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想像力について(1)

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さて地震と新幹線の問題で「私には物理はわからない」と書いたのは決して謙遜ではない。高校時代に選択したのは化学で、そちらには「東京理科大学理学部化学科合格」という(当時の)能力証明もあるのだが(そしてそのことを書くくらいには謙虚でない人間だというわけだが)、なぜ化学を選んだかといえばつまり物理がよくわからなかったからである。というわけで「ガル」とは何であるかとかそういったことについてはトラックバックされているotiak氏の説明などを参照されたい。ところで現場近辺では1300ガルという揺れが観測されている地点もあるそうで、そうなると重力加速度(980ガル)をはっきりと超えているので、もちろん力の方向にもよるだろうけどやっぱり浮くのかなあ。

「よくわからない」と書くのは別にプラトンを気取っているわけでもないのだが、やはり知らないものは知らないと書くのが良いことだと思っているからだ(「無知の知」)。第一に読者に対して誠実だし、第二に読者としては「じゃあ他のところはわかって書いているのかな」とそれ以外の部分について肯定的な判断をされるであろう(希望的観測)。そううまくいくかどうかはともかく、一部の嘘で全体の信頼性がなくなるという反対側の現象はよく観測されるところである。第三としては自分の能力不足を深く自覚することを通じて能力獲得や学習への意欲をかきたてるという効果も期待しているのであるが、そもそも勉強の障害になっているのが私の自覚不足なのか性格的問題なのか、それとも客観的な資源不足なのかは議論の余地のあるところではあるだろう。ていうか本読む暇よこせ

というわけで自分が偉いと主張する気はさらさらないのであるが、しかし「無知の知」を欠く人間が大手を振っているのを見ると、相対的にはやっぱり俺えらいのかなあという気がしてくるのが危険なところである。まことに罪の自覚をおのが心に刻むということは難しく、ひたすらに阿弥陀仏を深く頼みまいらせて念仏いたすべきことなり。

まあ私自身に関する宗教的告白はともかく、ようまあここまで恥を知らんと思ったのがコラム「記者の目: 上越新幹線事故の教訓」(毎日新聞)。詳しくは当該記事をお読みいただきたいが、つまり社会部記者の某氏が「耐震対策を検証しながら脱線防止の提案を試みた」ものである。

いわく、「車両のブレーキ性能を高め、短距離でも停止できるように改良する。(……)ブレーキ力を増して停止距離を短縮する」。通常それは「制動力」と呼ばれるものではないかと思うわけではあるが、もちろん車両が止まっても中の人間は(慣性の法則に従い)動き続けようとするので、ふっとぶことになるであろう。今回の事故に乗り合わせた乗客は「前の席に顔がぶつかるかと思った」と証言している。仮に非常ブレーキの制動力が今回より強い状態だったらこの乗客などは前の椅子に顔面を衝突させていたわけで、確実に負傷者を増やすことになったと言えよう。

無論筆者氏はその問題を理解している……「乗客は衝撃緩和のシートベルトを装着する」。ええと。もちろんまず(1)自動車のシートベルトすら締めない愚か者不精者が多いというのに、最短乗車10分程度の新幹線でシートベルトをきちんとする乗客がどのくらいいるかという問題が指摘できるし、(2)そもそも立席の乗客はどうするんだという問題もある。後者の解決としてはきっと定員着席を徹底させるのだと言うのだろうが、現在でもピーク時には乗車率200%を超える新幹線にそんな制度を導入したらどういうことになるか、少しでも考えてみると良い。回答例としては(a)運行本数を増やす、(b )運行時間を伸ばす(夜間に走らせる)、(c)他の交通機関(eg. 高速バス)に振り替える、といったくらいがあるだろうが、(a)東海道はもう限界だし他も2倍には増えないと思う、(b)騒音問題もあるし第一保線作業はどうするんだ、(c)もちろん高架が落ちたり運転士が酔っぱらいだったりする高速バスの方が危険な乗り物である上に環境汚染効果が高いという問題がただちに指摘できよう。

しかしそれ以前の問題として、そもそもシートベルトは怪我をしない・させない装置ではない。ベルトを締めたら慣性の法則が消えてなくなるわけではないのだから相変わらず身体は前に飛んでいこうとするだろう。シートベルトの効果は、その圧力をすべて腹部(2点式シートベルトの場合)に集中させることにより、致命傷となる危険性の高い頭部・顔面への受傷や車外放出を避けるところにある。逆に言えばそのとき、乗客は腹部に怪我を負う可能性が高まるということでもある。(自動車の場合)妊婦さんにシートベルト着用義務が免除されているのは、そのせいだ。装着方法が不適切だった場合には一般人の場合も内臓破裂の危険が高まるし、幼児などの場合は首にひっかかって窒息・頚椎骨折などの致命傷をもたらす危険性もある。シートベルトは「絶対安全」を保証してくれる夢の装置ではない。自動車の場合はそれでも、衝突の際にどの方向からどのような衝撃を受けるかが予想しにくい以上、最悪の結果を避けるためにはシートベルトという選択をせざるを得ないだろう。しかし何故、新幹線で?

連接構造を採用すべきとの提案もある。フランスのTGVがこの構造だが(古くは小田急ロマンスカーもそう)、連接車を採用すべきかどうかという点については国鉄系の研究所がすでに検討済みで、脱線防止という観点から大きな差はないという結論になっている。そもそも連接構造にしたところで脱線した車輪が自動的に元に戻るわけはないのだから、脱輪しなかった部分がそのまま線路上を走り続けてさらなる脱線を防止する効果が高いか、外れた部分が他の台車もずるずると線路外に逸脱させていく効果が高いかは条件によるとしか言いようがない。そしてこれはもちろん今後の検証を待たなくてはならないが、震源からの大きな衝撃を受けて車体が浮いたと思われる今回のようなケースでは、障害物(eg. 置石)のケースとは違って初期に (脱輪した車輪 << 線路上にある車輪) という関係が維持されていたかどうかわからないわけだから、最初の一撃で外れた台車が他の車両まで引きずりだして被害を拡大させた可能性も高い。

まあとにかくこの記者さんはそんな研究があったこともご存知ないのであろう。その程度で何を偉そうにご提案やら、と思うわけである。文系の素人が技術について口を出すなと言いたいのではない。しかしそれが素人のモノイイであるという自覚と、プロの技術経験の尊重を抜きにすれば、このようなトンデモ説を吹聴して恥をかく破目になるという一席であった。

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まぁ、どうでもいい話なのですがこういうケースもありますよということで。 おおやにき: 想像力について(1) さて地震と新幹線の問題で「私には物理はわからない」と書いたのは決して謙遜ではない。高校時代に選択したのは化学で、そちらには「東京理科大学理学部化学科合... 続きを読む

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