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Winny開発者逮捕
今日は一日、よく考えたら炭水化物しか食べてない(挨拶)。さて有名P2PソフトであるWinnyの開発者、通称「47氏」が著作権法違反幇助の疑いで京都府警に逮捕されるという事件があってあちこち盛り上がっているわけですが。
しかし知的財産法の観点から言うとこの事件は面白くないんだよなと。Winnyだろうが何だろうが他人の著作物をダウンロード可能な状態に置く行為が送信可能化権の侵害になるというのは明白で、かつ法文上その幇助犯が成立し得ることも明白なので。もちろん送信可能化権の侵害に刑事罰を課すことが望ましいかという論点はあり得るけど、それは現行著作権法の解釈とは関係のない立法論・政策論的な問題であるに過ぎない。まあだから、私のように情報化社会論と名乗っている観点からすると若干の関心対象にはなるのですがね。
今回のケースを一番興味深く見ているのは、多分刑法の人です。つまり法文から著作権法侵害の幇助犯があり得ることは確実としても、47氏の行為がそれにあたると解釈できるかどうか。私ゃ刑法のことはよくわからんのですが(公法科卒なのですよ)、まあ解説すべく努力してみるとこんな感じでしょうか。
まず今回は「幇助犯」なのだが、刑法62条では「正犯を幇助した者は、従犯とする。」とシンプルに規定されているだけなのでこの内容が問題になるところ、まず(1)犯罪の実行行為を容易にするなど助長したことであり、(2)積極的な行為(作為)であるか、あるいは特に作為義務の存在が認められれば不作為(行為しなかったこと)でも成立するが(争いあり)、(3)幇助への故意を必要とする(過失幇助の処罰規定が存在しないから)。ここで「故意」とは何かという問題があり、それこそややこしいのだがまあ(3a)結果発生を予測し認識していながら、(3b)積極的にその行為を遂行したか、または結果発生を認容した場合(未必の故意)と置き替えることができる。さてそこで今回の事件を見てみよう。
(A) 「正犯」は何なのか。
実はこれが一番の問題で、もちろんWinnyを使って犯罪を実行した人間は山のようにいるわけだが、(A1)そのうち特定のものを正犯と考える場合、(A1a)当該行為を事前に47氏が認識して具体的に助長し、正犯も幇助行為の存在を認識していたと証明するつもりなのか(これがあれば確実に幇助が成立するが、どう考えても難しいというかあり得なさそう)、(A1b)当該行為を事前に47氏が認識して具体的に助長したが正犯の側では気付かなかったと証明するつもりなのか(片面的幇助は認められるが、やはり証明は難しいというか事実としてなさそう)。あるいは、(A2)正犯を特定せずに「誰かがいつかどこかで犯罪を犯すだろう」という認識で行為したことを幇助と考えるのか(概括的幇助)。
(A2)は証明できそうなのだが、このような概括的幇助が刑法上認められているかが不明である。というか認められた判例はおそらくなく、明示的に書かれていない犯罪類型を認めるのは刑法的に相当の禁じ手なので、法廷で争うと通らないのではないかという気が多分にする。そこで、京都府警が(A2)が通ると思って暴走しちゃったのか、地検と相談したところ(A2)が通るという見通しを持てたのか、47氏と談合して法廷で争わないという結着に持ち込むつもりなのか(略式起訴で罰金刑とかいう筋書きなのか)、それとも(A1a)か(A1b)を証明する材料を持っているのか……くらいの推理が成り立ち、でまあそれ以上の材料がないので成行を注目しているわけです。
(B) 故意の存在が認められるか。
もう一つの論点がこれで、もちろん最終的には裁判官がどう判断するかで決まるのだが、どうも警察側は立証に自信があるらしいというくらいしか言えない。ここのロジックは助長した行為を(B1)開発・公開という積極的な行為(作為)と考えるのか、(B2)作為義務があるのにしなかった(不作為)と考えるのかで違ってくる。
(B1)の場合、しかしWinny自体は犯罪にも使えるものであってもにしか使えないものではないので、犯罪に使われることを予測し認容していたとどう証明するかが問題になる。その意味で本件は「拳銃を売った」よりは「包丁を売った」例に近い。もちろんたとえモノが包丁(合法・違法どちらにも使える)であったとしても、違法に使われることを知りながら認容した場合には幇助に問い得るが(「人を殺しに行くんです」と言われたのに包丁を売ったら幇助は成立する)、そこまでの明確な故意が証明できるか。開発前の発言がある程度使えるが、一方readmeには「違法には使うな」と書いてあったらしく、すると47氏が「予測していなかった」「認容はしていなかった」と言い張ると争いになるなあ、という印象である。
