、安い家賃に抑えざるをえない、当然、家主も店子も貧乏人なんてパターンはいくらでもある」のではないかと思う。しかし繰り返すが、問題はその例が社会全体から見て一般的か例外的かという点にあるので、それは(実は)自分の体験だけを元にしては見えないものだと、そういうことだろう。ところで私は社会科学者の端くれくらいのつもりではいるが統計や社会調査の訓練を受けたことはないし、住宅事情や所得階層の問題と専門とはほとんどまったく関係がない。そういう次第なので以上の分析についてもそれが間違っていないという自信はぜんぜんないので見付けた人は教えてほしいと切に願うところであるが、その私でもインターネット上で公開されている統計だけでこのくらいの理屈は言えるのだから、人さまに偉そうな口をきくならそのくらいやってからにしたらどうかと言いたくなるのだがどうか。まあ他人を「世間知らず」と決めつける人間の世間が広かったためしはないといういつもの話、かもしれないのだが。

*****

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さて調べた私が面白かったことの2は上のグラフで、これは一戸建・長屋建・共同住宅の戸数の割合を比較したものである。何が言いたいかというと大都市部とそれ以外の地域ではこの数字が全然違うということで、14大都市域、特に東京都区部では約2/3が共同住宅・1/3が一戸建なのに対し、それ以外の地域ではほぼ逆転していることがわかると思う。マンションやアパートが都市部に多いというのはまあ当たり前のことかと思うが、ここまではっきりと逆転しているとは私は思っていなかった。さて、すると都市の人間にとって「住民の多くは共同住宅に住んでいる」というのは経験に基いて真であり、田舎の人間が「そんなことはない、住民はほとんど一戸建に住んでいる」と思うのも経験から真である。居住形態については所得階層・居住地域などの社会集団ごとに似通う傾向があるので、自分の周囲だけを見て社会を推測すると勘違いをするというのがここからも読み取れるかなと思うわけである。つづく。

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コメント(2)

六歌仙がありますね

>(空白)さん
なるほど。しかしちょいと文芸方面以外に使いにくいような……

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