前の記事: Winny開発者逮捕 << | >> 次の記事: シロウトさんには理解しにくいことの二(2)

シロウトさんには理解しにくいことの二(1)

| | コメント(7) | トラックバック(3)

あ〜念のために言っておくと私自身はWinnyがどうなろうがどうでもいいです。使ってないし。著作者のインセンティブを侵害しないようなP2P技術が開発されるのが望ましいと思ってはいますが、「HIVの根本的治療薬が開発されるといいなあ」というのと同程度の利害関心しかありません(「現行著作権法と矛盾しないような」ではない点に注意)。

しかしこう、Winny騒動を見ているといかに法律(学)というものが一般に理解されていないかということを実感させられるわけです。まあもちろんこちら側(*1)のアピール不足という問題もたくさんあるわけですが、しかし社会問題についてご立派な顔で語ってみえる方々が極めて初歩的なポイントも外していたりするのを見ると、ど〜したもんかなと思うわけではあります。ちょっと具体的に見ていきましょか。(追記: それぞれは私が見聞きした意見を適当に抜粋再編したもので、原文ママではありません。)

プログラムの開発が罪になるならそう法律で定めておくべきだ。

別にプログラムの開発という手段自体が犯罪とされたわけではなく、違法行為の実行を助長するという目的のもとの行為であることが問題視されたに過ぎない。それ自体は合法的な行為でも幇助行為にはなり得る以上、あらゆる行為類型をあらかじめ「合法」「違法」と明示することはできない。場合によってはメシを食うという行為が殺人幇助になり得るわけですよ?(*2)

プログラムの開発という行為自体が違法でないというなら、犯罪とされたのは「意図」「態度」ということになる(47氏の「違法な」行為から、合法的な開発行為を引き算せよ)。これは思想良心の自由を定めた憲法に違反する。

まあ第一に行動として表現したら思想良心の自由の保護対象にはならないわけだが(「人を殺すべきだ」という思想に基づいた殺人は憲法により保護されるんですかね?)、それは置いておいて(「じゃあ表現の自由・学問研究の自由だ」とか言われるかもしれないし。この論点は別エントリで)。

結構気のきいた主張に見えるのですが、じゃあちょいと殺人から過失致死を引き算してもらえますか。結果としての「人の死」は共通ですから、答は「故意」になりますわな。じゃあ殺人を過失致死より重く罰するのは思想を裁いていることになるから憲法違反ですか。

正確に言うと、犯罪を考える際に重要なのは結果であって、行為の意図は考慮しないでよい・するべきでないという理論はある。「結果無価値」理論の一番基本的なアイディアは法益侵害という被害を生じさせたことを刑罰の根拠にするというものなので、殺人も過失致死も区別するべきでないということになる。この立場を取るなら「引き算」論は主張できるが、まあこう書けばそれが受け入れられなかった理由もわかるというものでしょう。我々の倫理的直観(*3)にいたく反するから、ですな。まあ対立する「行為無価値」理論も「犯罪を犯す意図があった」なんて内心の事柄をどうやって証明するんだよう、とか批判されるわけですが。

そこで当然双方の理論が改良を競っているわけで、例えば前エントリで書いたように「故意」は「結果発生の認識と認容」というより検証可能な形にパラフレーズされる。いやしかし「認識」だの「認容」だのってやっぱり内心の話なんじゃ? とかツッコミたくなると思いますが、理論対立の過程でさまざまに改良を重ねた結果もうわけわかんない状態になってるので非常に洗練された理論になっているので、私にはちゃんと説明できないですよ。とにかくまあ、シロウトが「それって内心なんじゃ?」とか言う程度ではどうにもならないエリアであるということだけ指摘しておきます(*4)。

ちなみに刑法38条(故意)は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」と規定しており、意思の有無を問題にすることを明確にしています。念のためね。

この摘発は、現在の著作権に対する批判を萎縮させる。

いや批判するのは自由なんだってば。手段が違法行為じゃいけませんよというだけのことで(念のために言うけど47氏の行為が違法かどうかはまだ分からない別問題)。目的が政治的主張だろうが経済活動だろうが芸術表現だろうが快楽の追求だろうが、犯罪に該当しない行為は等しく自由だし、該当する行為は等しく犯罪として扱われるのが正義が善の構想に優越するリベラリズムの基礎だと思いますよ?

