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法廷と手続的正義・続

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今回の食生活。カレーきしめん(名古屋空港)→瓦そば(博多リバレイン)→マカロニグラタン→ロッテリア→博多ラーメン→熊本ラーメン(キャナルシティ博多)→刺身丼(ソラリアステージ)。まあこないだの札幌よりはマシだな(挨拶)。

さてmojimoji氏に再応答。まず根本的な姿勢の問題を三つ。これはどちらが正しいというよりは、姿勢の違いを読む人は確認してほしいということである(いやそりゃ私は私が正しいと思っているが)。

第一に信頼性について、私は「民衆法廷」なるものを信頼する理由は元々ないので、「信頼できる」という証明がなければ信頼しないというスタンスである。それに対し、mojimoji氏はそれが信頼できる・正当なものであるという立場から出発しているように見える。例えば産経新聞の報道について「しばしば批判以上の侮辱を公然と垂れ流してきた」と評価しているが、報道が侮辱にあたり正当でないという評価は、批判された「民衆法廷」ないし「従軍慰安婦」が正当だという判断を前提している。しかしここではそもそもその「民衆法廷」の正当性を問題にしているのであるから、これは循環論法になっている。

「いや、批判対象の正当性を前提しなくとも発言の侮辱性は判断し得る」と反論されるかもしれないが、氏が挙げている例は「元・従軍慰安婦の発言を裏付ける証拠がない」というものである。これは例えば「バカ」「詐欺師」と罵るように文面そのものが侮辱になるケースではなく、それ自体としては事実を主張しているに過ぎないから(刑法で言うと侮辱罪に当たるケースではない)、もしその事実が存在していれば正当な批判であるに過ぎない。従ってこの例において事実の存否に関わらずそれが侮辱だと判断することはできない。

まあイワシの頭を信心するのも個人の自由であるからそれはそれで構わないが、この論法では信心していない人間を折伏することはできまいよ、と思う。ついでに言うと、だから社会的には(法的には・政治的には)この「民衆法廷」の主張が容れられないんだよ、とも。

第二に「強制力と結びついてないからいいじゃねえか」(意訳)という主張だが、これに私は「フォロー特集」で言及した「公正中立性」と同じ印象を持つ。共通している点として、「権力はやつら(国家)のものであり、我々は権力に反対する・権力を監視する存在である」という視点を指摘することができるだろう。フーコーで顔洗って出直してこいとか言いたくもなるのだが、とにかくまず、近代立憲国家において主権者は我等人民である。それがどういうことかといえば、いま国家権力から疎外されている我々が明日は政権を握るかもしれないということである。そうなったらどうするのか。「いやあの時は政権の外にいましたから手続的保障を無視しましたが、今は政権担当者なのでそこをきちんとしなくてはならず、そうなると同じ結果は出せませんなあ あははははははは」とか言うのか。なにやら旧社会党を彷彿とさせるような気もするが、念のために言うと権力を取るのが自分ではなく自分の意見を支持した他者であったとしても、新政府の決定に対してどのような評価を下すかという問題が生じるのは同様である。

また法廷のさまざまな手続的保障は、法廷が権力行使と直結しておらず「論理的にはこういうことになりますよ」ということを権力を分有する人々に判示するに過ぎなかった共和制ローマ時代から形作られていたものである。法学史の教訓を尊重するならば(これを否定する立場があり得ることは注記しておく)、権力行使との関係はここにおいて決定的ではないと評価することになろう。さらに、私としてはむしろ弱者こそ形式性を守らなくてはならないと、帰結主義的観点から強く思うのであるが、この点はすでに述べた通りこんど書く。

第三は、「正義」から出発するか「自由」からかという点である。これは前エントリの最後で述べた問題だが、私は人間は基本的に自由なのであって、それに制限を加え得るのは本人の同意が(間接的にせよ)ある場合に限るという立場である。前述した通り、正義も各個人の同意に基いて構成されるしかないし、国家の強制力も社会契約という本人の同意によって形成されたものだと考える。すると問題は「強制力を持った上位組織」の有無ではなく、拘束されることへの同意の有無にあるということになろう。一方、同意を必要とする国際司法裁判所のシステムを「不完全だ」と主張する立場は、正義は当事者の同意の有無にかかわらず存在し、強制されるべきだということを前提している。

