NHK「圧力」問題

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薬漬けの季節来たる(挨拶)。いやなに花粉症の話ですが。2月から4月いっぱいまで薬漬け、5月・9月・翌1月に400ccずつ献血というのがここんとこのスケジュールです。学部から助手の頃はよく成分献血もしていたのですが、さすがに最近ああいう時間の余裕は取りにくい。縛り付けられたまま1時間半論文を読み続けるという時間の幸福について思い返してみたり。

そういえばその頃、「あなたと同じ白血球血液型の人が定期的に血小板輸血を必要とする事態になって、血液が足りない」とか日赤からわざわざ電話がかかってきて、2週間に1回の予定成分献血に応じたりもしていました。「そうですか、そりゃ大変ですなあ」とか思っていたのですがよく考えたら俺がそうなったときは誰が献血してくれるんだ

結局その方は残念ながら亡くなったそうで、予定通り献血しに行ったら「そういうわけで至急必要というわけではなくなったのですがどうしますか」とか聞かれたんですが、わざわざ新宿まで出てきたんだからまあ帰ることもあんめい貯めときゃいいだろうと血小板を提供してきましたが、まあ最後の1時間半は供養だわね。見も知らぬ人ではあるけど。

さてNHKの番組に安倍氏と中川氏が圧力を加えたの加えていないのという問題ですが、正直事実関係もよくわからないので難しい。今のところ長井チーフプロデューサなる人物の告発と朝日新聞の報道の内容がほぼあらゆる関係者から否定されているようだが、間違いなく取材には報道したとおり答えていたという話なら録音でも公開すりゃいい話ではある。記録してなかったんなら……まあ、ひっくり返されればそれまで。それだけの話だよなと。

仮に報道内容が正しかったとしても、特に安倍氏の発言が「圧力」になるかは相当に疑問。というのも「公正に報道してくれ」という、それ自体はきわめて正しく放送法にも明記してある原則を述べただけのようだから。これがいかんのなら、駐車違反してるマスコミの車にお巡りさんが「そこに駐めないでください」と言ったら権力による報道への介入かという話である。まず要求の内容自体は、反転可能性か普遍化可能性かはともかく、正義にかなう内容だということを踏まえる必要がある。

とはいえ、「文字通り」には一般的普遍的な原則を確認するだけの発言であっても、一定の文脈に置かれた場合には圧力を感じさせる介入になり得るというのはその通り。「かわいい娘さんですよね」という台詞を無害な隣人が言った場合と、立ち退きを迫っている地上げ屋が言った場合とでは意味が違うだろう、というわけ。しかしこの場合、客観的には無害な発言だというのが前提になるわけだから、圧力になるかどうかは言われた当人の主観的印象が決め手だということになる。そして言われた当人である「NHK幹部」は「圧力は感じていない」と会見でこの点を真っ向否定。そうなるとやはり介入性を論じる余地はないことになる。

客観性で行くならおさえた発言の内容があまりに弱い。主観性で行くなら、幹部の言質をきちんとおさえていなかったのが敗着。まあどう転ぶことやらねえと。

ところで、ことの発端となった戦犯法廷と称するものについては、一般傍聴を認めていない・弁護側代理人がいないなど手続的正義を大幅に欠いていることが批判の対象となっているわけだが、これについてそもそもプロパガンダなんだからいいじゃねえかという意見あり。しかしこう、例えば疾病を治療する場所で病院または診療所でないものには「病院」という名前を付けてはいけないわけである(医療法3条1項)。何故かというのは明白で、こういう名称独占規制がないとすると、利用者の側からどれが信頼できる治療期間でどれがそうでないかを見抜くのは(資源の有限性や知識格差から見て)困難だからである。「法廷の判決」というのも通常は一般人がそれに一定の権威性なり正当性なりを認めるものであるから(という風に一応は期待しておきたい)、その資格のあるものとないものが混在するのはやはり問題である。「おもちゃの病院」のように、それが本当の医療施設ではないまがい物ないし比喩的表現であるという理解が当事者を含めた社会に広く共有されているならまあいいのだが、どうも当事者はそう思っていなかったようであるし、社会に対しその点を明確にして広報活動を行なっていたわけでもないようである。であれば、結論に賛同するかどうかは別として、法廷の権威というものを信頼しそれに依存した商売をやっている我々法律家としては、「法廷という言葉は使うな」、少なくとも「法廷と称して恥ずかしくない手続的正義を整備してからにしろ」と、やはり怒らないといけない気がする。なお「おもちゃの病院」はおもちゃならちゃんと直してくれるわけで、実効性もへったくれもない自称「戦犯法廷」と決して同一視できないということを注記しておく。

「手続的正義が整備されてても納得しないんだろ?」という意見もあるが、ここがきちんと区別して欲しいところで、少なくとも私はそれなら苦笑いで済ませるくらいになり、怒りはしない。すくなくともそこからは裁判制度と「法」というものへの敬意を読み取ることはできるからである。結論が気に入らないからとにかくダメだというのとは違うが、しかしまあ確かに納得はしないだろう。何故なら法廷の守るべき原則としては、対審構造や防御権の保障や審理の公開よりも先に、管轄権のない裁判はしないというものがあるからである。司法は謙抑的であるべきなのであり、市民の自由な意思形成に介入するべきではない。

