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門前雀羅の時節

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法学部の教員はどんな法律でも良く知ってると思ってませんか>他学部の先生方。いやまあ我々も「数学科の先生は計算が得意に違いない」とかうかつに信じてそうではありますが(挨拶)。さて、某所で「都立大学法学部法律学科の崩壊」なる文書を知る。たいへんに趣深い。

核心は「東京都立大学法学部法律学科」に在籍していた教員と、現在発表されている「首都大学東京 都市教養学部都市教養学科法律学コース」(*1)の就任予定者リストの比較。ううむなるほど、両者が「ほとんど異質な組織」だというのは、その通りですなあ。しかし論拠と分析には問題があるような。

まず、「民法、行政法、社会法、法哲学、法社会学、日本法制史、西洋法制史の7つの専門分野の教員は、全て(定年退職者1名を除く12名)、 首大に就任しなかった。全員、首大に移行した分野は、わずかに、憲法、刑事法、国際法の3分野のみである。」というのはもちろん虚偽ではないが、「分野」の規模がずいぶん違わねえかとは思うわけである。憲法・行政法・民法・刑事法(*2)・国際法が基本的に多くの教員を抱える「大分野」なのに対して、法哲学・法社会学・日本法制史・西洋法制史は概ねいても1人の「小分野」である(いずれも大きな区分としては「基礎法学」にくくられる)(*3)。たとえば民法学者の担当する講義は最低でも4科目・多ければ7科目(*4)くらいありそうな気がするが、日本法制史学者の担当講義は普通「日本法制史」のみ。前者は確実に専任教員複数名を必要とするが、後者は(やろうと思えば・その専攻の研究者養成を諦めれば)非常勤講師で対応可能。それを同列に並べて数を出してもねえ。

「基幹的実定法分野や基礎法分野を縮小した分を、知財法、国際私法などのいわゆる先端的分野の拡大に振り向けているように見える。」というのは、分析としてはまあ正しいと思う。ただし知的財産権法・国際私法ともかなり以前から存在する法分野であり(*5)、新司法試験の選択科目候補に挙がっていることを考えればすでにその地位は確立されていると評価すべきだろう。「基礎的基幹的学問領域」と対比していたずらに軽視すべきではない。

さらに問題となるのはこれが賢明な選択かどうかということで、これを私が言うのは相当に悲しいことではあるのだが、妥当と評価せざるを得ないと思う。いま述べた通り両科目は新司法試験の選択科目に、おそらくはなる。首都大学も法科大学院を設置しているのだから、同試験にある程度は対応した教育を保障せざるを得ない。もちろん首都大学の規模ですべてを専任で提供するのは無理だと思うが(名大だってできてない)、ある程度は自前で持っておかないと他の大学や学生たちに対して面目があるまい。もちろん新司法試験の内容分析や情報収集にだって遅れを取る。あと5年くらいのあいだに法科大学院の大淘汰時代がやってくるだろうと予測するならば(いや私には明白だと思われるのだが)、ここで出遅れるような真似はできまいよ。

一方で基礎法学諸科目は、いっさい新司法試験と無関係である。もちろん法を学び法というものを理解するうえでこれらの科目は非常に重要だと思うが、法科大学院の過密スケジュールのなかで目の前の試験突破に役立たない科目に割く余裕はないと言われれば是非もない(*6)。そうでなくとも、基礎法学諸科目を専攻する研究者を目指す人間以外に対してこれらの科目が持つ意味というのは「教養」にとどまる。つまり「知識」を理解したり判断する基盤として重要だが、不可欠ではないし直接的な効用はない。で、教養としてこれらの科目を学ぶだけなら講義を聴けば十分であり、講義を提供するだけなら非常勤講師で十分ではある。

研究者を養成するためには演習を含めたもっと濃密な教育や研究指導が不可欠であり、専任教員ぬきにそれを実現するのは極めて難しい。しかし基礎法学の研究者を目指す学生などそういるわけではないし、また(現在の就職状況を鑑みれば)その方が良いのではないか。とにかく法科大学院を中心とした現状で生き残ることを考えたら、基礎法学・政治学といったあたりを(消極的にせよ積極的にせよ)抑制し、その分を試験科目を中心とした実定法学に回すという戦略を批判するのは難しい。

