前の記事: P2Pソフト提供企業の責任 << | >> 次の記事: 批判と信頼

裁判員と陪審(2・完)

| | コメント(6) | トラックバック(0)

検索ネタ。


2005.06.18 19:xx:xx xxx.xxx.xxx.xxx Search: query for '∀'
2005.06.18 19:xx:xx xxx.xxx.xxx.xxx Search: query for 'Д'

何がしたいんだ君は(挨拶)。

さて、この話の続きで、ではアメリカの陪審制の現状はどうなっているのかと。やはり印象論というか「こういう話もあります」という程度の話題なのだが、『イリーガル・エイリアン』という小説がある。地球にエイリアンの宇宙船がやって来て……という話で始まる典型的なファースト・コンタクトもののSF小説なのだが、彼らの滞在する施設で地球人が殺害され、容疑者として逮捕されたエイリアンがロサンジェルス刑事裁判所で陪審審理にかけられるあたりから法廷ミステリになっていくというけったいな代物である。あまり内容を書くのは望ましくないだろうが、しかし両方の話が実は結びついていて衝撃の真相が明らかになるという意味で両ジャンルの定番を踏まえており、さらに一層けったいである。

で、この小説をLSの授業で受講者に推薦したりもしたのだが、何故かというと筆者自身が法律家ではなく、小説全体が法律への他者の視点から書かれているからである。フランク・ノビリオという登場人物(大統領の科学顧問を務めている科学者)がある意味で筆者の代弁人であり、デイル・ライスという公民権問題専門の弁護士に対して素人(アメリカの普通の人)の思いこみや疑問をぶつけ、それにライスが決してその現状に肯定的ではないのだがこうなっていると答える部分が結構充実している。そして、ノビリオ同様にアメリカの法システムへの他者である我々にとっては、ライスの説明がよく参考になると思うわけだ。

結構長い小説だが、やはり陪審制度の問題が数カ所で扱われている。ノビリオとライスは被疑者であるエイリアンに無罪判決を勝ち取るべく努力するのだが、その際にやはりキーになるのは陪審である。その現状は、小説によれば、以下のようなものである。


ロサンジェルスでマスコミの関心を集めそうな裁判が開かれるときにはたいていそうであるように、"カリフォルニア州対ハスク"の裁判は、中心街にある刑事裁判所で開かれることになった。となれば、陪審員候補もロサンジェルス中部から集めなければならなかった。千人の市民が召喚された。もちろん、全員が応じたわけではなかった。とくに男性は、しばしば陪審義務の通知を無視した。再通知が届くことはめったになかったので、そういう人びとは義務をまぬがれるのが普通だった。

出頭した人びとは、陪審選任用の質問票への記入を求められた。七百人以上の陪審員候補が、この回答によってふるい落とされた。

陪審義務を免除される理由はいろいろだった。ひとりで子育てをしているとか、高齢の肉親と同居しているとか、収入が不安定だとか。ある男性は、過敏性腸管症候群をわずらっていて、それを証明する医師の手紙を持っていた。べつの男性は、腎臓移植の順番待ちをしていて、裁判が終わるまでつとめを果たせるという保証がなかった。妊娠七ヶ月の女性も、やはり義務を免除された。

リストからはずされた者はほかにもいた。視覚や聴覚に障害がある者、英語の読み書きがきちんとできない者、裁判の関係者と知り合いだという理由でも、5名がふるい落とされた。ひとりは、デイルが開いた講演会に出席して、彼の著書にサインをもらっていた。

残った185名の陪審員候補たちは——ロサンジェルス中部だといつもこうなるのだが、大多数が黒人で、大多数が女性で、大多数が肉体労働者か失業者だった——予備尋問という手続きで、検察官や弁護士の審査を受けた。こうしてようやく、総勢12名の陪審員と6名の補充要員が選び出された。(pp. 195-201)

無論、このような現状は少なくともライスにとって「わかっていること」であり、それを前提として訴訟戦略を立てていくことになる。「フランク。君は理想主義者だ。アティカス・フィンチだ。だが、残念なことに、この国の法廷ですごしてきた長い歳月は、わたしの楽観主義を打ち砕いてしまった。わたしは裁判や陪審制度が公平なものだとは思っていない。無実の被告をまちがった陪審のまえに差し出したら、有罪にされるだろう。それでも、我々はこの制度の下で闘うしかない」(p. 145)。そこで用いられるのが陪審コンサルタントであり、影の陪審である。「陪審員の選任が終わったら、影の陪審を用意しなければなりません。実際の陪審とできるだけ似通った構成で人を集めるんです。そして、裁判のあいだずっと、彼らの様子を観察します。こうすれば、効果的な弁論とそうでない弁論とを見極めて、どちらが優位に立っているかを日ごとに確認できます」(p. 153)。