Winnyは多くの人々が使っている。現在の著作権法がその人々を犯罪者にできるようなら、法律の方が間違っている。

そうかもしれませんな。ほとんどの運転者はスピード制限を守っておらず、現行の道路交通法はその人々をいつでも犯罪者にできるわけですが、それは法律が間違っているような気もします。しかしそれを決めるのは警察ではねえのですよ。国会がその法律を変えれば警察は行動を変えるでしょうし、裁判所が違憲無効判決を出せば適用しなくなるでしょうが、そうでなきゃ決まってる通りに動くのが仕事なんだから。

逆に言うと、明白に現行法に違反する行為なのに「多くの人がやってるから」「意図は善かったんだから」「社会的に有用だから」とかいう理由で警察が勝手に免罪したら問題でしょう。まあ現実にはそういう要素が決して払拭できないわけですが、だからこそそういうことはすべきでないと決めておかないと法的安定性もへったくれもない。

まあ殺人だの強盗だの強姦だのをする人も沢山いて、現行刑法は彼らをいつでも犯罪者にできるわけだが、だからといって間違いだということにもならんだろうという話もあるわけですけどね。その行為が許されるべきか否かという規範性の問題を、やってる人数という事実の問題に置き替えてスルーしようというのもどうかなあ(*5)。

この摘発はP2P技術の発展を阻害する。京都府警は技術発展の遅れの責任を取れるのか。

だから知らねえよってば。警察は法律があれば適用するのが仕事なんだから(まあ事実として資源不足なので何を摘発するかを選択しているというのは否定できないんですけどね。私がバイク盗まれたときには現場に来さえしなかったし)。政策的にどうするべきかとか、そういう話は国会に行ってしなさいよ。何かやりたいことがあって、しかし既存の法律とバッティングするという場合、普通は政党や役所を通じて法改正を働きかけるとか、可能になる法解釈を取り付けるとかするもんなんですよ。光岡自動車だって湯布院温泉の開発規制だって、ヤマト運輸の宅急便だって、さらには日本のインターネットだってそうしてきたんだから。

それはまあ法律は守るべきだというお説教の次元もあるだろうけど、それ以上に「違法行為」という烙印を捺されることがその事業とか分野の発展にどれだけ障害になるかというのがわかってるからでしょう。そういった手続きを全部無視して、しかも現行法上明白に違法な行為を強行したらどうなるか。こういうテクニカルな次元でしくじってるケースで「本質に話をそらし」てもろくなことないのにね。

(*1) おまえ本当に「こちら側」なのかとか問い詰めないでください。ええ所詮コウモリですようだ。
(*2) カレーライスに毒が混入されていることを知りつつ、被害者を安心させ当該カレーを食べさせるために、あらかじめ解毒剤を服用した上で当該カレーを食べてみせる行為、ってのは例としてどうか。共謀共同正犯か?
(*3) などというアヤしい代物を持ち出すのも気が咎めるのだが、「人民の多数の支持するところにならなかった」程度の意味に理解してくださいな。
(*4) ええ、私がわかんないんです。公法科ですから(逃げ口上)。
(*5) ああまるで誰か特定の人の話をしているかのようだ。あんまり立て続けなのもどうかなあと思うのですがまあ有名人だということでしょうな。ところでポルノの問題一般とチャイルドポルノの問題はまったく違いますよ。いい加減誰か叱ってあげた方がいいんじゃないですか。

Trackback(3)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: シロウトさんには理解しにくいことの二(1)

» Winny開発者逮捕について―おおやにきへのコメント(断片的日乗)~のトラックバック

この事件に関しては(先のイラク3邦人あるいは3+2邦人誘拐事件とは違って)ある種の不服従として理解する余地がありそうに思われる。その上で(法文に書いていないから逮捕は不当という議論はそのままでは役に立たないが)ドゥオーキンの市民的不服従論のように、〓 法 続きを読む

» Winny開発者は市民的不服従者か―おおや氏への応答(断片的日乗)~のトラックバック

(おおや氏の「Winny開発者逮捕について―おおやにきへのコメント」へのコメントに、コメント欄で応答したが、準備的とはいえかなりまとまった応答になったので、新しくエントリすることにします。) きちんとした応答を行う前に、一つだけ基本的な考え方を示しておきます 続きを読む

» [phil][jula] 倫理的直観(鰤端末鉄野菜)~のトラックバック

http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/000066.html comments: 「倫理的直感」ではないかともおっしゃいましたが、Anschauungでよいようで ... 続きを読む