まあこう言うと「首大非就任者の会」の方々などからは志が低いとか長期的視野に欠ける(*7)とか言われるのだろう。その通りである。先程述べたように、現在の法科大学院をめぐる状況が安定して続くとは思われない。新司法試験の合格者数とLS定員のアンバランスを原因とする法科大学院の淘汰は、遠からず起きるだろう(*8)。そのときにどうすれば良いのかをニラまなくては、生き抜き続けることはできない。

しかしそのためには、まず当面を生き抜く必要があるというのもまた事実である。いま節を貫いても、そのために死んでしまえば無意味である。やがて情勢が変わったときに「ああ、あの人には先見性があったなあ」と生き残った人々が涙してくれるかもしれないが、それが私のために何になるでもない。「生きてるうちが花なのよ、死んだらそれまでよ党宣言」。やがて来る次の日のために今日は何をしたら良いのか。最低限「忍従する」というものであるとしても、それに対する回答なしに闇雲に変化を拒否しても、大方の支持を得られないのは当然だろう。誰よりもまず基礎法学者自身が、我々が提供するのが「実用的」な知識ではないこと、それに対して社会が向ける視線の厳しさを認識したうえで行動しなくてはならないと思う。うかつに自滅して損をするのは我々であり、さらには次の時代の社会そのものなのだから。

というわけでちゃんと認識して行動しているつもりですので名大全体で法哲学者が4人もいる事実についてはツッコまないでくれること希望。いや飛ぶ生首はどれかとか考えはじめるとあなたもう。

(*1) この名称が間抜けであることに異論はないが、しかし組織名称くらい正確に書こうよ、研究者なんだからさ。
(*2) これもやや疑義あり。中に含まれる「刑法」と「刑事訴訟法」「刑事学(刑事政策)」の互換性は極めて低い。民法・民事訴訟法の関係と違って刑事訴訟法・刑事学は人数の少ない「小分野」なので、制度上は一緒に考えることもありそうだけど。
(*3) 念のために言うと「大分野」「小分野」という区分が一般的に用いられているわけでも、名大で使われているわけでもない。同じように「科目」とか「専攻」とか呼ばれていても人数のだいぶ違う二種類があるよね、という(おそらくは)法学部関係者に一般的な感覚を説明するために、あえてこういう表現を使ってみた。
(*4) 狭義の「民法」を細分したもの(eg. 東大だとI・総論と物権、II・債権各論、III・債権総論、IV・親族と相続。名大ならI・総論、II・物権法、III・取引法、IV・事故法、V・家族法。)にどれだけ細かい[先端的な|専門的な|趣味的な]科目を追加するかで決まる。名大では消費者法を独立科目として開講していたが、LS設置に伴う学部カリキュラム改正で廃止。
(*5) その点では医事法や環境法など、せいぜい戦後の分野とは異なる。知的財産権法は1469年のヴェネツィア、国際私法はグロチウスにさかのぼるのかな。いやそりゃ451 B.C.にさかのぼる民法に比べれば新しいと言われりゃその通りだけどさ。
(*6) いや私LSでは「情報と法」担当教員だし。
(*7) まあこんなとこでこんなことを書いているくらいだから私が計算の上手な人間でないことは明らかだと思うが。こういう難しい問題には知らぬ存ぜぬを決め込むとか、「立ち位置」でも論じてるのが利口なんだろうけどねえ(タメイキ)。まあ計算がちゃんとできるようならちゃんとあのとき霞ヶ関に行ってたわな。
(*8) しかし今さら騒ぐのもアタマわるい話だよねえ、とは思う。新司法試験の合格者数は(修習の都合もあって)約3000人であり、そこで学年定員6000人分のLS設置を認めてしまうと合格率が約20%になる(LS卒業者には計3回まで受験が認められるため)というのは、設置審段階ですでにわかっていた。である以上、だいたい5年後から年間約3000人の「三振博士」(LS卒だが新司法試験に3回落ちて受験資格を喪失した者)が輩出されるであろうということも、明白であった。今から「だまされた」と嘆いているLS学生もいるようだが、そのことが見抜けていない時点で法曹になる適性を欠いていると思うが、どうか。

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Comment(6)

よこはま さんのコメント (2004年11月 9日 01:00):