そこで警察等の発言を見ると、おそらく(B2)を取るのではないかという感じがする。この場合は開発・公開自体は問題とせずに、(B2a)それ以降の時点で違法行為に利用されていることを認識しており、(B2b)被害発生・拡大を予防できる立場にいながら、(B2c)そのような措置を取らなかったことを作為義務違反と構成することになる。警察側がWinnyの改良を繰り返したことを指摘しているのは、改良する能力があったのに、その際に被害発生を防止しなかったという主張を意識しているのではないかと。
不作為犯構成の場合の問題は、作為義務の基礎となる「被害発生を予防すべき地位・立場にあったこと」をどう説明するか、また予防措置を取ることが不可能だったという主張をどうするかという点にある。47氏としては公開したものがどう流通するかはわからないし、犯罪に利用されることを知ったとしても流通を阻止することはできなかったと主張してくるだろう。
この点について民事ではニフティサーブ事件がある。名誉毀損発言をただちに削除しなかったことにつきパソコン通信の管理者の責任が追及された事例だが、東京高裁は発言削除によって被害拡大を防止できることを根拠として管理者の作為義務を条理に基づいて肯定し、ただし作為義務は問題解決のための真摯な努力を行なっていれば足り、ただちに削除する(被害拡大を完全に阻止する)というまでのレベルを要しないと判示している。この基準を今回のケースにあてはめれば、47氏には被害拡大を防止するための真摯な努力をする能力があったにも関わらずそれを怠ったと言うことはできそうである。
もちろん以上は民事事件の例なので、刑事で「条理による作為義務」なんて簡単に認めていいのかという主張は十分に成立し得る。まあ私には「この辺が争点だろうなあ」と目途をつけるくらいまでしかできないので(どっちが有利かまではさっぱり)、あとは見守るだけなのですよ。
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「Winny」開発者のタイーホに関する論評が遂に
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッー!!
以下は読売新聞の掲示板に投稿しましたがボツの可能性が高く、関係先らしきところにも勝手メールしております。
「Winnyの勝利!」
逆説?なんて思うあなたは甘い!
47氏の逮捕でWinnyの命運も尽きたか、とはきまるりもいったんは思ったんですが、本日、久しぶりにWinnyを起動させるととんでもない現象がおきてるではないですか!
何とクラシックの合法ファイルが結構なボリュームでアップロードされているのです。クラシックの作曲家はことごとくと言っていいほど、とうの昔に鬼籍に入っています。そして法の保護する演奏家の権利は、演奏後(正確にはレコード発売後?)50年となります。というわけで、オールドファンには懐かしいフルベン、トスカニーニ、ラフマニノフ(指揮者としてです)、ワルター、カザルス、シュナーベルといった面々の演奏するベートーベンやモーツアルトがWinnyにアップロードされています。懐かしの名演奏がネットからタダで、もちろん京都府警のお手を煩わすことなくダウンロードできるんです。
著作権切れの作品を合法的に楽しめるサイトとしては、文学作品で「青空文庫」、クラシックでは「クラシック音楽へのおさそい」がありましたが、インパクトとしてはWinnyへのアップロードに勝るものがあるとは思えません。特にクラシックの名演奏は毎年アップロードが増えていきます。
京都府警のおかげで、Winnyは確実に日の当たる世界に飛び出すこととなりました。47氏の意図は図らずも、氏の逮捕によって実現が早まったんじゃないかと思いますが、皆さんどう思われますか?
ネットの機能を革命的に強化するWinnyを誰が救うのかと思いましたが、たぶん私を含むWinnyのユーザーが救うんでしょう!
合法ファイルのアップロードとダウンロードがどんどん増えれば、47氏に対する公判維持も?の気がしますが、法曹界の方の意見も聞いてみたいです。
>この基準を今回のケースにあてはめれば、47氏には被害拡大を防止するための真摯な努力をする能力があったにも関わらずそれを怠ったと言うことはできそうである。
この点疑問に思うのですが
具体的に何をすべきだったというのでしょう?
