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むぼーび

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まあその、アメリカが他国に侵略された経験はスー族の襲撃と真珠湾だけだとか言う人に対してはオレゴン爆撃(*)とか風船爆弾(**)とか言うてもいいわけであるが(挨拶)。念のために言うとインディアン(native american)による襲撃がカスター将軍の死んだケースのみだと思っているわけではまさかなんぼなんでもないであろうから、これもまたいつものポラライズだと思って本気で取り合わなければ良い話なのではあるが。

さて。こういうことを主張しているあほおが実在するという話は知っていたが、まさか天下の朝日新聞が記事にするとは思わなかった。何かというとジュネーブ条約追加議定書に基づく「無防備地域」の宣言を条例として制定しようとする運動があるという話。

同宣言は77年成立のジュネーブ条約追加議定書に基づく。戦闘状態になっても戦闘員や兵器を撤去するなどすれば宣言でき、「紛争当事国が無防備地域を攻撃することは禁止する」と定めている。しかし、世界で宣言した地域はいまのところない。(……)条例案が直接請求された大阪市や荒川区など5しくでは、いずれも議会が否決した。一方で、同条例制定は国民保護法に反するという指摘もある。(朝日新聞11月21日夕刊・名古屋本社版8面)

この問題に関する検討はすでに「無防備地域宣言運動の嘘」(週刊オブイェクト)などに詳しいので重複は避けるが、要点は(1) 宣言できるのは「紛争当事国の適当な当局」である、(2) 対象は「軍隊が接触している地帯の付近またはその中にある居住地」であるという二点。どちらからも、平時における地方自治体が宣言できる内容でないことは明白だというわけ。

元々これは国際法の世界の話なので、行為主体性を認められるのは原則として国家である。地方自治体に国際法上有効な行為を為し得る能力は、基本的にない。ではなぜ「適当な当局」という表現になっているかといえば、まあ私は国際法の専門家ではないので記憶の限りであるが、内戦の場合における正統政府でない方(交戦団体)や未承認国家のことを想定しているわけだろう。つまりある政府にとっての「国家」とは、第一にその政府が国家として承認したもののことを指す。この意味では(例えば)日本にとって北朝鮮は国家ではない。国家ではないのだからそれを相手に条約を結んだりすることはない。だがそういう建前論の話ですべてが済むかといえばそうではないのが世の常であり、いくら日本の承認する朝鮮半島唯一の国家が大韓民国であるからといって、半島北部に渡航した邦人の保護を韓国政府に頼むというわけにもいかないし、「そこからミサイル撃つな」と怒るわけにもいかない(正確には頼んでもいいが実効性がない)。

そこでまあ、それを「国家」として承認するか(正統性を認めるか)という問題は横に置いておいて、やはり特定の地域に実効的な支配を及ぼしている組織・団体を現実的に相手にしないといけない場合というのがあり、そういう存在のことを「事実上の当局」と言ったりするわけである。無防備地域宣言もやはり現実的な支配の問題なので、市民保護の見地からは「正統」を名乗る政府にではなく、その地域を実効支配している組織・団体にその権限を与えておくべきである。それが「適当な当局」という表現に籠められた意味であり、つまり地方自治体がそのような「当局」として認め得る場合というのは統治の混乱・通信の途絶などの理由により当該地方自治体に対する中央政府の統制が失われたような場合に限定されると解するべきだろう。つまり平時の地方自治体による宣言は、それが国民保護法という具体的な国内法に反するかどうかという問題以前に、肝心のジュネーブ条約に照らして有効なものにならないのである。

この点、問題となっている運動は現在ただちに無防備地域宣言を行なおうというものではなく、宣言可能な状態(戦闘の近接)が生じた際に宣言できるようあらかじめ要件を整えておこうという趣旨のものだという考え方もあるが、上記記事にはそのような留保はまったく存在しないし、そもそも「地方自治の本旨」(憲法92条)に反しているようにも思う。というかどうやったらそれが「法律の範囲内」(憲法94条)だという理屈が立つんだろう。

さて、この程度は国際法の教科書を読めば出てくる話である。というか問題となっているジュネーブ条約追加第1議定書59条を読むだけで、「どうもおかしいんじゃないか」程度の疑念は持てるだろうと思う。もしかしてこの記事を書いた記者は、運動に肯定的・否定的双方の立場の識者に取材するどころか、問題になっている条文を実際に読んでみる程度の確認すらしなかった、のだろうか。個々の問題について優れた専門性と分析能力を持つ個人が直接に発言し得る情報化社会において、マスメディアの役目があるとすればそれは事実の確認とソース(信頼できる典拠)の形成である、とは以前に私の書いたことであるわけだが、どうも分析能力どころか調査・確認能力の段階でぐずぐずに崩れつつあるのではないかという気もする。