Comment(7)

M さんのコメント (2004年5月15日 09:06):

スピード違反を改正しろとか非犯罪化しろなんていう奴はいないけど多くの人が現行の著作権に無理がある、改正すべきと考えるならまた別の展開があるんじゃないでしょうか?

otiak さんのコメント (2004年5月15日 12:33):

自動車の速度制限を緩和しろ、という話なら私もそう思いますし、そんなこと考えてる人間はいくらでもいるような。(オフトピック)
で、原稿の著作権法に問題があると考えるのであれば、「行動する前に法を変える努力をしろよ」って話だと思うんですけど、「別の展開」ってのは例えば何をさしてるんでしょうね。

著作権法にも問題があるとは思うけれども、より問題なのはコンテンツ業界(特に音楽業界)が消費者の利便を計って、もって収益を拡大するような新しいビジネスモデルを構築できていないということだと思うのですよ。いろんなところで語られているので今更ですが。

おおや さんのコメント (2004年5月15日 16:11):

実態に合わせて10〜20km/h増やすべきだ(その代わりわずかな超過でも実質的な取り締まり対象にしよう)という議論はありますな。有力ではないですが。>道路交通法

で「別の展開」ですが、社会問題化して著作権法が改正されるという展開なら、あり得るでしょうな。まあプロパテント政策が欧米でも強まってるなかで、著作権侵害に使えない(最低でも「非常に使いにくい」)ような安全機構を組み込んでいないP2P技術の開発を表だって合法と認めるような法改正ができるかというと疑問ですが、こんなのは政治的力関係の次元に過ぎません。改正を求める側が、プロパテント政策強化を求める人々(レコード業界とかね)よりも強い力を結集できればいいだけのことです。私自身プロパテント政策には反対ですからぜひ努力していただきたいと思います。まあ「国会に行っておやんなさい」ということですな。

ところでポイントは、そのように法改正を事後的にしたところで、今回の逮捕が「不当」ということにはならないという点にあります。現時点では現在の著作権法が有効なのですからね。それをひっくり返すべく裁判所で「別の展開」を起こそうというのなら、そりゃ人民裁判ですよ。立法と適用は峻別するというのが、本当に徹底は出来ないのですがだからこそ尊重されなくてはならない、法律の基本スタンスです。

kaito氏の言うことはもっともなのですが、音楽業界の人たちは本当に何が必要なのか理解していないようなので(まあ今回の著作権法改正を見てもね)、「音楽」というジャンル自体が他のアミューズメント(「携帯電話」とか「映画」とか)との競争に負けて滅びてしまってから新規まき直しするしかないのかなあと思うこともありますね。私の生きてるうちにそうなるかは知らんけど。

鰤@超殺伐 さんのコメント (2004年5月15日 16:34):

>倫理的直観

なにいってるかわからないよ……。orz
#私の手持ちの事典にはのっていませんでした。ていうか私が知っている概念枠からは絶対出てこない概念です。

法学では基礎用語なの? それならそれでよいので、そう教えてくだされ。

ところで某日の件はお返事いただいたのでしょうか。

akkin さんのコメント (2004年5月15日 17:55):

【直観】
推理を用いず、直接に対象を捉えること。
http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%C4%BE%B4%D1&kind=jn&mode=0

「倫理的感覚」と言い換えてもよいのではないでしょうか。

おおや さんのコメント (2004年5月15日 18:26):

あ〜Brittyさんは「直観」と「倫理」が結びつくことを問題にしてるんだと思いますよ。お答えですが、ええと、少なくとも法哲学界隈では結構使う言葉という気がします。法学一般でも使っている例があると思いますが、断言はしかねるかなと。

カントあるいはドイツ観念論的にどうかという話は、そういう事情でスルーさせてください。

鰤@回遊中 さんのコメント (2004年5月16日 19:14):

sensus comminus aestheticus が倫理性との関係で設定されるとか「美的理念は道徳性の象徴だ」とか、近縁性をみとめるのにはやぶさかではないのですが おいといて
 直観をそう使うのはやっぱ俗用だよな…(もにょ)

カント的というよりはもっと広いでしょうな。伝統的に知的直観は対象を一度に判然に把握する、というか神の創造力そのものですから。法学界隈の用語としてそういうものがあるのは了解しました。

Write Your Comment

October 2008

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

Monthly Archives