新書2冊

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モンゴルからの帰りに読んだ新書2冊。期せずして歴史関係ですが。

  • 長山靖生『日露戦争: もうひとつの「物語」』新潮新書、新潮社2004。
  • 小田中直樹『歴史学ってなんだ?』PHP新書、PHP研究所2004。

長山。日露戦争前後の新聞報道や架空戦記を通じて、事実の「語られ方」、つまりものごとが人々のあいだでどのように語られ・受容されていったかを探っている。その語られ方が「物語」で、つまり著者は人々が受容していく過程で情報がどのように変容していくかに関心があるわけですな。その意味では『偽史冒険世界』の延長にある作品ではないかと。事実や作品の掘り起こしについては安心して興味深く読めます。

日露戦争と太平洋戦争というのはしばしば対比させて論じられるわけですが(日露では捕虜を丁寧に処遇した日本が何故二次大戦では虐待してしまったのか、とかそういう文脈で)、もちろん架空戦記の変貌などを通じてはそういう側面も指摘されるものの、ある種の共通性というか、両者に通底するものの存在も読み取れるように思う。例えば二六新報に関わる「露探」疑惑では、根拠となる事実も存在しないのに憶測が憶測を呼んで自己肥大し、最終的に被害者を出してしまう。しかもそれについて当時のマスコミや政治家たちがあるいは沈黙し、あるいは積極的に物語の肥大に荷担していく。「世間」とか「空気」と呼ばれるものの構造と、言論人たちがそれに抵抗できない・しない情けなさというのはこの当時からあったのだなと。

小田中。結構期待はずれ。社会経済史の専門家である著者が、歴史学史研究を踏まえて歴史学の性質と有用性について論じた本で、従軍慰安婦論争と歴史学の関係を取り上げて論じているあたりは意欲作なのではあるのですが、う〜んちょっと科学哲学の観点からはナイーブすぎる議論かと思います。例えば「史料批判などによって『コミュニケーショナルに正しい認識』に至り、さらにそこから『より正しい解釈』に至ること、これが歴史学の営みです」(81ページ)とか書かれると、そこで言う「より正しい」というのが誰の・どのような「正しさ」か、というのが問題になると思うわけです。クーンのパラダイム論は踏まえていて、通常科学としての歴史学という枠組を提示してはいるわけですが、観察の理論負荷性の問題をどう考えるかとか、コミュニケーショナルな・比較の問題としての「正しさ」でいいという基準自体の「正しさ」はどこから出てくるのか、と。

歴史家自身の観点から歴史学という営為を誠実に検討し、極めて健全な結論を導いているという意味ではまっとうな本ですし、新書でさらっと読むには悪くないとも思うのですが、そういうわけで理論的観点からはあまり評価できない作品です。これを読んだあとに伊勢田『疑似科学と科学の哲学』を読むと面白いかもしれませんな。

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抵抗しないつか、当時の言論人、世界情勢踏まえてなくて開戦前からいけいけどんどんじゃん>帝大教授桂首相自宅押しかけ事件等

先生つめあまいです。てか orkut.com で
「ルーンクエストまだやってる人いる?」トピック
たってますぜ。

う〜んもちろんそういう言論人も一杯おるのですが、そうでなかった人もおるわけで、「言論人はこうだった」とか単純化するとやっぱり罠にはまりますぞ。幸徳秋水とかいややっぱりそれはそれで世界情勢踏まえてなくて夢想的な平和論なのですが。

面白いのはやっぱり二六新報の露探疑惑で、結局証拠なんか何一つないんだけど世間がこれだけ騒いでしまっている以上何もなしでは済まないとか、この際にライバルをけ落とそうとか、そういう事情で詰め腹を切らされることになる。結局持ち出された事情が「疑惑を持たれたこと自体が不届き」という、お前は江戸幕府の旗本かというものだったわけですが。

このへんまあ、最近の企業不祥事における謝罪文化とかとうかつにつなげると簡単につながってしまうわけですが、慎重にやらないと頭悪い日本文化論が一つできるだけなので、とりあえずこのへんで。

10日ぶりに郵便ポストを開けたので夕刊だけでかばんが一杯になりました。思考の縮約は危険だぞというのはそのとおり。露関係は正教会がらみでも色々ありまして、初代主教のニコライさんはともかく、二代目主教のセルギイ府主教は事実上日本政府に辞任に追い込まれています。スパイ疑惑があったらしい。まあその辺は文献もありますので、って当然大屋先生はチェックしてはりますわな。

名古屋教会は結構大手なのでよろしければ是非一度どうぞ。勧誘とかじゃなくて、祭儀空間として密教系仏教と通じるもの有り&てかヘレニズム文化とヘブライ文化が混交するとこういう風になる、ってのが面白いところです。

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