一応、私の立場を補強する事実を指摘しておくと、国際法においても当事国双方の同意がなくとも審理を開始できるシステムはある。海洋法に関する国連条約286条は「この条約の解釈又は適用に関する紛争(……)は、いずれかの紛争当事者の要請により、この節の規定に基づいて管轄権を有する裁判所に付託される。」としており、つまり一方当事者のみの要求で裁判が開始される(実際にマグロ漁獲問題についてオーストラリア・ニュージーランドは相手国日本の合意なく問題を国際海洋法裁判所に付託した、はず)。では国際司法裁判所と国際海洋法裁判所を分けるものが何かといえば、それは「同意ぬきの付託」ということに各国が同意を与えているかどうかだ、ということ。「アメリカがイラクやアフガニスタンの件で国際司法裁判所での審理に同意しないことに、仮に形式的な正統性があることは認めても、これを正当だとみなす人は、まぁ、いないだろう。」と述べておられるが、これは各国に留保された自由を行使しているだけなので正当である、と言わなくてはならない。「道徳的に」とか「宗教的に」とかは知らない。とにかく「法的には」正当である。ここでそう言わなければ、我々が自由を行使しようとしたときにも「いや私は正当だと思わないよ」と言われてしまうことになる。

しかし国際司法裁判所は国家間の紛争を解決するためのものですが、どこかの国がイラクやアフガニスタンの件でアメリカとの紛争を付託しようとしたんですか? イラクとアフガニスタンの旧政権……はもう存在しないので提訴できないだろう。まあこれは「内乱罪の既遂は存在しない」というのと同じ話。いやあね。

さて。mojimoji氏が「そういう基本的事実を知らないことによって最初からお話にならないことなのかもしれませんけど。」と述べている部分についてだが、ええと、これは真に氏のことを思って言っていることを信じてほしいのだが、その通りであって一度ちゃんとした本で勉強されることを強くお薦めする。というか「どこでそんなこと聞いてきたの?」という感じ。

と決め付けられるだけでは納得できないと思うので、基本的な問題点を指摘しておく。

「連合国って、つまりは国連で」とあるが、国際連合の設立は1945年10月24日である。存在していないものに対して降伏もなにもできるものではない。ポツダム宣言の主体もアメリカ・中華民国・イギリスであり(ソ連は対日宣戦後に参加)、「連合国」ないし「国連」という法的主体がこの時点で存在しているのではない。国際連合が連合国のイニシアティヴで、さらにはその利害を大きく背負って発足したことは事実であるが、これは事実上の関係であって一切法的な関係ではない。

「日本は問題になっている戦争について無条件降伏したのだから」とあるが、まず無条件降伏したことが明確なのは「日本国軍隊」である。これはポツダム宣言(13条)でも1945年9月2日署名の降伏文書でも同じ。この「日本国軍隊」と「日本」が同じなのか違うのかという点には議論があるが、そもそもポツダム宣言5条は「吾等ノ條件ハ左ノ如シ。吾等ハ右條件ヨリ離脱スルコトナカルベシ。右ニ代ル條件存在セズ。吾等ハ遅延ヲ認ムルヲ得ズ。」(句読点を補いました。以下同宣言につき同様)と述べているので、少なくとも連合国は「こういう条件なので降伏しなさい」と約束していることになる。連合国は、従ってこの条件を逸脱することは規範的に許されないことになるだろうし、それ以外の存在(「民衆法廷」を含む)については一切関係のない話である。