彼にできることは違法行為を行わないことを呼びかける事のみではなかったかと思います。
その意味で彼は真摯な努力を行っていたと言い得るのではないでしょうか
「スーパープログラマー」ならば違法行為を不可能にするような機能を搭載できたはずだという幻想がまかり通っている気がします。
機械的に著作権に違反する複製を禁止する機能などほぼ実現不可能であると思います。
匿名の通信手段を開発すべきでなかったというのならその主張は言語道断であると思います。
>おや痔さん
その顔文字を書き込みたかっただけとちゃうんかと問いたい。問いつめたい。小一時間ほど(略)
>きまるりさん
これは応答を求められてないよねえ。自分のウェブページなりweblogなりでお書きなさい、という気もするわけですが。
一点だけ。Winnyの合法的な利用を促進されるのは非常によいことだと思いますが、それで著作権のあるコンテンツをアップロードしたユーザの行為の違法性がなくなるわけではありませんし、その行為の従犯とされる47氏の行為の違法性が影響されるわけでもありません。「包丁か拳銃か」論で包丁である(合法にも使える)という主張を強化する役には立つでしょうが、書いた通り重要なのはおそらく、包丁だが違法に使われるという認識があったかどうか(故意の有無)なので法的にはあまり関係ないと思います。もちろん政治的な効用(P2Pって悪いことするだけの技術じゃないのねっ!と裁判官が実感するようになる、とか)はあり得ますがね。
>常さん
あたしゃ知りませんがな、言うのは警察・検察なんだから。上記はそういう主張が成立しないとは思えない、という程度の意味です。
その上でまあ参考までに考えてみますとね、「違法行為をするなと書く」「『違法行為をしてはいけない』というダイアログを出し、確認のクリックをしないと先に進めない」(CD焼きソフトはこのくらいですね)「検証可能性を確保するためにログをどこかのサーバに保存するor個々のマシンに保存して消せないようにする」「匿名性を制限する」「対策の取れていないバージョン、あるいは全バージョンの公開を停止し、削除を呼びかける」みたいな感じでしょうか(Winnyでこういう対処がされていたかどうかは知りません。次エントリで書いた通り私は使ってませんから)。問題は「真摯」という態度ですから、どこまですればOKという問題ではなく、できることをしたかどうかが問われます。
ニフティサーブ事件の場合は、(1)問題箇所を特定すれば削除すると表明する(原告側が特定しなかったために実際には削除されず)、(2)問題発言をやめるよう発言者に直接注意する、(3)事態について公開の場で説明し議論を促す、などの措置を管理者が取ったわけですが、それでも第一審では作為義務違反がある程度認められました(控訴審では認められず)。今回の47氏の例では匿名で公開したという時点で説明責任を果たす気があるのかどうかという点にかなりネガティブな推定がされてしまうでしょうから、「真摯な努力」とはとうてい認められないであろうという印象があります(ただし以上は民事の例ですから、刑事事件にそのまま適用されるかどうかはまったく不明です)。
まあしかし安全策を追求していくと「機械的に著作権に違反する複製を禁止する機能などほぼ実現不可能である」以上(同意しますが)、公開すべきでなかったという議論は必ず出てきますわな。「言語道断」と言われますが、それは常さんの価値判断です。反対の価値判断をする人も必ずいるでしょう。ところで向こうには著作権法によって認められた実定的な権利があります。それに対抗するためには匿名性が法的に守られるべき価値であるという議論を構築しないと、対等の土俵で争うことすらできませんよ。
おおやさま
ご返信ありがとうございますm(__)m
>あたしゃ知りませんがな、言うのは警察・検察なんだから。上記はそういう主張が成立しないとは思えない、という程度の意味です。
はい、私の筆力の関係で疑問形になってしまいましたが業界の人?のご意見を伺ってみたかっただけで他意はございません。筆力の無さをご容赦願います。
法律とか完全に素人なもので勉強になりました。
「言語道断」確かに言い過ぎてしまった気がします。
ええと、表現の自由からの二次的な権利として匿名の通信をする権利があるという主張での対抗が(素人の意見として)正当性があり勝機のある展開ではないかと思ったしだいです。
>常さん
二重になった分は消しときましたよ〜。表現の自由、あるいはより直接的に通信の秘密など憲法的な論点からの主張は可能です。しかし著作権法のようにそのものずばりの条文というわけではなく、一般原則から異論のあり得る解釈をしなくてはならないので、「弱い」(通るかどうかという観点では確実性が低い)と見ます。
弁護団がきちんと結成されたようなので憲法論からの主張もするでしょうが、より具体的な論点(刑法上の故意概念・幇助概念)で争えるケースなので、そちらが主軸になると予想しています。警察側に隠し玉がなければ、ということにはなりますけどね。