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腕前(1)

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さすがにうまいなあ、と思う。町山智浩氏の文章の書き方ね。たとえば彼はこう書く。

今回、CNN他のアンケートによると、ブッシュに投票した理由で最も多かったのは「モラル政策」がトップだったと報道された。具体的には中絶問題とそれに伴う幹細胞研究、およびゲイ結婚への反対だ。
経済政策への関心は二番目で、対テロ、戦争に関する政策は三番目だった。
このデータは、筆者が日記に書いた「戦争や赤字がどうなろうと彼らは中絶とゲイに反対していさえすればブッシュを支持する」ということを証明している。(町山智浩アメリカ日記、2004-11-03)

さてCNN.comの出口調査を見てみよう。

Most Important Issue(もっとも重要な争点)を見ると、確かに1位は道徳的価値、2位が経済・雇用、以下3位テロリズム、4位イラク問題の順である。しかし個々の割合は順に22%、20%、19%であり、大きな差があるわけではない。順位にあまり意味はなく、これら3要素が(4位のイラク15%を数えてもいいかもしれない)有権者の行動を左右したと見るべきではないか。

しかし実はいま挙げた順位は調査総数に対する割合であり、ブッシュ氏に投票した人の中での順位ではない。個々の選択肢を選んだ割合に、結局ブッシュ・ケリーどちらに投票したかの割合をかけ、回答者全体に対するパーセンテージに直した表を作ると、以下のようになる(カッコ内は各氏に投票した人の中での順位)。

理由ブッシュケリー
税金2.9(5)2.2(7)
教育1.0(7)2.9(5)
イラク問題3.9(3)11.0(2)
テロリズム16.3(2)2.7(6)
経済・雇用3.6(4)16.0(1)
道徳的価値17.6(1)4.0(4)
健康福祉1.8(6)6.2(3)

ここからは、ブッシュ氏に投票した理由は「道徳的価値・テロリズム」が圧倒的であり、一方ケリー氏は「経済・雇用・イラク問題」によって支持されていたと見ることができる。テロかイラクかというのは同じ問題を賛否両側から呼んでいるようなものなので、対立軸は大きく道徳か経済かだったということになろう。先程引用した町山氏の記述とは大きく異なっているような気もするが、先に進む。

町山氏はここで「道徳」の中身は中絶とゲイへの反対だと言う。「具体的には」と挙げたなかの幹細胞研究がすでになくなっていること、ゲイ結婚への賛否がゲイ自体への反対に置き替わっているようにも読める点が注目されるが、後者は単に繰り返しを避けたのかもしれない(ということにしておく)。前者は、確かにつながっている問題ではあるものの独立性は高いはずである。次第に議論のポラライズが行なわれている様子を確認することができるのではないか。ともかく、問題はこの町山氏の把握が正しいかどうかだ。

確かにそれらが含まれているだろうことは否定できない。しかしたとえば、「政治家は金銭的にクリーンであるべきだ」とか、「嘘をつく人間は信頼できない」とかいう意見は、どこに入るのか。前掲の選択肢から選ぶとすればそれは、「道徳的価値」しかないのではないか。Most Important Quality(もっとも重要な資質)を見ると、「宗教的信念」と答えた人の大部分(91%)はブッシュ氏に投票しているので町山氏の見方を裏付けるように見える。しかし「宗教的信念」に基いて選択した人は全体の8%に過ぎない。ブッシュ氏を支持した人が重視しているのは「強いリーダーである」(17%)こと、「明確な立場がある」(17%)こと、そして「正直であり、信頼できる」(11%)こと、つまりより世俗的な価値であると思った方が良い。なおケリー氏を選ぶ理由は「変化をもたらす」(24%)が最高。「人に気を使う」(9%)、「知的」(7%)であるとは思われているものの、本人の人格的魅力はほとんど評価されていないと認めなくてはならないのではないか。いずれにせよこの問題は、よくある「ココロかカネか」の選択に過ぎないと位置付ける方が妥当だと思われる(日本の選挙で言う「政治家に倫理観を求めますか?」というのだって英語にすればMoral Valuesだろう)。ここまではっきりと支持が割れていることをどう考えるか、その方がよほど面白い。

ただし町山氏は「CNN他のアンケート」と書いており、それがこの出口調査であるかどうかはわからない。彼はそうだとも、そうでないとも書いていない。これとはまったく別の調査を元にしている可能性は十分にあるが、しかしその出典が明記されているわけでもない。だから私は町山氏が嘘を書いたとは決して言えない。そこが巧妙なところではあるだろう。ともあれ、町山氏が別の調査を元にしたのならCNN出口調査とのズレは興味深く、その背景を探らないと氏の主張の裏付けもゆらぐ、とは指摘しておく。

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