とはいえポツダム宣言10条は「一切ノ戰爭犯罪人ニ對シテハ嚴重ナル処罰ヲ加ヘラルベシ。」と規定しているではないか、という反論があるかもしれないが、同12条は「前記諸目的ガ達成セラレ、且日本國國民ノ自由ニ表明セル意思ニ從ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府ガ樹立セラルルニ於テハ、聯合國ノ占領軍ハ直ニ日本國ヨリ撤収セラルベシ。」としており、そしてすでにご存知の通り日本の占領は終了しているのであるから、連合国にとっては戦争犯罪者の処罰は終了しているということになる。また、そもそもサンフランシスコ講和条約によって日本国の主権回復は連合国によって認められているのであるから、ポツダム宣言ないし降伏文書による主権制限は以降当然に無効になっている。

次に「クマラスワミ報告」は報告者ラディカ・クマラスワミ氏が国連人権委員会に提出した報告であり、従って「べきである」と述べている主体は、ひとまずはクマラスワミ氏である。これに対し国連総会で支持決議がなされれば「クマラスワミ氏は『べきである』と言い、国連もをそれを支持した」ということになるだろうが、まず人権委員会には「国際連合」としての意思表示はできない。次に、この報告書の内容は人権委員会決議により「留意」(take note)されたにとどまり、報告書の求めた勧告について決議では言及されなかった。なお「留意」は、これは私も詳しいわけではないのだが国連の評価尺度としては「支持」「称賛」「歓迎」の次に来るもので、事実上これより下の評価はないという。一部ではクマラスワミ報告が「歓迎」welcomeされたと言われているが、これは「報告者の活動」に対する評価(つまり報告書自体に対する評価ではない)だし、「歓迎」されたということは支持も称賛もされていないということに注意する必要がある。なおmojimoji氏の参照するページに付された「解説」は、このような点について一切言及していない。そういう「解説」を書く人(およびその文章を「資料」として掲げる団体)を信頼するかどうかは各自の判断に委ねるが、私としてはここにも専門用語や概念の「すり替え」があると注意しておく必要があろう。


ところで「規則とその意味」は助手論文としてごく標準的な分量であると思います。というか研究史ほとんどやってないから内容の割には短い分量だと思いますが。ええ。

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いなば さんのコメント (2005年1月23日 17:49):

その食生活改めんとそのうちわが国の医療保険財政悪化に大変な貢献をすることになるな。

おおや さんのコメント (2005年1月23日 18:09):

出張中だけですよう。普段はほとんど自炊です。もっとも血中コレステロール濃度が160くらいなので、最近の週刊朝日報道なんかに言わせると低すぎて健康リスクがあるらしいですが。

205号室 さんのコメント (2005年1月24日 01:08):

はじめまして、不躾な書き込み失礼します。

ここ暫くのエントリをおって読ませていただきました
その上で、本題とは違ってくるのですが自分が理解できているか自身が無い点があるのでこのコメント欄で質問させてください、以下、質問内容。

「対立する2者において、どちらが正当な主張をしているか判断するには、問題の発生している時点で2者ともが同意している権威・根拠・法律に沿ってのみなされるべきである」という内容を管理人様はのべていらっしゃると解釈しますが、それであってますでしょうか?

お忙しい中失礼ではありますがお答えいただければ幸いです、無論返答がいただけなくともかまいません。
では、なにやら食生活が乱れ始めているご様子、健康を崩されませんよう。

以上、益々の発展を

おおや さんのコメント (2005年1月24日 12:30):

>205号室さん
ども。やや限定すると、「法においては」ということですし、まあ例えば通常の裁判だと事実関係について両当事者の見解の対立があるのですが、「それについては法廷の決定を受け入れる」というルールへのメタ合意がある。こういうのも含まれるでしょう。
法の外側で「どちらに味方しようかなあ」と人々が考えるとき、というのはどのような根拠に基づこうが自由でしょうし、どのような解決をするべきかについて両当事者が合意したのであれば、その内容は「問題の発生している時点で2者ともが同意している」ものでなくても構いません(「本人の意思に逆らって自由を束縛している」という事態が生じていませんから)。
お答えになっているでしょうか。

205号室 さんのコメント (2005年1月24日 19:48):

管理人様

ご返答ありがとうございます。
私などは、普段考えない内容なので大変勉強になりました。

これからも時折訪問させていただこうと思います。

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