なにがありがたいのか。

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立花隆氏講演「電子書籍は、なぜ飛躍できないのか」。飛躍できていないという現状認識とその理由については正しいと思うが、そのあとを見るとこの講演の何がありがたいのかさっぱりわからない。

使い勝手はいまいちだし、他のコンテンツとの競争を考えると価格も高い。結局「今のままではちょっと太刀打ちできない」というのはその通りだろう。立花氏は安価であることを魅力にしても仕方ないので、場所を取らないというメリットを生かして資料やレファレンスを収録すべきだ、と言う。しかしそもそも現在の電子書籍は「安い」のかね。

今年の前半に電子書籍回りの動きがあったときに見てみたのだが、たとえばTimebook Townというサービスは、まずデータを扱うソフトウェア(Windows専用)が必要で、外で読もうと思うとそのソフトをインストールしたノートパソコンでも持ち歩くか、さもなければソニーのLIBRIeという専用端末(4万円程度)を買わなくてはならない。サービスの月会費が210円、あとは1冊ごとに210円〜525円を支払うか、ジャンルごとに月額1050円で5冊までといった定額会費を支払う。いずれにせよダウンロードしたデータは60日間しか読むことができないええっと

まず60日しか読めない以上、長期にわたって何度も繰り返し読んだり参照したりする本を買うのには向いていない。一方、文庫や新書で軽く読み捨てるような本を買うことを考えると、確かにデータ自体はたとえば新書1冊で315円とかなので本で買う半分くらいだが、それで専用端末の代金のモトがとれるのはいつの日か。しかも書籍ならブックオフに売っても人にあげてもいいわけだが、データは60日で無意味になってしまう。出先の本屋や駅の売店でふらっとデータを買うというわけにもいかない。TCO (Total Cost of Occupation)を考えれば決して安くはないし、安いとしても失うメリットほどではないのは明らかだという気がするわけである。いや本気でわからないのはこのシステム作った人間が、本当にこれが売れる・利用されると思ってたのかというところなんだけど(ソニーは便利な端末を作りたかっただけだろうから理解できなくはない。またどうせ著作権保護システムでユーザを囲い込もうとして失敗したんだろうが)。

でね。高価で売れるコンテンツの例として立花氏が挙げてるのが「判例集」で、たとえばLSで勉強している学生に「教えるエッセンスを押し込んだもの」を売り出せば10万円でも売れるだろうと言うわけですよ。こうどこからツッコんでいいかわからないのですが、まず電子コンテンツとしての「判例集」ってのは、すでにある。提供範囲が限られてるけど無料で使えるものも多いし(eg. 「最近の最高裁判決」)、収録判例がかなり限定されたものはCD-ROMやDVD-ROMでも出てる。相当広範囲に収録されている有償のオンライン・データベースもある。たとえばTKCLEX/DBインターネット。アメリカならLEXIS/NEXISに相当するものですな。一般向けだと従量課金で月額うん万円取られるわけですが、もちろん本学でも教員・研究者コースの院生・LS学生向けに提供しています。アカデミックだから安くしてもらってますが(いや先様にとっては先行投資ですからね)、結構な金額をお支払いしてますよ。ええ。

そもそも判例集ってのは固定されてるわけじゃなくて、次々と新判例が増えたり、それによって古い判例の効力が失なわれたりしてる生きたものなんだから、固定された媒体で提供するより、DBをその都度参照した方が確実に便利だろう。出先で判例DBまで参照したくなることってのもあまりなさそうだし、あったとしてもいまどきPHSの常時接続くらい安いもんなんだから、コンテンツ自体を持ち歩くメリットは、おそらくあまりない。「その場で気軽に使えるもの」ってのも必要だけど(eg. ポケット六法)、それは毎年使い捨てにするようなものなので安くないとダメだし、使い勝手の面で電子書籍が勝てるかどうかは心もとない。

「教えるエッセンス」ってのも、まあそれが簡単に作れたら苦労しねえという話はあるが置いておいたとしてもさ、LSの教育全体を最低でも200万円がとこ取って売ってるわけですよ、こちとら。その「エッセンス」だろうが10万円程度のはした金で売れるもんかね。基本書とか教科書とかを原文で大量に収録すれば……と思うかもしれないけど、法律は改正されるものなので教科書の寿命も短いわけですよ、この世界。いやそりゃ憲法は60年変わってないからいまだに芦部憲法でいいかもしれないけど(←注・そんなことはない)、商法なんかこないだ年に3回改正してたからね。このあたり、立花氏自身はやっぱり法律家じゃないというか、感覚がないよねえと思う。ご本人はわかってるつもりなのがイタいわけだが。とまれ、この程度のご卓説をありがたがって聞いてたんじゃ、そりゃ電子書籍も売れんでしょうよ、という話である。

ところで上記のように考えた場合現状の電子書籍システムには明るい未来はあまりなさそうである。ではどのようなビジネスモデルなら展望があるか、あるいは現に成功している商売はないのか。私にはどちらもあるような気がしているのだが、もちろんそんなことここでは書かないのである。商売については素人だし、ハズれたら恥かしいからね。名大LSの「情報と法」では話しているので、ご興味の筋は聞きにこられたし。宣伝。

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コメント(1)

講演の類はありがたいとは限らないという話なのですよね。
講演だけならある意味一過性のものと言えなくもないのですが、メディアに表出してしまうとそのこと自体がある種の権威付けを伴ってしまったり、いろんなところから参照されてしまったりするのが面倒なところなのでしょうか。

このてのもののクオリティコントロールってのは、なかなか難しいんでしょうかねぇ。

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