つまり私の言いたいことはほぼこれに尽きる。プロパガンダならアゴラに出て行け。法を、あるいは「法」という言葉を、そのために利用するな。このようなやや厳格な分離主義の正当化が十分にできているとは自分でも思っていないが、とまれ私のスタンスはこのようなものである。

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 NHKと朝日新聞を巡る騒動とは異なる次元の論点であることには注意しつつも、やはり女性国際戦犯法廷そのものへの批判はそこかしこで見られる。「シンパシーを感じる」と明言したわけだし、その批判の内容次第では僕も旗を持ち替えねばならないのだから、それらへの... 続きを読む

コメント(9)

法を僣称して権威づけしてるようにみえる。
ただの「戦犯告発集会」だったら番組つくろうという気分にはならなかっただろうね。

 どうも、はじめまして。濃い内容ばかりで、勉強させていただいています。

 「一定の文脈に置かれた場合には圧力を感じさせる介入になり得る」というのはそのとおりだと思いますが、「圧力になるかどうかは言われた当人の主観的な印象が決め手」というのは、法律的・法学的にはそういうものなんでしょうか? 

 脅迫は、当人が脅迫されたと感じていなくても、傍で聞いている人が、そう理解できますよね。ただ、脅迫罪が成立するのは、法律的には、脅迫されたという当人の感じが不可欠なんでしょうか?

 実行の最終段階の不手際で失敗した殺人の試みがあり、しかも狙われた当人自身はなにがあったか一切知らない場合があったとしても、殺人未遂は成立するのですよね?? 
 圧力、脅迫、殺人は同列ではないでしょうが、「圧力」に関して、当人の感じが「決め手」というのは、法律的に、そうなっているのでしょうか? 法律・法学に疎いもので、御教示いただければ幸いです。

>ぷ さん
まあそういうことでしょうね。だから彼らの狙いは理解できるのですが、許容できないと。

>chronoeidesさん
刑法上の脅迫罪について言うと、(a)客観的に畏怖するに足る内容を告げ、実際に相手が主観的に畏怖した場合、(b)客観的に畏怖するに足る内容を告げたが主観的には畏怖しなかった場合には脅迫罪が成立し、一方(d)客観的に畏怖するに足る内容ではなく、また主観的にも畏怖しなかった場合には成立しないのは明白だそうです。問題は(c)客観的に畏怖するに足る内容ではなかったが主観的に畏怖した場合の処理で、ここは学説上は議論が分かれているようです。
ただ、上記で言う「客観的」は文言上の問題だけではなく発言の文脈も含むようで、例えば「かわいい娘さんですよね」と地上げ屋が言うパターンは、一般人の観点からそれが害悪の予告であると理解し得る場合には、「客観的に畏怖するに足る内容」ということになるようです。
刑法上の脅迫罪に関する話で、従って今回の「圧力」より厳しい要件にはなっていると思いますが、とりあえずそんな感じで。

 どうも。丁寧かつ明快な解説、ありがとうございました。(c)の問題は、ひょっとしたら、セクハラの規定問題でも、議論がわかれる点なのかな、と想像します。
 客観性は、文言に限定せず、文脈も含むとの解釈、小生の感覚にも相応します。さすが、法律家のかたがたは、丁寧に規定されておられるのですね。
 脅迫と圧力は同列ではないそうですが、『圧力」の定義そのものはない、まだ確定していない、ということなんでしょうか? 脅迫より甘い条件になるのでしょうが、もしも脅迫(b)と同じ条件があてはまるとすれば、お伺いをたてにきたNHK幹部に対する安倍さんの発言は、ご指摘の通り、文言は正義にかなうとしても、しかも、受け手が主観的に圧力と感じなかった(と主張している)としても、なおその文脈からして『客観的に圧力と感ずるに足る内容』であった、と認定する余地はある、ということですね。
 圧力をかけた/かけないというより、『圧力」「便宜」を与えた/受けたという証言が当事者からは原理的にでるはずのない贈収賄や談合、出版社と社保庁の癒着、あるいは総会屋と企業総務部のような事例になぞらえるべきなのか、とも思えてきたのですが、小生の素人考えにすぎません。(事前検閲、政治の不当介入を問題化するかぎり、「圧力」の有無で争うしかないのでしょうね)。
 とりあえず脅迫の条件(b)になぞらえることさえできれば、法律(家)的なわくからも、なお、『圧力」と認定できるかもしれない、ということがわかっただけで、よかったです。法律あるいは法の実践(蓄積)が、門外漢の小生の感覚にも相応する論理をちゃんともっていてくれて、すこし安堵しました。また勉強させていただければ幸いです。

