ミクロマクロ

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微妙に出張の谷間。なにやら日銀総裁の問題が盛り上がっているのだが個人的にはよくわからない。とりあえず法的責任と(中央銀行への信認がどうこうという)結果責任と道義的・政治的責任を区別しないで議論する法律家というのはいかがなものかなあとか見物を決め込んでいたところ何やら近くで炸裂したらしい。おや。

しかし別の話をする。日本法哲学会で報告をした際に福井先生(現・大阪大学。ご所属が変わった)から指摘を受けたことというのがあって、つまり私の報告は情報化社会において分散した主体による権力行使という形態が登場するという話だったのだが、そこで分散した「権力」を問題化することによって「国家権力」のコントロールという問題が見失われてしまう、あるいは国家権力を抑制するために作り上げられてきた諸制度の意味が失われてしまうのではないかと、そういう内容であった(と理解している)。別の言い方をすると、フーコーが問題化したような個々の主体間に機能する「ミクロの権力」に視点を据えることで国家という「マクロの権力」の問題を見失っていないかということであって、善悪をちょっと留保した上で言うと、基本的にこの指摘は正しいのではないかと自分でも考えるようになった。

『法律時報』論文について宍戸君(現・首都大学東京。こちらは大学名が変わった)から裁判官の権力性について考えていないのではないかと指摘されたのもこれと同じ話だろう。ただ個人的にはそれがただちに悪い話だということにもならないと思っていて、まあつまり私の主たる関心が主体のあいだの関係とそこで働く「ミクロの権力」にあるということを踏まえて理解してもらえばいいのではないか。それとは別に「マクロの権力」をどう制御するかという問題があることは認めるし、それをおまえはできていないと言われればその通りだとも思う。それが重要だというのも認めるから、まあ誰か他の人やっておくれと、まあそんな感じ。

しかし逆もまた然りなのではないか、と思うことはあり、つまり「マクロの権力」のコントロールの問題を言い募る人に限って自分自身の権力性の問題、自分が手を汚している「ミクロの権力」性の問題に無自覚だという印象はあるわけである。左翼陣営の内部的抑圧性などというのもこの問題に起因している点があるように思われるが、つまり国家に対して自分は弱者であるという意識のみが肥大して、自己の周囲の関係において自らが強者であるかもしれないという疑念を持つこと自体が失われるのであろう。彼らが国家権力に携わる「強者」に向ける批判を、彼らに比較しての「弱者」から彼ら自身に問われたときにどう応答するつもりなのか、とは問うだけ空しい問いである。そもそも彼らには自らが「強者」たり得るという自覚が欠けているので、自らの答責性などという問題は(彼らの認知構造の内部においては)生じる余地がないのである。

さて、私は権力者だろうか。自分ではそう思っている。もちろん国家権力の一員ではないし(だから「マクロの権力」の視点では権力者ではないだろう)、「ミクロの権力」に立っても私ごとき木っ端教員の権力などしれたものであり、せいぜい研究指導の単位を認めないで学位を取得できないようにするとか、卒業のかかっている科目の単位を落とさせて就職を潰し、人間一人の人生計画を狂わせる程度の影響力しかない。しかし私はその程度の権力であってもそれを持っている以上は可能な限り正しく行使しようと決意しているのであって、それはこのご時世で迂闊なことをすればすぐに制裁を受けるということを理解しているからでもあるが、それ以上に院生・学生に対する「ミクロの権力」の関係において私が強者であることを自覚しているからである(と主張する)。だからこそ私は講義においても教室という場がそれ自体権力的な場であることを学生に伝えるのだが、それはそれによって自分がその権力性から無縁であるかのように装うためではなく、権力の構造を読み解いた上でなおその権力を受け入れよ、何故なら私はその権力を正しく行使する(と意志する)から、と宣言しているのである。

この自覚を欠くものが支配者として振る舞う場の醜悪さに、どう対抗すべきだろうか。それが醜悪であるという指摘は、権力性の自覚に依存している故に、機能しないだろう。だとすれば我々には、彼らの望む人民裁判の帰結を突き付けるという方法しか残されていない、のかもしれない。所詮自覚なき権力者には四人組の運命がふさわしいということであろうか。何を言いたいのかわからないと思うがわからせようと思って書いていないので仕方がない。つまりは三度目はないよ、ということが言いたいまでの話である。

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