フリンジコスト

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今回のアメリカ出張で資格を満たしたらしく、ノースウエストのマイレージ制度で上級会員になりました。これで安い航空券でもちょっとは良い席に座れるんだね……と感涙にむせんでいたところにこんな報道が。「公務出張マイレージ加算、私的使用いいの?」(Yomiuri Online) まあご意見もいろいろあるだろうが、個人的には払う金を払ってから言えの一言である。

最初にお断りをすると、私はもう公務員ではないし、勤務先も中央省庁ではないのでそのあたりとは事情が違う可能性も高い。それに私は国立大学にしか勤めたことがないので、企業・私立大学その他の民間団体との違いについてもわからない。その限りにおいて、時折航空機を利用して出張している人間としての感想であると承知しておいてほしい(*1)。

で、払う金について。もともと助教授の仕事させておいて助手〜講師の給料しか払ってこなかったじゃねえか(*2)というのは相当に私個人の事情だから置いておくが(*3)、出張それ自体についても元々すればするほど貧乏になるという事情がある。こういう話。

まず細かい話だが、交通費・日当・宿泊費すべて「精算払い」になることが多い。というのはつまり、出張が終わって報告書を出してから、さてでは振り込みの手続きを……という扱いになるということで、実際に受け取るのはまあ翌月くらいであろうか。この間もちろん先方は支払いを待ってくれないので、すべて自腹で立て替えておくことになる。国内出張の3万4万ならまあ構わないが(と言っても私の場合ほぼ毎月その2倍くらいの額を立て替えていることになる)、外国出張ともなると航空運賃で20万。公費での出張に必要な書類をきちんと出してくれる業者さんはカードでの支払いを受けてくれないケースも多く、すると即金で振り込まなければならない。ベトナムに3週間行ったときは宿泊先がクレジットカード払いを受けないだろうという見通しだったので(*4)、その分もあらかじめ用意して現金で抱えていった。

そのとき、あるいは今回のアメリカ出張の際も、事務の人が頑張ってくれて「概算払い」になった(ありがとうございます)。これは出張予定から計算して「このくらい」という額を先に支給しておき、あとで違ったら清算するという制度だが、問題は「先に」と言っても交通費の支払いに間に合うかどうかは別問題ということにあり、経験の範囲で言うと間に合ったことはない。ベトナムの時は出国前日に振り込まれておりしかしまあどうしようもないよねえと思った。

もちろん支払いが遅れるからといって利子を付けてくれるわけでもないし、結局私の場合、いつ外国出張が入っても対応できるように30万円程度を「常に動かせる資金」としてプールしてある。今でこそ笑い話だが、こちらに移った最初の年などは食費にもぴいぴい言っていたなかでの話で、冗談事でもない。

さらに私の場合、行く国が国である。そうでなくとも海外旅行損害保険は必須だと思うが、もちろん保険料は自腹になる。予防接種も自費で済ませたが、保険が効かないので1本1回7000円だったか払った。肝炎のA型とB型を頼んだらお医者さんには「B型肝炎は血液か体液の接触がないと感染しませんが」とか疑わしそうな目で見られたが、現地で医療を受けた場合のことを懸念したのである。先進国まで戻った方が良いと言われるかもしれないが、現地の研究機関にさんざ世話になっておいて病気になったら「おまえら信用できんから帰る」と言えるか。言うのが正しいと思うが、私には言えんなと思った。生ガキを出されても食べる優しい日本人である。

モンゴルに出張するにあたっては零下40度に耐えるための防寒具を買った。もちろん日本では一度も着たことがない。アメリカで一度着たが、これはモンゴルから成田に戻って一泊したらアメリカ行きという日程で着るものを交換する余裕もなかったせいである。これももちろん自腹であって、まあそりゃ私の所有物になっているからあまり五月蝿く言う気もないが、そもそもこんな出張引き受けなきゃいらないんだよ、とも思う。

つまり出張というのはそういうさまざまな周辺負担、そういう言葉があるのかどうか知らないがフリンジコストを伴っているので、マイレージがフリンジベネフィットでけしからんと言うならそのへんのコストもきっちり見て払ってくれという話である。健康リスクの話も出したが、乗っている飛行機だって私の場合プノンペン・ビエンチャン間のフォッカー50だったりして、本気で結構命懸けである。それだけ苦労して自腹切って、おまけに付いてきたわずかなマイレージになんで文句言われんといかんのか(*5)。

こう言うとしかし、マイレージ目当ての不適切な航空券手配とか不要な出張とか不祥事があると反論されそうである。実際、チケットを買って旅費の支給を受けたあとマイレージ利用に切り替えて、元のチケットを払い戻してしまうという不正も過去にはあったようだ。しかし手配については本人にやらせなきゃいいし、上の不正は搭乗券半券を持ってこさせればチェックできるはずだし、出張が必要か不要かはそれこそ組織運営とか政策実現の観点から評価する話である。他にチェックのしようがあるのに不正利用の可能性があるからというだけの理由で禁止していると、実はかえって不正を助長することになるというのは、研究費の不正使用をめぐる問題ではっきりしていると思うのだが。

それだけ負担があって、でもおまえ自分で出張引き受けたんだろ? と言われればその通り、別にイヤがっているのを職務命令で無理矢理行かされたわけではない。本学の関係する事業一般には概ね価値を感じているし、どうせ誰かが行かなくてはならない話である。妻子もいない私なら身軽で良かろうと思って頼まれれば行ってきたが、泥棒扱いされることまで我慢する筋合いはないだろう。本学がマイレージについてどうのこうの言ってきたらもう自分の用事以外では出張しないことにしようと、そう思うわけである。