>chronoeidesさん
ども。ええ、やはり(c)のような「被害感情だけがある場合」が争点になりますね。脅迫罪の場合は、例えば被害者が「牛乳に塩を入れて飲んだら死ぬ」と(なぜか)思い込んでいたとして「おまえの牛乳に塩を入れるぞ」と言ったらどうなるかという話ですが、「被害者がそう信じていることを知っていて利用した場合には脅迫罪が成立する」という立場と、「そんな非常識な(一般人から見て納得できない)信念を保護する必要はないので不成立」という立場があるようです。しかしセクハラの場合、その「一般人の視点」にすでに男性(なり強者なり)の「常識」が反映してるんじゃないかという指摘もあるでしょうから、また話がややこしくなるわけです。
「圧力」というのは、物理的なあれでなければ、明確な定義はないと思いますが、それをしたら刑法上の犯罪になる「脅迫」より広いというのは、まあ確実でしょう。安倍氏の発言が「圧力」かどうかというのは議論になると思いますが、まさか「脅迫」だとは誰も言わないでしょう。
安倍氏の発言、「被害者」が否定していても客観的な文脈から認定する余地があるというのはその通りでしょう。背景にある権力関係を重視するというアプローチもありでしょうね。ただ問題はやはり、内容がとりあえずは非常にもっともであるという点にあるとは思います。「脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者」という強要罪(刑法223条)があるわけですが、本件について言うと放送内容の公正中立というのは放送法上の義務ですから。
正直、番組内容が本当に社会の理解を得られるなら「はい、これが公正中立な放送内容です」とツッパれば良かった話で、それができなかったというのは、「ツッパったときに社会からの援護が得られない」というNHKの判断があったのだろうなとは思いますけどね。

 度重なる解説、ありがとうございます。
 「背景の権力関係」については、今後のなりゆきをじっくり待ちたいです。

 NHKの側はそもそもいつから、いかなる仕方で、お伺いをたててきたのか、その間、どういうことがあったのかなど、細かな事実が出てくるのかどうか。

 番組放映前にお伺いにたてること、さらにその ― おそらく慣習化・構造化されていたであろう ― 文脈を、「一般人の視点」がどのように評価するのか。あるいは実際に裁判になったとき司法はどのように評価するのか。

 選挙で支持された政権与党の視点がそのまま「一般
人の視点」なら、結論はほぼみえているわけですが、少しは期待しています。ほんの少しですが、「法」の理性というものを信じたい。(民衆法廷の正当性という目下のホットな議論ともかかわってくるでしょうが、とりあえず、「圧力」問題に関連してのみ、「私見」を記させていただきました)。

マスコミ@2ch掲示板
http://society3.2ch.net/test/read.cgi/mass/1140910451/l50#tag490


●荒川の日の丸ウイニングランをカットしたNHK●
1 :文責・名無しさん :2006/02/26(日) 08:34:11 ID:MNlJCVvZ
金メダルを獲った荒川選手が日の丸を身にまといウィニングスケーティングをする間、
不自然にもずーーっとリプレイを流し続け、感動的な国際映像を隠蔽した売国放送局。
メダリストと国民に対する冒涜である。絶対に許せない!

http://photoimg.enjoyjapan.naver.com/view/enjoybbs/viewphoto/psports/101000/20060224114075815655848800.jpg
http://photoimg.enjoyjapan.naver.com/view/enjoybbs/viewphoto/psports/101000/20060224114075050171700100.jpg
shizuka_arakawa_flag_of_japan.jpg
http://kiken.jp/sports/sports/log/20060225021046/img/img2187.jpg
 (ミラー
 (http://sylphys.ddo.jp/upld2nd/news2/src/1140802261805.jpg
 (http://www.101fwy.com/olympiad/src/1140802041296.jpg
 (http://2sen.dip.jp/cgi-bin/upgun/up10/source/up0035.jpg



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●荒川の日の丸ウイニングランをカットしたNHK●
1 :文責・名無しさん :2006/02/26(日) 08:34:11 ID:MNlJCVvZ
金メダルを獲った荒川選手が日の丸を身にまといウィニングスケーティングをする間、
不自然にもずーーっとリプレイを流し続け、感動的な国際映像を隠蔽した売国放送局。
メダリストと国民に対する冒涜である。絶対に許せない!

http://photoimg.enjoyjapan.naver.com/view/enjoybbs/viewphoto/psports/101000/20060224114075815655848800.jpg
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 (ミラー
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溜池通信(http://tameike.net/)の3月3日分より引用

>〇お昼に出た会合で、「NHKは、荒川静香が日の丸をまとってウィニングランをした映像を流さなかった。報道が偏向している。ケシカラン」と言って怒っている人がいた。その場にちゃんとNHKの人がいて、「五輪には国際映像を使うとルールがあるので、あの場合は仕方がなかった。たまたまリンク際にNHKの職員がいたので、あわててウィニングランの映像を撮って、後で編集して放映した」との弁あり。
>
>〇まあ、真実はそんなところでしょう。かんべえも多少はテレビ局の制作現場に立ち会っている方ですが、あれは1分1秒を争う世界です。とっさの判断で、「日の丸を流すのは自粛しよう」などという思惑が働くはずがない。制作に携わる人たちというものは、視聴者が思っているよりはるかに真面目で真剣なものです。

 NHKの一部番組に妙なバイアスがかかっているとは思いますが、今回の問題は単なる技術的な問題ではないでしょうか?

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