ところでこの運動について「国際法を駆使する具体的で新しい取り組み」と評している前田朗・東京造形大学教授なる人物が、某大学大学院法学研究科を修了して「専攻は刑事人権論」と名乗っていることに暗澹たる気分(***)。著書に『民衆法廷の思想』とか出てきてなんかぶり返すようではあるが「あ〜やっぱり条文とかどうでもいい人だったのか」と思うことしきり。どっとはらい。

(*) 1942年9月9日・29日、伊号第25潜水艦から発進した零式小型水上偵察機がオレゴン州山中を焼夷弾で爆撃した例。山火事を起こすことが目的だったとされる。
(**) 日本から放った気球をジェット気流に乗せて直接アメリカ本土を爆撃する計画。1944年〜45年に約9300個が放たれ、報告があるだけで361個が米本土に到着したとされる。人命被害はどうも6人のみらしい。
(***) 余計なことだが「博士課程終了」という誤字は妙にハマっているので直した方がよろしかろうと思う。>某大学

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TK さんのコメント (2005年11月23日 07:14):

朝日って面白い新聞ですね(朝日の売りの一つに、大学入試での出題率がありますから、どこかの大学で、当該記事を入試問題に使ったりしたら面白いのですが。。。)。

ところで、素朴な疑問なのですが、日本には警察があり、人々は外出するときに家に鍵を掛け、個人の家にもセコムが導入される昨今、同じ日本人同士ですら信用していないのに、国際社会の住人は信用するのでしょうか(軍隊がなければ攻撃されない、国際援助・救援等を積極的行えば、テロの標的にならない、と言っている人に対する疑問なのですが)。

hirocean さんのコメント (2005年11月23日 08:23):

こちらでは初めまして。某サークルの後輩です。いつも興味深く拝見しております。

たとえば、どっかの公民館の会議室でのセミナーで「新しい法律に基いた活動です。これに参加すれば皆さんお金を儲けられます」みたいなことを言う団体がいたとしたら、賛同する人はごく僅かではないかと思われますが(いや案外いい線いくかもしれませんが)、「金儲け」が「平和」になると成立してしまうのが「平和呆け」と評される所以なんでしょうかね。頭の中には代償のない平和ってものがたゆたっているのかなあ。

そもそも、高槻市あたりが占領間近になる事態を想定した場合、その時点で相手さんが国際条約を守っているとは思えませんが、占領軍が無防備地域の住民を尊重してくれるといいですね。根拠のない陰謀論を語る趣味はありませんが、この運動には何かしらの裏の意図があるんじゃねえのと思ってしまいます。悲劇ですわ。喜劇ですわ。

ときに、二次大戦中にドレスデンが無防備都市宣言を行ったけど焼夷弾で焼き尽くされた話と朝日の記事とには齟齬があるような……「平時における宣言」ってことなんでしょうか?

内藤 さんのコメント (2005年11月23日 17:33):

> アメリカが他国に侵略された経験

なんでアメリカ合衆国大統領官邸のことをホワイトハウスって言うようになったんでしたっけね。まあいいですけど。

おおや さんのコメント (2005年11月23日 23:17):

>TKさん
やだなあ、犯罪も防犯装置があるから起きるんですよ。そういう人を信じない心が不遇な人々を社会から疎外し、犯罪へと追いやるんですよ。……てえ類の話を、例えばフランス暴動に関して堂々と主張していた方々がおられるわけですからねえ。まあこのあたり、「善意の贈与には善意が返される」ということを素直に信じている善人とそうでない悪人の違いということなのでしょうが、私は門徒なので悪人で結構です。

>hirocean氏
誰かと思えば……ま、裏の意図というのは別に陰謀論に陥るまでもなくあるようで、「平和教育」なるものを充実させて予算を振り向けるという内容が条例案にあるという話もあり。まあつまり組織を維持するためには常に新しい意匠を開発して資源を調達する必要があるという意味において、この手の「平和運動」も市場経済の桎梏からは逃れがたいようではあります。
ドレスデンの件は、いや多分ぜんぜん調べもしないで取材先の話を写した記事書いてるだけだと思うよ。

