期間計算

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昨日は全学のインターンシップ事前研修会で「守秘義務・個人情報保護法について」お話ししてきました。昨年に引き続いての登場ですがだから私の専門は個人情報保護法制じゃないったら。参加した法学部生諸君の何人かが「なんであんたここにいるの?」と目で言っていたような気がします。あああああ。

「「ローマの休日」著作権切れ 文化庁見解 地裁が否定 激安DVD認める」(Yahoo! News)というニュースがあったわけだが、これが一部で著作権法の問題として取り扱われていることに違和感を禁じ得ない。確かに裁判上の争点は昭和28年(1953年)に公開された映画の著作権が現在でも存続しているかどうかという点にあったわけだが、問題の本質は「12月31日の終わりと1月1日の始まりは同時かどうか」という法律上の期間計算の極めてテクニカルな点にあったので、そもそも著作権はみたいな話をする意味はまったくなかろう。と思っていたらNHKのニュースで半田先生がそんなコメントをしていてひっくりかえったわけだが。

第一に、訴えた権利者側の主張(両者は同一なので、著作権法改正が施行された時点ではまだ昭和28年作品の著作権が存続しており、従って存続期間が20年延長される)を採用しても、昭和27年以前の作品の著作権が消滅していることについては争いがない。逆に、被告側主張(両者は別時点なので著作権は消滅しており、従って延長の効果はない)を採用しても、昭和29年作品以降については保護期間が70年に延長されたので依然著作権が存続していることになる。左右されるのは昭和28年という一年間に公開された映画をめぐる権利のみであって、それ以降すべての映画作品とか、そもそも映画に関する著作権のすべてとかではない。その点で、保護期間を延長する法改正の合憲性を問題にしたアメリカのソニー・ボノ法(レッシグなどのいう「ミッキーマウス保護法」)をめぐる紛争とは性質が異なる。

第二に、仮に地裁見解が今後とも維持されたとすれば、次回改正の際には公布即時施行とか「12月31日施行」とかにするだけの話であって、そうなれば同様の紛争が生じ得ないことも自明である。つまり問題の中心は、法律上定められた期間を延長したい場合に、期限翌日付けで施行すればいいのか同日付けまでにやっておかなくてはならないのかという点にあり、私としては正直どっちゃでもええがなと思っている。というかこれは調整問題であって、道路を右側通行にするか左側通行にするかというのと同じ、どちらでも同じことだがどちらかにはっきり決まっていないと困るという話だ。「同日付けまで」の方がぱっと見でわかりやすいと言われればそうかなとも思うが、改正法があちこちで「12月31日施行」だの「3月31日施行」だのになるのも見栄が悪いと言えば悪い気もする。立法関係者のあいだでは「翌日付けで良い」という慣行が成立していたのならそれを尊重すればいいのではないかとも思われる。

しかし繰り返すが、ここでどういう結論を出そうが昭和29年以降の作品の権利や著作権という権利の性質自体がどうこうなるわけではない。著作権の存続期間を伸ばしすぎるのもどうかと思われるからここは期限が切れたと解釈しようとかやると、次に期限が切れたと解釈すると気の毒な結果が生じる例(実在する例が挙げられるべきではないが、たとえば退職金計算の基礎になる勤続年数が通算できるかどうか……一般的に「20年間」に対する退職金は「10年間×2」より高額である……みたいなものを想定することはできるだろう)をめぐって訴訟になった場合は期限は切れていないと判示することになるだろう。しかし期間の計算がそれによって生じる帰結の評価で左右されるということになると法的安定性はよっぽど損なわれるような気がする。ここはあくまで帰結の問題ではなく、期間に関するルールのテクニカルな問題として処理すべきだと、そう考えるわけだ。著作権法をいくら勉強してもこの問題の解決にはつながりませんよと、そういう話。

念のために言うと、上記は著作権保護の重要性を根拠として挙げている原告の主張にもあてはまる批判である(まあ原告も被告も自分のために言えることは全部言うものだというのは認めるが)。また、私は個人的には著作権保護期間の無制限な延長には反対しており、しかし一部のリバタリアンやP2P支持者のようにその弱体化ないし廃止こそが公益に資するとも考えておらず、簡単に言うと著作者へのインセンティブ還元は重要なので排他的支配権から利用料徴収権へと性質を転換すべきという立場なので微妙であるが、まあ別に権利者サイドでモノを言っているわけでもないですよとは注記しておく。

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bewaad institute@kasumigaseki - [law][government] (2006年7月14日 03:34)

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