善意に甘えていると結局は自分の首を締めることになるよと、これは珍しく読売新聞に対する批判なのであった(普段は読んでないから批判もしない)。


(*1) おまえのそれが「時折」かと言われるかもしれないが、たぶん九州や北海道の大学に勤めている人より航空機自体の利用回数は少ないし、国際線に限ってもウチの学部にもっと多い人は結構いる。
(*2) ちなみに給料だけでなく出張中の宿泊費や日当も助手相当だったので、2002年のベトナム出張はすごい安い手当で行っている。
(*3)概ね学卒助手共通の事情だが、あちこちで言って回る意地汚い人間は私くらいかもしれない。なお今春無事助教授の俸給に昇格いたしました。法人化で給与規定が自由化されまして、年俸制だの偉い先生に高給を払うだのという計画がそこここで出ていましたが、私に本来の給料払うのが先じゃねえかと正直思いました。でまあ口に出すから怒られるわけだが。
(*4) 上述の事情で宿泊費がないので、現地に詳しい先生にお願いして安いミニホテルに部屋を取ってもらった。周りじゅうベトナム人しかいないので面白かったけど。
(*5) そのあたりを動いていたおかげでキャセイ・パシフィックの「Asia Miles」というマイレージがたまり、賞品に引き替えようと思ったら全部「香港でのお渡し」だった orz。仕方ないので折角だから現地のオックスファムに寄付したが、元は税金なのにけしからんと言われたら取り戻しに行こうと思う。それで日本の恥が世界に広がろうが私の知ったことではない。

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コメント(3)

上級会員のマイルの件は、そんなに目くじらを立てる必要はないのかもしれません。
安い料金でちょこっと良い席に座れるのですから、
逆に言えば、ちょこっと良い席に座れる身分になったとき、
安い料金分の旅費を受け取るだけだと思いますから。
(ただ、心配なのは、今の席をちょこっと安い料金で座れるなら、ちょこっと安い料金分の旅費しかでない、ということになると思うのですが)。
多分問題になるのは、ちょこっと安い料金で乗ったにも拘わらず、正規料金を旅費として受け取るばあいだと思います。

まあ、民間企業の方々は、自分達の方が(又は、自分達も)会社にたかり尽くしていることは棚に置いて、公務員を批判しますから(北陸製紙の労働組合の行動なんて、公務員の省益批判がそのまま当てはまるように思うし、天下りにしても、民間企業の方が酷いように思うのですが)。

生兵法をひけらかすようでご不快かもしれませんが、学部時、法定果実の法理を解説した講義でマイレージの話が出てきたことがございました。
その時の教官は、社務でのマイレージは業務上横領の疑いがあるとの見解を述べておりましたが、おおや先生におかれては、これに疑議を挟まれたいということでしょうか。

>TKさん
いやまず第一に「手配できる中で一番安い席」が手配されるものなので、その値段で少しいい席に座れるという効果しか生じないです。なおここで言う「いい席」とは非常口前とか最前列とかエコノミーの中でやや楽な席という意味で、例えばNorthWestだとエリート会員でないと事前指定できなかったりするのですね。必要な日程で他に確保のしようがなければ普通運賃で乗ってしまうこともありますが、でもエコノミーです。近場ならいいですが欧米まで行くときは結構疲れますね。
で、ウチの大学は出張報告の際に領収書と搭乗券半券を提出させますから、そういう不正は困難ではないかと思うのです。まあおかげでためたマイルの使い道があまりない。

>七師三等兵さん
いや一定の場合に疑いがあるのは事実でしょう。ただ、以下の二点を検討する必要があります。
(1) 「法定果実」にあたるか。上でしつこく述べた通り、公務員(およびそれに準拠する場合)の出張手当というのは必要となったコストをすべて支払うというものでなく、一定の基準に従って固定額を支給するというものです。飛行機を利用した場合はその基準として実際に支払った運賃が採用されるわけですが、それでも上記の通りズレが当初から予定されていますし、鉄道等の場合は普通運賃基準なので完全にズレます。従って出張手当と出張行為の間に完全な対応関係がなく、出張行為から派生した果実について権原を主張できないのではないかとも思われます。マイレージサービスの性質如何、という問題もここに含まれるでしょう(運賃を支払った人ではなく実際に登場した人に対するサービスであると航空会社側が主張する可能性があります)。
(2) その処理が賢明か。法定果実にあたるとしても、その処理について当事者間の合意がある場合には横領云々の問題は生じません。たとえ現行法上デフォルトでは雇用者に帰属すべきものであるという解釈が成立したとして、従ってそのような処理をすべきか、しかし別様の合意をすることによって異なった処理をすべきかは、経営判断の問題です。また、現状については、マイレージサービスの存在は常識であるといって構わないでしょうから、それをフリンジベネフィット(と言えるかどうかが(1)の争点ですが)として出張した職員に帰属させるという黙示の合意があると主張することは可能でしょう。
社の経費で購入した鉛筆で私用のメモを取ったら厳密には業務上横領の疑いが生じるわけですが、それを処罰することが経営的に賢明かどうかと、まあそういうことですね。もちろんだからといって鉛筆1ダース丸ごと自宅に持って帰ってしまうのは放任できないわけですから、マイレージがこのどちらなのかという判断は必要になるわけですが(誰か損をしたの?という観点からはメモ以下ですけどね)。

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