>内藤さん
内田先生については、事実に立脚して論じるという姿勢自体を放擲しておられるようなのでまあいいかなと。歴史を無反省に物語りの次元に置いてしまうという点において、実はそういう姿勢は「国家の栄光」とかを語りたがる人々という彼の批判する類型と完全に重なるのですが(北田暁大氏の「ロマン主義」批判ってそういう文脈のような)、自分自身に対する疑いだけはどうも欠落しておられるらしいので気付かれることもないのではないかと思います。はい。

hirocean さんのコメント (2005年11月24日 16:59):

>常に新しい意匠を開発して資源を調達する必要がある

エントリーの話題とは少々外れますが、文系学問が実益を生みにくいと評価されて予算削減の憂き目に遭っている昨今の情勢を鑑みるに、「文系も理系に負けず劣らず金を生むし、実用の用途も幅広い」と考えている人はマイノリティなのかなあと思う次第です。無論、一概には言えませんが、長期的な費用対効果で見れば理系を凌駕してるんじゃないかと(必ずしも自分が文系学問の片隅にいることによる贔屓目でなく、また、文系vs理系という対立軸をすべての基準にするものでもありませんが)。

>この手の「平和運動」も市場経済の桎梏からは逃れがたいようではあります

運動の前面に「金」をちらつかせなていないだけで、むしろ積極的に運動と金を結びつけているんでしょうね。この姿勢だけは見習いたい気もします。

truly_false さんのコメント (2005年11月29日 00:36):

憲法に↓な恐ろしい条文を持つ国に囲まれて「無防備」なんて自殺行為です。

朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法
第86条 祖国防衛は公民の最大の義務であり栄誉である。公民は祖国を防衛すべきであり、法
      の定めるところに従って軍隊に服務しなければならない。
大韓民国憲法
第39条 1 すベて国民は、法律が定めるところにより、国防の義務を負う。

中華人民共和国憲法
第55条 1 祖国を防衛し、侵略に抵抗することは、中華人民共和国のすべての公民の神聖な責務である。
      2 法律に従って兵役に服し、民兵組織に参加することは、中華人民共和国公民の光栄ある義務である。
ロシア連邦憲法
第59条 1 祖国の防衛は、ロシア連邦の市民の責務であり義務である。

(‘74年改正の(旧)ユーゴスラビア憲法などは、“ユーゴスラビア国民は敵に降伏する権利を持たない””領土の割譲は憲法違反である”なんていうスゴ杉な条文を持ってました)

おおや さんのコメント (2005年11月29日 01:04):

疲れたのでデリリウム・トレメンスとか飲んでしまい酔っぱらい。

>hirocean氏
いやわしら金目当ての仕事ですから(という話をこないだインド哲学の先生にしたところではあるのだが)。法哲学などという普遍の真理を探究しているから一向に新規需要が創出されないのであって、やっぱり商法学者を見習***Deleted for the Security Reasons***
姿勢ということについては私は昨今話題のホワイトバンド運動とやらを高く評価しているところであって、つまり『紳士同盟』でしょう? 古来よりあほおから金を引き出すためには表現欲とか名誉欲を刺激してやるのが***Deleted for the Security Reasons***
まあコストについては文系も悪くない、と私も思いますが、パフォーマンスについて納得してもらえるかが問題でしょうね。リスク回避とかに結構貢献していると思うんですが、リスクって表面化しない限り意識されないからねえ。

>truely_falseさん
ども。いやあなたそれはきっと憲法九条に対する信心が足りないからそう思うのです。そういった条文は日本が信頼されていないからやむを得ず書かれるものなのであって、我々が憲法九条を信じ誠実に履行することを表明し、無防備化を通じて態度で示すことができるならば、必ずや彼らもそれに答えて九条の原理を採用するはずなのです。信じなさい。
……え〜ちゃんと答えると、しかし国防の義務を(明示的であれ暗黙的であれ)想定するというのはほとんどの国に共通のことなので特殊なのは日本の方だという気もします。徴兵された兵士が恐怖心から逃亡することを「もっともだ」と認める、なんてえのはホッブスくらい根元的な人しかいないわけで。逆に言うと、そこで生命の危険にもかかわらず踏みとどまるなどという非合理的な意思決定(つうかまさにvain glory)抜きに、国防にせよ治安にせよ守れると思っているのかというのは、追求する必要のあることでしょうな。相変わらずどこに向いているのかわからない矢を撃つわたくし。

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疲れたのでデリリウム
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憲法に↓な恐ろしい条
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>常に新しい意匠を開
おおや on むぼーび:
>TKさん やだなあ
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> アメリカが他国に
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こちらでは初めまして
TK on むぼーび:
朝日って面白い新聞で

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