ここで我々の問題は以下のようになる。(1)ここに描かれた現状は真実なのか、(2)だとしてそれをアメリカ人たちはどう考えているのか、もちろんここでは法律家たちと一般人のそれぞれの考えが問題になる。ここから先はさらに統計的な分析なども必要になるのだろうけれど、とりあえず傍証をもう一つ紹介しておこうと思った次第である。


  • ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』内田昌之(訳)、ハヤカワ文庫SF、早川書房2002。

Trackback(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: 裁判員と陪審(2・完)

Comment(6)

高橋 さんのコメント (2005年6月30日 23:48):

イリーガル・エイリアンを読んだときは、「陪審制っていうのはなんて大変なんだろう」と半ば感心、半ば呆れました。

質問票の回答によって不適格者を振り落としていく交渉を検察・弁護側でしている場面も、妙に可笑しかった(かつ、確かに必要だよなとも思いましたが)のを憶えています。

 読んだときには、多少の誇張はあるにせよ基本的にはこういうものなんだろうと思っていたのですが、たしかに本当にそういうものなのかは調べませんでした。

 ちなみに、私はスポックの父親の名前を知っているので、不適格になります。^^;

たにぐち さんのコメント (2005年7月 1日 18:29):

ソウヤーは『スタープレックス』だけしか読んだこと無かったのですが、こんな面白いモノを書いてたんですね。昨日このブログ見てから早速、職場の帰りに購入して読み進んでいるところです。面白い。

今日は生 E. Posner を観に行ってました。風体は、スター・ウォーズのエピソード2に出てくるクローン製造星の住人を彷彿とさせる感じでした。

おおや さんのコメント (2005年7月 2日 19:25):

ちなみに小説には「何とかして陪審に潜り込もうとするUFOマニア」が出てくるのですが(くらいは言ってよかろうか)、逆に言うと陪審から簡単に排除されるための答え方ってのもありそうだよなという話ですね。
なんか「私は異人種に偏見がありますが何か?」って言えば一発だ、というネタがシンプソンズかな? アメリカアニメにあるという話も聞いた気がします。マイケルジャクソン裁判のあとの世論調査あたりだと本人たちも「これでいいんだろうか」と思ってなくはないようなんですが、まあ彼らにとっては勝ち取った権利なので簡単には変わらないかもしれません。本国であるイングランドはだいぶもう制限しちゃったんですけどね>陪審審理の範囲。

たにぐち さんのコメント (2005年7月12日 23:13):

先日、読了しました。ラストは、ちょっとだけ「?」という感じも無きにしもあらずでしたが、総じて大変面白かったです。やっぱり、中枢神経系の無い肉食わないとイケナイのかあ、ノージックの先生の言う通りなのかあ(ケッ)、とかいう感想も持ちましたが、基本的におおや氏がこのブログで引用を取り上げている部分が一番面白かったです。的確な紹介をされておるなあ、と。

とまれ、興味深い本のご紹介、多謝であります。

おおや さんのコメント (2005年7月15日 14:53):

>たにぐちさん
ラストの甘っちょろい理想主義まで含めてアメリカかなあと思うところではあるのです。ええ。

たにぐち さんのコメント (2005年7月15日 16:20):

> ラストの甘っちょろい理想主義まで含めてアメリカかなあと思うところではあるのです。ええ。

 うん、そこらへんは私も「アメリカ的」ということで異論ないのですが、・・・以下ネタバレ注意。


・・・ああいう目的を持って、わざわざ遠くからいらっしゃってる方々であれば、目的が重大でもあることですし、自分たちが帰れなくなるということも織り込んだ決断として母船のエンジンの排出口を地球に向けて・・・とかもありなのではないか、とか邪悪なことを考えてしまったのですた。

Write Your Comment

August 2009

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

Recent Comments

たにぐち on 裁判員と陪審(2・完):
> ラストの甘っちょ
おおや on 裁判員と陪審(2・完):
>たにぐちさん ラス
たにぐち on 裁判員と陪審(2・完):
先日、読了しました。
おおや on 裁判員と陪審(2・完):
ちなみに小説には「何
たにぐち on 裁判員と陪審(2・完):
ソウヤーは『スタープ
高橋 on 裁判員と陪審(2・完):
イリーガル・エイリア

Monthly Archives