私は前から、2−3年後には、殆ど合格者を輩出できない大学を抱える地域の政治家などが強力な突き上げを行い、煎じ詰めれば日弁連の既得権保護にしか寄与しない合格者数目標3000人が、上方修正される(うまくいけば5000人ぐらい?)と考えているのですが、どうなのでしょうかね。

いなば さんのコメント (2004年11月 9日 12:55):

森際先生ご本マダー? とか言ってみるテスト。

おおや さんのコメント (2004年11月 9日 18:14):

>よこはまさん
それはそれで、食えない三振博士の代わりに食えない弁護士を大量生産するだけのことではないかと。全体的にはその方が弁護士の既得権益を損なうことになるので望ましいかもしれんと思いますが、結局LS再編の波は起きるのではないかと。

>いなばせんせえ
……どうしてそう一番痛いところを的確に orz。
個人的にはさっさとロールズ翻訳本の監修を終わらせるべきだと思います。早く出した人だともう1年半待ってるはず。法哲学の教科書とか、法曹倫理の教科書とか、もう出遅れまくってるんだから今から急ぐ必要もないでしょうにと。

おや痔 さんのコメント (2004年11月10日 10:04):

 先月の終わり頃に,某独立行政法人から拝受した「めくり葉書」がもたらした精神的damageから逃れるためにw,ミクシィとやらにハマって,ますます論攷の執筆から離れるという虞があるおや痔です(累積債務の内訳は,今日が〆切の学会報告の申請書や,たにぐちさんの玉稿へのコメント,学会誌への査読論文の投稿,某団体のNLへの寄稿,たむらさんからのメイルへのお返事,あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁgこrじヶlk).

> いや飛ぶ生首はどれかとか考えはじめるとあなたもう。

これはその危険性の高い順にリストを創ってみろということでつか? それならば喜んで(以下ry.

> まあ計算がちゃんとできるようならちゃんとあのとき霞ヶ関に行ってたわな。

あっちもあっちで色々と大変じゃないんですか,今は?

> 個人的にはさっさとロールズ翻訳本の監修を終わらせるべきだと思います。

ロウルズさんの訳といえば,『正義論』の改訳を川本さんが,『政治的リベラリズム』の訳を岩倉さんがなさるというお話を以前に伺ったことがありますが,二つ共まだ全然出ませんねぇ.

> 法哲学の教科書とか、法曹倫理の教科書とか、もう出遅れまくってるんだから今から急ぐ必要もないでしょうにと。

前者は,確か奥平さんがご執筆をご依頼されたやつでしょうか? わたしも院生会関係の仕事の〆切を半年以上も遅らせてしまったという前科(今週の月曜日にその仕事をやっとのことで片付けましたが)がありますので,他人様のことをとやかく言うことはできんのですが,確かわたしが学部学生だった時からこの話はもうすでに(以下ry.

たにぐち さんのコメント (2004年11月11日 06:55):

おや痔さま

> たにぐちさんの玉稿へのコメント

 が累積債務に加算されているようですが、明後日以降の
学会報告で、拙稿(『思想』の方)にも触れますし、報告
の際、もしくは報告終了後〜懇親会などの時間をご利用さ
れて口頭でご批判・ご意見頂ければ十分ですので、ご無理
なさらぬよう。余談ですが、大風邪ひいて、声が、ぐーぐ
ーがんもみたいになってます。学会までに治れば良いので
すが、、、

おや痔 さんのコメント (2004年11月11日 11:56):

>たにぐちさん

お心遣い,痛み入ります.とは申せ,たにぐちさんのご説を踏まえての論述を今後の著作で展開する可能性がある以上,もう少し深く考えさせていただきたいとも思っています.こんなことを書いておいて,ショボイことになってしまったら,申し訳ないのですが.
 閑話休題.自分も今月に入ってから,風邪にやられました.こちらの場合は,激しい悪寒と熱とだけで喉や鼻がやられるということはなかったのですが.「ぐーぐーがんも」とはこれまた旧いもんですね.あの生物がどんな声を発していたのかということまでは憶えていないのですが(ご担当の声優さんは何方だったのでしょうかねぇ),どうぞご自愛くださいませ.明後日以降の学会でお逢いできることをこちらも楽しみにしております.

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